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26.マミは今回出番が少ない

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 ※ここからは別視点でお送りします。
 ─────────────────
 
 
 とある、狭くて汚い小料理店のカウンター。
 
 そこで、2人のサラリーマンが酒を酌み交わしていた。これまでの会話を纏めてみるとどうやら彼等は同じ会社の上司と部下で、部下の方は最近、離婚したらしい。
 
 
 
 …俺の名前は本田慎一。今は上司の岩井さんに、愚痴を聞いて貰っている最中だ。
 
「ほんと、マジで、家事が死ぬほど面倒臭いんですが。掃除なんかは放っておいてもスグに死ぬワケじゃないですけど、問題は洗濯と料理でしょうか。俺が思うに、洗濯機の『全自動』って嘘ですよ。だって、洗って干して畳むまでが洗濯なのに、そこまでの面倒を見ないクセしてどこが全自動かと」
「ほ、本田ァ…お前、箱入り息子だもんな。そもそも、結婚して新居に移るまでずっと実家住まいで、一人暮らしの経験自体が無いなんて今どき珍しいと思うぞ」
 
「そうなんですかね」
「ああ、普通は大学へ進むと同時にとか、就職を機に独り立ちすることが多いんじゃないかな」
 
「やっぱ早いうちに経験しておくべきだったんですかねえ。28歳にもなって、今更お米の炊き方が分からないとか言ったら、うちの母親ビックリしてましたもん」
「そっかあ、そのレベルかあ」
 
 円満離婚した元嫁も、最初っから家事が出来たワケじゃない。母親に比べれば不出来だと感じたそれらは、日々努力を重ねていたらしく。彼女が出て行った後に残された大量の手書きレシピと、どうやって使い分けていたのか見当もつかないほど多種多様の洗剤がその苦労を物語っていた。
 
「実家に戻ればいいんでしょうが、あちらは弟夫婦がいつの間にやら同居開始してて。両親は孫に夢中だからもう俺の居場所は無いも同然なんですよ」
「じゃあもう諦めて、家事を頑張るしかないな」
 
 ──ここで俺は、幼なじみのことを思い出す。
 
 カッコよくて、モテモテで、頭が良くて、1年生なのにサッカー部のレギュラーになった男。ああ、ついでに、生徒会の役員でもあったな。…ウチの中学校は、学年ごとに『まとめ役』とかいう変わった役職が設けられていて。1、2年生がソレに選ばれるということは、次もしくは次の次の生徒会長候補ということになる。
 
「壮亮のヤツ、部活と生徒会の仕事に加えて家事までしてたっけ。あいつ、ハンパねえな」
 
 そう、皆んな知ってたんだ。松原壮亮の母親が、他の男と不倫して家を出て行ったって。だけど、アイツが必死にそれを隠そうとしていたから。だから、知らないことにした。きっと大変だったはずだ。1年生でレギュラーに選ばれたことで、先輩からの扱きは激化し、生徒会の仕事も膨大な量だったと聞く。なのにアイツは弱音を吐かなかった。いや、たぶん吐けなかったのだろう。
 
 当時の俺達は幼な過ぎた。
 
 だからこそ壮亮は救いを求めることよりも、
 己を犠牲にすることを選んだのだ。
 
 今なら分かる。社会人の俺ですら、家事ひとつでヒイヒイ騒いでいるというのに、たった13歳の…しかも、傍に頼れる人がいない少年が…どんなに追い詰められていたのかを。ああ、ごめん、壮亮。俺は、友達だったのに、そんな俺が助けようとしなくて。母親のことを秘密にしているからなどと言い訳をして、本当は自分の青春を謳歌したかっただけなのかもしれない。
 
 きっと部活と生徒会の仕事でクタクタになって帰宅し、それから料理を作って掃除洗濯。常に上位の成績を誇っていたヤツのことだ、睡眠時間を削って勉強だってしていたに違いない。ああ、考えれば考える程、キツイ。そんな生活をヤツはしていたのかと思うと、胸が苦しくなる。
 
 
 
 
 
 
「慎一!久しぶりだな。ようこそいらっしゃい」
「初めまして、私が婚約者の竹中マミです」
 
 壮亮のことを思い出したその翌日に電話してみたところ、『最近婚約した』などと言うので。

「お邪魔します。へえ、随分と綺麗にしているんだなあ」
 
 早速、その相手と暮らす新居へとお邪魔させて貰うことにした。
 
 
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