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そういうトコ
しおりを挟む「アナタは無口で、不器用で、嘘が吐けない人。気遣ってくれる空気は感じるけど、それを言葉にはせず、そっと見守ってくれるだけ。
今まで私の周囲にいたのは、久志みたいに口先ばかりで何も分かっていない男ばかりでした。その場限りの、ただ一緒に暇つぶしをするような感覚で付き合う相手を選ぶ男たちばかり。
私が欲しいのは、誰に対しても応用可能な甘い言葉なんかじゃない。楽しそうな自分を演じる男にだってもう用は無いんです。
志季さん、あんな薄っぺらい男たちと自分を比べたりしないで。私なんかを『最高』だと言い、自分の殻を破ろうと奮闘している。そんな志季さんだからこそ、好きになったんです。
私が好きなのは、『そういうトコ』なんですよ」
両頬に置かれていた手が、スルスルと下がって背中に回り、そのまま全力で抱き締められた。
どうやら何か感想を言いたいようだが、残念なことに最適な言葉が頭に浮かばないらしく。暫くの間『ああっ』とか『ううっ』という呻き声が続き、ようやく頭上から声が降ってくる。
「…やっぱ奈月ちゃん、最高ォ」
その時、風がふわりと吹いた。
桜の花びらが舞う風景があまりにも幻想的で、何もかもが夢だったような気さえしてくる。いや、夢だったら嫌だけど、夢にしたいような気もする。
だってっ。志季さんの背後にすんごくニヤニヤしているアッちゃんとヒグッチがッ。なによその顔?!絶対に揶揄う気、満々だよね。下手をすれば死ぬまで揶揄う気なんでしょ?!
現実逃避でギュッと瞼を閉じる私に、あろうことか志季さんがいきなりキスをしてきた。だからっ、志季さんの位置からは見えないんだろうけど、アッちゃんとヒグッチがそりゃもう楽しそうにグフグフ笑っているんだってばッ。
咄嗟に目を開けた私が見たものは、あまりにも幸せそうな志季さんの顔で。いつもの無表情に見慣れていた私は、そのギャップにやられた。
ああ、もう、好きにして。
初めてのキスは、なんだか色気も素っ気も無かったのに。あれから回を重ねるごとに成長し、今ではこんなに上手になっちゃって。
角度を変え、強さを変え、舌を使い、たまに唇を離したその瞬間に『好きだよ』と呟くとかね、アナタって人はもう、天才かッ?!
あまりにもキスが長かったせいかグフグフ言っていたアッちゃんたちは飽きてしまったようで、いつの間にやら望月さん御一行に弁当を薦めていた。えっと酒盛りも始めちゃうの?
「奈月~、重松さんが女を呼べっていうから、ノッチたち呼ぶね~。でさ、悪いんだけどもうココ狭いし、アンタとお兄ちゃんはどこか別の場所でイチャイチャしてくれないかなあ~」
「分かった!後は頼んだぞ!!」
って、志季さんがノリノリで返事して。
「えっ、ど、どこに行く…の?志季さんッ」
私の肩を抱いたまま、物凄い勢いで歩き出した…かと思えば、突然アッちゃんに向かって叫ぶ。
「明恵、俺たち先に帰宅するから!分かってると思うけど、お前と樋口はゆっくりしてろよ!」
「志季!何ならアッちゃんは今晩俺んちに泊めるからさ、安心して励めよ!!」
そんな言い方、丸わかりだしッ。デリカシーってものが無いの、この人たちっ。ハッとして、恐る恐る望月さんの方を眺めるとそれはもう爽やかにこう言われた。
「大丈夫だよ、美香さんとご両親には内緒にしておくから。でも、まだキミたちは学生なんだ。避妊だけはしっかりするんだよ!」
「…う、あの…、はい」
この人までッ、いったい何なの、もう!!
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