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なんだかんだ言って、お似合いの2人のようです。
しおりを挟む連れて行かれた先は会社近くのコンビニで。
2Fがイートインになっていたが、彼女は何も買わずにドカッとそこに座り、ドサッとテーブルにカバンを置いたかと思うと、これ見よがしに脚を組んだ。制服をマイクロミニに改造しているらしく、恐ろしく短いスカートがフワリと広がりどぎついピンクのパンツが丸見えだ。
「あの、パンツめちゃ見えてるけど。それって見せパンなの?」
「は?!勝手に見ないでよね、オバサン」
そんな暴言を無視して私は席を立つ。
「ちょっ、どこへ行くつもり?!」
「何も買わずに店舗内の施設を使うのは申し訳ないから、何か買ってくるわ」
「いいのよッ、そんなの買わなくても!私はいつもこうしているけど、誰も文句を言って来ないから」
「そういう恥ずかしいことをよく平気で言えるわね」
「なっ、何が恥ずかしいのよッ」
「無知なフリで対価を支払わないんでしょ?このスペースは無料じゃない。店内で商品を購入した人のみ使用出来ると知っててお金を出さないことが恥ずかしいの」
「なっ、何よ、善人ぶって!」
「そこに善人か悪人かは関係ないわ。私はそんなに面の皮が厚くないから、当たり前のことをしたいだけ」
『でもでも』とまだ反論してくるので面倒臭くなってそのまま1Fへと降り、ホットコーヒーとエクレアを1つずつ購入した。そして不貞腐れて待っている彼女の元へと戻り、無言で食べ始める。
「何それ?!なんで私の分も買って来ないの?」
「名前も知らない人に買う義理は無いわ」
…たぶん清春くん絡みなのは分かっている。何故なら彼と同じ高校の制服を着ているからだ。それにしても会社前で待ち伏せし、問答無用で腕を掴んで連れて来るなんて乱暴すぎじゃなかろうか?それに高校生の分際で、髪は茶色いしメイクもバッチリ。こんな派手な格好、教師は注意しないのかな。
「ったく、これだからトシは取りたくないのよ。オバサンってほんと色気より食い気なんだから」
「労働してきたから血糖値を整えないとね。そんなことより早く用件を言ってくれないかしら?」
「私、17歳なのよ」
「へえ、そう」
「見て分かると思うけど、可愛くてモテるの」
「はいはい」
「モデルの仕事だってしたことあるわよ!」
「はいはい」
なんだかもう相槌を打つのも面倒で、スマホを取り出して操作し始める私。
「オバサン、失礼過ぎない?人が話してるのにスマホを触り出すなんて」
「別に?私ね、相手に合わせて態度を変えるの。さっきからアナタも相当失礼だと思うわよ」
「ちょっ、ああもう、じゃあ本題に入ります!早く清春と別れて!!アイツは私の男なのっ」
「はいピース!」
素早く撮影し、LINEで清春くんにその画像を送信した。
「な、何してくれてんのよッ?!」
「清春くんに報告したの。変な女子高生に絡まれていますって」
「はっ?!そんなの卑怯だしッ」
「あ、返信届いた。今から来てくれるって」
そんなワケで自称・彼女と私は、無言のまま30分も待ち続けたのである。
「…美晴さん、ゴメン遅くなって」
「あ、清春くん」
あまりにもヒマだったため電子書籍で漫画を読み始めたところ、それが予想外に面白かった。なのでこの現状よりも主人公の行く末が気になってソワソワする私。
「清春!良かった、やっと会えた~」
