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さすがに拗ねるっつうのッ

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「とうとう2週間後になりましたね、結婚式!準備は万全ですか?」
「うん、完璧だよ。もうすることも無くなったから、こうして職場の野郎共と花見に来たんだ」
 
 話の流れでその野郎共へと視線を移したのだが、なんだろう…キラキラしていて目が痛い。『ホワイトカラーの中でも最上位なんですけど俺たち!!』という漲る自信がそうさせているのだろうか?そう言えば香奈ネエが言っていた。
 
 帯刀グループの中でも、本社勤務の男性社員はコネ組と能力組に二分されると。コネとは言え、名だたる企業の御曹司が修業に来ているパターンが大半で漏れなく有能らしく。対する能力組も何万といる社員の中から、選び抜かれた精鋭のみが本社採用となるワケだからメチャクチャ有能なのだと。
 
『ただ、女性社員に役立たずが多いのよねー。男性社員の結婚相手として採用されているだけ、とかいう噂も有るくらいだから仕事面での技量は求められていないみたいでさ、吉助さんって次期社長になる予定の人が、自分の代になったら必ず改善してみせると言ってたけど、その頃にはもう私、仕事を辞めてる気がするのよねえ』
 
 とかなんとかボヤいていたっけ。へえ、そっか。望月さんも出世間違い無しとか言われてるみたいだし、だとすればココにいる仲間たち3人もきっと有能なのだろう。
 
 だって類友って言うからね!
 
 挨拶も済んだし、もう去るかと思ったのに何故か望月とキラキラな仲間たちはそこから動こうとしない。それどころか自己紹介を始める始末。
 
 ふんふん、重松さんに師岡さんに黒部さん。ごめんなさいシャッフルされたらきっと間違えそう。ああっ!そんなことを思った矢先に師岡さんが黒部さんと入れ替わった!えと、まあ、別に忘れても平気ですけどね。たぶんもうお会いすることも無いでしょうし。
 
「彼らも俺たちの結婚式に出席するから、名前を覚えておいてあげてね」
「えっ?あ、はいっ」
 
 危ない危ない、結婚式が有ったんだ。慌てて名前と顔を再確認していると、普段からモテモテらしき重松さんがズズイッと前に出た。
 
「なあ、望月!『奈月ちゃん』のことをきちんと紹介してくれよ。お前とはどういう関係だ?」
「言って無かったっけ?婚約者の妹。2人いるうちの大学生の方だよ。どうだ!こんな可愛い義妹が出来ちゃうんだぞ、羨ましいだろ~?!」
 
 驚くほど堂々と私を凝視してから重松さんは、均整のとれたその顔をまるでプレゼンするみたいにして見せつけ、こう言った。
 
「こ…れは、久々のヒットだな。いやあ、イイ!実にイイ!こういう顔が俺、メッチャ好きだからな。あっ、でももしかしてどっちかが彼氏…とか?」
 
 ハイと答えるべき場面だったのだろうが、残念ながら私の精神状態はかなり不安定で。ただでさえ嫌われているんじゃないかと思っていたところに、ダメ押しで弁当を前にしての無言攻撃。…さすがに拗ねるっつうのッ。
 
「えと、あの人は親友の彼氏で、えっと、こっ、この人は親友のお兄さんです!」
 
 あ。志季さんが箸からボロッて里芋を落とした。だってっ私たち、そういうんじゃ無いよね??
 
「嘘、じゃあ、奈月ちゃんって彼氏いないの?」
「えと…は、はい」
 
 志季さんは里芋を拾うのに夢中で、私を見ようともしない。ほらね、やっぱり興味無いんだ。
 
 アッちゃんとヒグッチがぬいぐるみみたいな目で私をガン見していることを感じながら、私はひたすら重松さんと愉快なトークに徹していた。
 
 
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