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ハッピーエンドなふたり

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「あ、本当だ。コンビニ寄って買わないともうゴム無いや。言って貰って良かった」
「って、感謝してる場合じゃないからねッ」
 
 ぷうっと頬を膨らませていると、そこに自分の頬を寄せながら志季さんが溜め息混じりに呟く。
 
「俺の彼女、怒っててもメチャ可愛い…」
 
 ああ、はい…そう、ですか。
 
 なんかね、そう言われちゃうと弱いよね。今までの塩対応から一転、何もかも吹っ切った志季さんは怖いものが無いらしい。
 
 その足で行きつけのコンビニに入り、迷いなくコンドームの箱をガシッと掴んだかと思うと、そのままレジに向かう。もちろん私の肩は抱いたままだ。
 
 かなりの頻度で顔を合わせている茶髪ピアスの男性店員が、一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、意味深に何度も頷いて値段を告げる。そして捕獲されている感じの私に向けて、目で語り掛けてきた。
 
『今から、するんっすね?』
『はい、今からするんです』
 
 また頷かれた。もしかしてコンビニではよくある風景なのかもしれないが、まさか自分がその風景の一部になるとは。私の肩を抱いたままだというのに、尻ポケットから財布を出して器用に支払いを終えた志季さんは戦利品を掴んで再び歩き始める。
 
「大丈夫、あの店員、俺の友だちだから」
「そ、そうなの??」
 
 だからあんな分かり易く反応していたんだな。
 
「肉体労働のバイトしてた時に仲良くなった。今のマンションに住み始めた時に偶然再会して、アイツ、俺に恋愛相談してきたから、お返しに俺も相談してた。だから奈月ちゃんのことも全部知ってる」
「ぜんぶ」
 
 何をどんな風に話したのかは知らないが、あの表情から察するに祝われたことは間違いない。
 
 なんだかんだ言って、友だち多いよな、この人。無口で面白いこととか言わないのに自然と周囲に人が集まってしまうのだろう。気にかけているくせに放っておいてくれる。そんな接し方が好ましいと思う人も世の中には案外いるのだ。
 
 そんなこんなで無事に帰宅。玄関でいきなりキスをされ、そのまま抱き上げられてしまう。
 
「ええっ、だっ、重いでしょ?!自分で歩くよ」
「重くないッ」
 
「ふふっ、やせ我慢しちゃって」
「うああ、もう、好きだ!」
 
 へ?この会話の流れでそう言っちゃう??
 
「ありがと。私も好きだよ」
「知ってる!奈月ちゃんにも俺の気持ちは伝わってると思う。だけど、改めて言いたいんだ!好きだ!好きだ!好きだ!なんかもう、苦しい。言ったらちょっとラクになる、だから好きだ!」
 
 普段無口な人は、想いを溜めに溜めていきなり爆発するらしいが、ひょっとしてコレがそうなのかもしれない。
 
 戸惑う私を置き去りにして、何かに急かされているかのようにベッドの上で志季さんは服を脱ぎ終わり、続けて私の服も脱がせ始めた。
 
「そんなに慌てなくても、私は逃げないよ」
「うん、好きだ」
 
「うっ、また?でもそういうトコも好きだなあ」
「俺の彼女、最高かよッ」
 
 ほんと恋愛に関してはポンコツだな、この人。でもそれは私も同様で、そんな男を愛おしいと思ってしまうのだから仕方ない。
 
 
 破れ鍋に綴蓋。恋愛なんて結局は相性なワケで。
 ──私の綴蓋は今日も元気だ。
 
 
 
 --END--
 
 
 
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