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素顔を晒したヴェロニカ
しおりを挟む『社交的になれ』というアラン公爵の言葉は、確かに納得出来た。
ケヴィンとの未来を夢見るにしても、このままアンドリューと結婚することになっても、どちらにせよ人との繋がりを軽んじてはならない。ローランド家は商工業を営んでいるのだから、人との関わりが巡り巡って家業を安定させるに違いない。
幾ら愛する人からの頼みだったとは言え、誰とも口を利かずに過ごしていた日々が悔やまれる。ここで信頼出来る女友達も作れたはず…いや、過去形にするにはまだ早い。この学院を卒業するまでにまだ2年以上残されているのだ。今から頑張ればきっと間に合うのではないか。
そんな期待を抱きながら、颯爽と教室に入った。
授業が始まると綺麗に男女で分かれてしまうが、それ以外の時間はむしろ仲良く入り混じって会話している。この国では王族のみが一夫多妻制を許され、それ以外は一夫一婦制だ。高位の貴族であろうとも恋愛結婚が主流なので、舞踏会などでお相手を見つけるのが一般的だと言われている。しかし、実際はその舞踏会よりも先に、こうして学院生活で目処を付ける者の方が多い。
だからこそ、相手の人柄を知ることが出来るこのひとときは皆、必死なのだ。そう、私みたいに政略結婚させられる令嬢は非常に稀で、呑気に話し掛けてしまうと恋路を邪魔することにもなりかねないのである。
「ふう…、どうすればいいかしら」
取り敢えずいつもの席に荷物を置き、目だけキョロキョロと動かしてみる。すると、そこにアンドリューがやって来た。慌てて笑顔を貼り付けながら『おはよう』と挨拶すると、何故か無言のまま視線を逸らされてしまう。
もしかして先日のやり取りは長い前振りで、私を揶揄っていただけだったのか?『お前なんか相手にするはず無いだろう、何を本気にしているんだ』と嘲笑う為だけにあそこまで褒め千切ったのだとすれば、むしろ感服する。
そんなことを考えながら無意識にアンドリューを見つめていると、彼は頬を染めつつも私に背を向けた。
「クソ、はあ…、無理だ…」
「えっ?アンドリュー、何か言った?」
返事は無く、背はこちらに向けたままだ。
そうこうしているうちに、いつの間にか私の周りを囲み、一方的に話し掛けてくる男子生徒達。
「キミは編入生?名前を訊いてもいいかな?」
「是非、僕にこの学院の中を案内させてくれ」
「なんと艶やかな黒髪だ。触ってもいいかい?」
この人達は…アンドリューの取巻きで、私を貶めることに天賦の才を発揮する三人組だ。こっちの赤毛の男はいつも私の足を引っ掛けて転ばせようとしてきたし、こっちの巻き毛の男は私がいると空気が澱むと言い切った。こっちの長髪の男なんて、私の髪に蝋燭の火を近付け、燃やすフリをして嗤っていたほどなのに…。
いったい、どうしてしまったのか?
もしかしてこれも嫌がらせの1つなのでは?だとすれば随分と手の込んだことをしてくれる…ということを考えていたせいで無言になってしまったのだが、ここでアンドリューに寄って会話が遮られた。
「俺達を2人きりにしてくれないか?」
おれ…たち。それは貴方と私のことですか?という意味を込め、私はおずおずと自分を指差してみる。
「そうだ、当たり前だろう」
返事の代わりに瞬きを繰り返しているうち、三人組は薄ら笑いを浮かべながら去って行く。その後ろ姿を眺めながら私は、恐る恐るアンドリューの方を見た。
「おはよう。あのな、ヴェ…」
「おはよう!2人とも随分と早いな!!」
朗々とした声に振り向くと、そこにはレイモンドが立っていて。勿論、その隣にはケヴィンもいた。
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