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アッちゃんとヒグッチ
しおりを挟むそしてこの頃、驚きの新事実が判明する。
「は?アッちゃんとヒグッチが?」
私たちに気を遣って外出しているとばかり思い込んでいたのだが、なんてことは無い、アッちゃんがヒグッチと付き合っているのだと。
「うん、兄としては心配だけど、でももう明恵も子供じゃないし。見守るしかないかなあって」
「ダメダメダメダメ、だってあんな女にだらしない男となんて絶対に長続きしませんよ。アッちゃんが傷つくのは目に見えていますってば!」
シスコンのくせに、何故こんな時に寛容なのか。
ここはガツンと反対すべき場面じゃないの??
そんな想いが顔に出てしまったのだろう。志季さんは静かにゆっくりと説明してくれる。
「あのさ、ウチの母親のことは知ってるよね?」
「え?ああ、はい、大まかにですけど」
「お嬢様育ちで人を疑うことも知らずにずっと無傷で生きてたのが、結婚して子供2人産んだ後で呆気なくホストとかヒモみたいな男に次から次へと騙されてしまった。そしてそれに巻き込まれた周りの人間も皆んな不幸になってちゃってさ。それで俺、思ったんだよ。若いうちに多少の免疫をつけておいた方がいいんじゃないかなって。独身で身軽な時期に痛い目に遭っておけば、警戒心も生まれるし、回復するのも早いだろう?…だから、樋口とのことも反対しない。見守るだけにしておこうと思う」
「はァ…、そうですか…」
なんとなくだけど分かったこと。
──志季さんは結構冷たい。
私だったらお姉ちゃんたちがそんな相手を選んだら、必死で反対すると思う。だって、なるべく不幸になって欲しくないし、いつでも笑って過ごして欲しいから。
「納得してないな。でもまあ、大丈夫だと思う。いくら樋口でも、俺の妹を平気で騙したりしないだろうし。アイツああ見えて結構いい奴だよ」
「だといいですけどね」
そんな会話をした翌日のこと。
学食でアッちゃんを問い詰めると、樋口さんとの馴れ初めを呆気なく話し出す。ノッチの隣人である、一人暮らしのお婆ちゃんが猫を3匹も飼っていて。急に入院したのだが、そのまま還らぬ人になってしまったのだと。それで引き取り先を一緒に探していたところ、最後の1匹を樋口さんが貰ってくれたらしい。
だが、ここで問題が発生する。
彼は週3でイタリアンレストランのバイトに入っており、来年の夏までそれが続く予定なのでそれまで猫の晩御飯の世話が出来ないのだと。
「それじゃあ私が面倒を見ますと名乗り出たの。だってほら、奈月とお兄ちゃんを2人きりにしないといけなかったしさ」
「へええ。ヒグッチって1人暮らしだよね?もしかして一軒家に住んでるの??」
「ううん、ペット飼育可能なマンションだよ。『なんでバイトしてんの?』って訊きたくなるほどハイソな生活してるんだけど詳しくは教えて貰ってないんだ、あはは」
「ふうん…」
コソコソと隠れて付き合っていたことが無事にバレたことで、アッちゃんとヒグッチは堂々と我らの前に姿を見せるようになり。しかも、周囲の心配なんてどこ吹く風という感じでイチャつきまくる。
「アッちゃんのそういうところが可愛いよ」
「やだもう、壮ちゃんったら皆んなの前で~」
そしてそんな2人の仲睦まじい姿を見ていた私に、心境の変化が訪れるのである。
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