女子高生の甘い声に清春くんは顔をしかめる。
「綾音…いったいお前、どういうつもりだ?」
「清春が悪いんだよ。私に断りもなく婚約って」
…その漫画のあらすじはこうだ。会社の上司が実は御曹司で、両親からの執拗な見合い攻撃に辟易して部下である主人公のOLと契約結婚する。主人公は早くに両親を交通事故で亡くし、弟が医大を希望したため、学費を稼がなければならず。お金と引き換えに1年間の結婚を承諾したが、同居していくうちにお互い恋心が芽生えていく。
「なんで綾音に伺いを立てなきゃいけないんだ。お前、何か勘違いしてないか?」
「えっ、だって、私が清春の彼女なのに?」
確かによくある設定だ。でも意地っ張りな2人のやり取りが堪らなくて、胸がキュンキュンする。うーん。次頁あたりでベッドインするのになあ…俺様上司と不器用女って王道の組み合せだよね。
「いつ彼女になったんだっつうの」
「だって、いつも一緒だったじゃん。毎日スキって伝えたよ?清春も嫌がらなかった。本気で嫌だったら避けたりするはずでしょ?!」
「そんな面倒臭いことするかよッ。俺、最初にキッパリ断ったはずだぞ。『付き合う気は無い』って。それに一緒にいたって、その他大勢も一緒だろ。お前と2人っきりみたいな言い方すんな!」
>「どうしてそんなに優しく触れるの…」
>「バカ、俺はいつでもこうだよ」
きゅ、きゅーん。
コッソリとスマホを操作し、次頁を読む私。
「って、オバサン、余裕ぶっこいて漫画読んでんじゃないわよッ」
「おいこら、誰がオバサンなんだ?美晴さんを侮辱すると俺が許さないぞ」
仕方なく私はスマホを一旦テーブルに置き、この会話に参戦することにした。
「いいのよ、清春くん。17歳から見れば25歳はオバサンだもの」
「でも、俺にとって美晴さんは大切な女性で…」
「いいじゃん、オバサンがそう呼んでいいって言ってくれてるんだからッ」
そうだ、何かで女優が言ってたな、…私はあの言葉が大好きだった。
「昔は私も若いということが自慢だったけれど、それ以外、何も誇れることが無かっただけなの。若くて無知だったあの頃には戻りたくない。私は年齢相応に見られたいわ。老けてからシワ取りをしたりして、必死で若作りする人もいるけど、そうはなりたく無い。だって色々なことを知り、経験豊かになって、それが外見に滲み出るのだから。
なのに、どうしてその姿が恥ずかしいの?薄っぺらい人間ほど、老いを取り繕う。でも、それは自分の人生を否定しているも同じだわ。女の年齢はダイヤモンドと同じで、時間を重ねれば重ねるほど輝きを増す。老いることは決して怖くない。私、いまの自分が嫌いじゃないし、きっとこれからの自分も好きだと思うのよね」
そう言い切る私を、清春くんは突然抱き締めた。
こんな場所で、人が見ていると言うのに。
しかし私はこういうシチュエーションが嫌いでは無く、むしろ大好物である。そして、もっと好きなのはそれを嫌がっているフリをすることなのだ。そう、『愛されちゃって困っている私』をさり気なく演じるのが大好きだ。
>ちょっと見てよあのカップル。
>かなり年齢差ありそうだけど、
>溺愛されてる感じだよね。
>嘘~、ドラマの撮影とかじゃないの?
>だって2人とも美形だもん。
ヒソヒソと噂されているが、どうやらどの内容も肯定的な感じだ。満を持して私は呟く。
「やだもう清春くんったら。人が見てるでしょ」
「だって…。美晴さん、カッコ良すぎ。俺、また惚れ直しちゃったよ」
げへへへ…へっ??
