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12.冷戦突入
しおりを挟むそんなワケで婚活パーティー当日。
標的は自分にお似合いなフツ男である。そう、『フツーの男子』だ。こんな上玉、来て貰っては困る。フツ男が貴方に臆して私に近寄れなくなるから。そんなことを思いつつも、ヘラヘラ笑い続けた。
いやあ、スゲエですよ福野さんってば。
大松課長でイケメン耐性がついたと思ったのに。それとはまったく別なクリーンさと言うか、微かに漂う潔癖な感じやストイックさが失いかけた乙女心をくすぐりまくる。福野さん自身もサクラのはずだが、なぜかこの人、私の傍を離れない。通常、サクラ同士が一緒にいてはいけないのだ。一般参加者を思わせぶりな態度で翻弄し、次回もまた参加するかのように振る舞う。それがサクラの使命のはずで。なのに彼はお構いなしで私に近づいて来て、真剣な表情でこう言った。
「俺、なんか命の危険を感じるんだけど。ゴスロリの格好したあの女性、凄く怖い」
その女性は瞳の奥に狂喜の光を滲ませ、明らかに様子がおかしかった。名札に24歳と書かれているが、そうは見えず。明らかにその倍くらいの年齢だと思われる。
「とにかく話の内容が全然噛み合わなくてさ、俺が彼女のことを好きだというのが前提になってるんだ。子供を何人作りますかとか、両家の挨拶をいつ頃にしますかとか、質問内容も斜め上で、絶対にヤバイ。お願い助けて、小嶋さんッ」
そうとなれば、仕方ない。担当の尾崎さんにも相談し、福野さんと私が意気投合したことにする。チッ。あわよくば彼氏を見つけようと思ったのに。世の中、そんなに上手くはいかないものだ。周囲の人々の手前、仕方なく私たちは互いの趣味や家族構成などを教え合う。最初は警戒しながら話していたのに、2人ともイタリアに旅行したことがあるという話題から、同じ日本人ガイドにお世話して貰ったことが判明。
ここから異常なまでに盛り上がる。
「ええっ、そのガイドって矢口さんですよね?あの人、すっごく面白かったなあ」
「俺、今でも連絡取り合ってるんだよ」
「すっご~い!」
「ツイッターのアドレス教えてあげるよ。矢口さんの裏の顔、満載だから」
この調子でもちろん最後のカップリングでも互いを指名し合い、キャッキャと仲良く会場を後にする。でも、分かっていたのだ。こんな王子様キャラと付き合えるワケが無いと。
…なのに。
「すごく楽しかったです。俺、こんなに笑ったの久々かも。あの、小嶋さんって彼氏いないんですよね?」
ハイと私は答えた。すると彼はこんな私なんぞにこう懇願するのだ。
「あの…、もし、もしでイイんですけど。こんな俺で良かったらまた会ってくれませんか。俺、小嶋さんみたいな女性を探していたんです」
『もちろん!』と私は即答し、そのあと一緒に入ったカフェでパンケーキをふたり仲良く食べた。なんだか今でも信じられない。
>小嶋さん、可愛いなって。
>実は前から狙ってたんだ。
>仕事の指示も的確だし、しかも分かり易い。
>俺の周囲の人間は小嶋さんをベタ褒めですよ。
>ずっとこうして2人きりで喋ってみたかった。
そんなことを延々と言われ続け、もしやドッキリ番組なのではと疑うほどで。次にまた会う約束をして別れ、ふわふわした足取りで帰宅すると憎たらしい顔をして大松課長がこう言った。
「お疲れ。どうだ、敗北の味は。誰からも声を掛けられなかったんだろ?ぷぷっ、小嶋、カワイソー」
本当は内緒にしようと思っていたのに。挑発に乗り、まんまと喋ってしまうのだ。
「ふ、福野さんもサクラで来てたんですよ。でね、すごく仲良くなっちゃって。も、もしかして付き合っちゃうかもしれません」
「それは無いな」
返事、早っ。
「えっ、だって私のこと可愛いって。ずっと話してみたかったって言ってましたよ」
「社交辞令、社交辞令」
「でもでも、また会う約束もしたんですっ」
「あのな小嶋、よく考えてみろ。福野さんは業者、俺らはクライアントの立場だ。機嫌を取ろうとしてるだけだよ、真に受けるな」
なんなんだ、この頑なな態度は。私に素敵な彼氏が出来るかもしれないのに、どうして頭っから否定するのだ?
両者、睨み合い。
暫くして大松課長が口を開く。
「俺は親切で言ってやってるんだ。小嶋を彼女にする物好きはそうそういない。ましてやあの福野さんだろ?彼女がいないワケないし。お前、きちんと確認したのか?後で泣くのはお前なんだぞ。あんな格上の男を選ぶなんぞ、小嶋のクセして百万年早いわッ。はいはい、もう諦めろって」
この言葉にカチンときた。
「福野さんは女性を外見じゃなくて中身で選ぶ人ですよ。分かりました、私、絶対に福野さんと付き合います。初体験も彼に相手して貰おうっと。あー、課長が断ってくれて良かったあ」
「…俺、断ったつもり無いけど」
「じゃあ、謹んで私の方からお断りしますッ」
「ああ、そうかそうか!!そりゃあ有り難いな。断られてせいせいしたッ」
売り言葉に買い言葉。このまま私たちは冷戦状態に突入するのだ。
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