そんな女のひとりごと

ももくり

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14.崩壊の夜

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喜三郎さんに『面倒を押し付けてゴメンね』と平謝りされたまま電話を切り。私は何も考えず、本能のまま動き出す。とにかく課長を慰めたい。あんなショボクレた姿の課長なんか見たくない。

それから暫くして私は、リビングのソファでボケッとする課長の前に、おにぎりを2つ差し出すのだ。

「…何?」
「牛すじカレーが美味しく出来たんです。だから、課長に食べて欲しくって」

「バカ言え、おにぎりじゃないかコレ」
「中身の具は牛すじカレーですよ」

「ざ、斬新だな、おい」
「ええ、ですから下の方は染みてます」

一瞬だけフッと笑みを浮かべ、課長はそれを一口食べる。最初は恐る恐るという感じで。それが二口め、三口めと食べ進み、アッという間に完食してしまう。

「ふっ、なんだコレ、旨いな」
「…でしょ?見た目は残念ですけどね。味はなかなかのモノかと」

おにぎりの話のつもりだったのに、ふと女性全般のことを話しているような錯覚に陥る。ねえ、課長。見た目も大事ですけど、食べてみれば結構イケるでしょ?

「うん、悔しいがすごく旨い」
「えへへ、良かった。課長のその顔が見たくて頑張ったんですよ」

「…そっかあ。有難うな、小嶋」
「どういたしまして」

憎まれ口を叩かない、ヨワヨワの課長。その素直さが可愛く見えて、気付けば思わず手が伸びていた。

なでなで、なでなで。

「何してんだよ」
「喋ってくれて、嬉しいんです。だから御礼に頭を撫でています」

叱られるかと思ったのに、なぜか課長は気持ち良さそうに撫でられている。

「お前は俺と話してて、つまらなくないのか?」
「どうして?課長の話はいつもタメになります。ここ数日、喋って貰えなくて死にそうでした。…私、課長との会話が世界で一番楽しいですよ」

本心からそう思って答えたのに。課長は物凄い勢いで残りのおにぎりを食べ終え、いきなり立ち上がる。そして私にも『立て』と言うので、素直にそうすると…。

ガシッ。

「か、課長??どう…し?あれ?あの??」
「あー、もう限界ッ」

せ、背骨が痛い。なんだかメリメリ音がする。そのくらい力強く、私は課長に抱き締められていた。ええ、分かっているのです。モテ・エリートの人生を送ってきた男が、生まれて初めて味わった挫折。それは不遇の人生に慣れている私には、想像もつかない屈辱だったのでしょう。そんなときに優しくされたら、グラッとしますよね?いえいえ、弱っているところを狙うとか、姑息なことをしたいワケでは無いのです。

本当に私はいつもの強気な課長が好きだから。

いや、でも、実を言うと弱ってる課長もなかなか捨て難いですよ。たぶんこれが庇護欲ってヤツなんでしょうか。私よりもずっと年上で、大人な課長。その貴方を無性に守りたい。

物理的には抱かれているけど、
精神的には抱いている気分です。

…なんてことを頭の中でアレコレ考えていると、背骨バキバキの抱擁から解放され、突然のキス。

>ああ、唇ケアはムダでは無かったな。

そんな雑念を一瞬で吹き飛ばすほど情熱的で、とろとろに溶けそうなほどの熱いキス。課長がその角度をかえるたび、水面で口をパクパクさせる魚みたく酸素を求めて思いっきり息を吸う。目を閉じて、その感触だけに集中し、私はいつの間にか課長の背中に腕を回していた。なんだかこのままでは、すごく愛されていると錯覚してしまいそうだ。この人は弱っていて、自信を取り戻したくて、傍にいる私にその慰めを求めているだけなのに。

「小嶋、やっぱり俺を最初の男にしろ」
「…へは?」

この状況で間抜けな返事をしてしまうのは、ご愛嬌と言うもので。

「コンディションは万全では無いが、いま絶好調に気持ちが高ぶっている」
「…はあ?」

「抱くぞ、お前を。いいな?」
「お、お手柔らかに」

予想外の展開に心臓がバクバクしているけど、なんだかそれでも自分的には納得していた。だって、最初の相手は好きな人が良かったから。本当は相思相愛だと嬉しかったけど、そんなに世の中は甘くない。私なんぞが課長の恋愛対象になれるワケないし、私が課長を好きだと伝えたりしたら、きっとこの人を困らせるだけだ。初めて入る課長の部屋。ベッドの前で立ち尽くしていると、そっと手を握られ、課長が訊いてくる。

「驚くほど素直についてきたな。もしかしてお前、俺のことが好きなんだろ?」

だから私は笑顔で答えるのだ。

「ち、違いますよ、好きなんかじゃありません」
「バァカ、顔を見たら分かるんだよ。ったく素直じゃないんだから」

「本当ですよ、私、課長のことなんか全然…」
「はいはい、もう黙ってろ」

ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、私に触れるその手はとても優しくて。それはまるで『愛してる』と繰り返し囁かれているみたいで。

…こうして私は結局、大松課長に抱かれたのだ。
 
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