デレデレモードがその瞬間、一気に冷めた。何故ならそこに専務がいたからである。胸元あたりにある清春くんの両腕を静かに外し、私は厳かに挨拶した。
「専務、お疲れ様です(キメッ)」
「ああ、邪魔して悪いね。どうしてもコレが食べたくてさ」
唐揚げ…。
そう言えば以前、大学生の息子さんから1つ貰ってその美味しさに驚いたとか騒いでいたな。そんで、専務室で食べて周囲の人々から『臭い』と叱られていたっけ。
残念なことにいつの間にか満席だったので、キョロキョロと空席を探している専務にこう言うしか無かった。
「あの、専務、宜しければこちらにどうぞ」
「あ、えっ、いいのかい?」
そう言って腰を下ろした専務は、ウキウキとそれを頬張っている。
「羽村さん、彼氏かな?」
「あ、はい。こ、婚約者の藤井清春さんです」
『初めまして』と挨拶する清春くんに、専務はハムスターのように頬を膨らませながら返事する。
「ああ、どうぞ遠慮なく。噂には聞いているよ。実はウチもね、奥さんが10歳も年上でさ。他人とは思えないんだよなあ」
「じゅ、10歳も…ですか」
「職場の先輩だったんだけどね、新入社員だった俺の教育係だったワケ。いやあ、こっちは2人とも社会人だったけど、結構酷いこと言われたぞ~。俺はマザコンってあだ名になったし、奥さんなんか陰で色ボケババアとか呼ばれてさ。…でも負けなかったね。たぶん逆境に強いんだよ、俺。
見返してやるって燃えて、仕事しまくって、お陰で専務にまで上り詰めちゃった。生きていく上で多少の雑音は必要なのかもな。ぬるま湯生活に慣れると、成長しないから。だからキミたちも頑張って」
専務…スキ。
人を傷つけるのが人ならば、
また、人を癒してくれるのも人なのだ。
幸い、私の身近にいる人たちは良い人ばかりで。ひょっとして傍にいて私に関する情報を詳しく知っているからこそ優しいのかもしれないし、人間とは元々そういう習性を持っていて、近ければ近いほど味方になろうとするのかもしれない。とにかく自分が恵まれていることだけは確かだ。…そんな思いで専務に向かって頭を下げた。
「有難うございます、専務。2人で手を取り合い、日々邁進する所存で…」
「固い、固いなあ、羽村さん!そんなに身構えなくても大丈夫だよ。生きていくのなんて案外簡単なんだぞ、息を吸って吐けばいいだけなんだから。後は寝て起きて、食べて、出して。そこに好きなものが加わったら最高だよね。嫌いなものは見て見ないフリしちゃえ。あまり頑張り過ぎると、長くは続かないよ」
やっぱり、専務…スキ。
それから私と清春くんは一礼してその場を去り、いつもの喫茶店へと向かった。
「先人たちの苦労話は、時々有り難いよね」
清春くんがそう呟き、いっぱしな事を言うその姿に私は思わず笑みを溢す。この人はまだまだ若い。でも、きっと18歳にしては早熟で、私の年齢になる頃には素晴らしい男性に成長するだろう。
「急いでオトナにならなくてもいいよ。私が今、好きなのは18歳の清春くんだから。来年はきっと19歳の清春くんを好きになるし、再来年は20歳の清春くんを好きになる」
「ぷぷっ、美晴さん、俺のこと好き過ぎだよね」
不安要素はゼロでは無い。
待ち続けた挙句にこの人が他の女性へと目移りする可能性だって有るし、そんなことを言っていたら私の方も同様だ。だから私は魔法をかける。優しく甘い言葉でぐずぐずにして、私無しでは生きられないようにしてやるのだ。
「うん、好き。大好き。清春くんがいないともう生きていけない」
「うん、俺も。美晴さん…大好き。絶対に離さないよ。だって俺たち運命の糸で結ばれているんだから」
…もしかして私たちは似た者カップルで、清春くんも同じことを考えているかもしれない。
だってこの人の優しく甘い言葉に
私はもう、ぐずぐずで。
離れることが出来なくなってしまったからだ。
--END--
────────────
※これにて完結です。最後までお付き合いいただき有難うございました。ちなみにチラリと紹介した電子漫画は、『かりそめマリッジ』というタイトルの別作品でして。いつかこちらでも公開できたら良いなあと思っております。
応援ありがとうございます!
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