上 下
56 / 56

そして物語は続く

しおりを挟む
 
 
 …………
「ごめんなさい、2人とも」
「え?!ああ、美香さんが謝ること無いよ」
 
 お通夜みたいな雰囲気のまま、我が家で晩御飯を食べ。余程ショックだったのか、父の将棋の相手もせずに帰ると言い出した内藤さんを車まで見送ろうとしたら、そのまま助手席に座らされて。今後のことについて話し合おうとしたら、いきなり後部座席に美香ネエが乱入してきて謝罪されてしまった。
 
「本当は私、前々からせっつかれてたの」
「えっ?!前々って、お父さんに??」
 
「そうよ。内藤さんがウチに挨拶に来た時点で、香奈との結婚話が出る日も近いだろうからって。でも私が先だし、お父さんは心を鬼にして拒否すると宣言されてたの。ごめんね、ダメな姉で」
「美香ネエ、お願いだから謝らないでよ~。えと、その…、だからってそんなに焦って好きでもない男性と結婚したりしないでよ」
 
「香奈ァ…」
「美香ネエ…」
 
 後部座席から手を伸ばす姉と固く手を握り合う。
 
 いつだって女王様のように毅然としている人が、縮こまって申し訳なさそうするその姿はかなり胸にくる。私が結婚なんて言い出さなければ、姉はいつも通りの生活を続けていられたのに。ゆっくりと自分のペースで運命の出会いを待てたはずなのに。そう思うとチクチクと胸が痛む。
 
 美しい姉妹愛を横目で見つめながら、
 内藤さんは有り得ない言葉を吐くのだ。
 
「うーん。でも、俺は美香さんに結婚を焦って欲しいな」
「え?…あ、はい」
 
 こ、ここにも鬼がッ。
 
「だってアナタが結婚してくれないと俺たちも結婚出来ないんですから。俺、早く香奈と結婚して一緒に住みたいんですよね。結婚前の同棲とかココんちのお父さん、許さないでしょう?でね、香奈とも話してたんですけど婚約したらすぐ子作りしたいんですよ。もう新居も用意してあるし、ウチの親も大賛成してるんだけどな」
 
「…頑張ります」
 
 不穏な空気が流れたが、内藤さんには内藤さんの美香ネエには美香ネエの言い分があるワケで。間に挟まれた私は無言を貫くことにした。
 
「じゃ、2カ月を目標に相手を見つけよう」
「に、ににに、2カ月?!」
 
 私も驚いたけど、無言無言。
 
「最初っから諦めちゃダメだよ~。取り敢えずハードルを高めに設定しておいて徐々に下げればいいだろう?大丈夫、美香さん結構美人だし」 
「あり…がとうございます」
 
 け、結構?!
 とんでもない、すんごく美人だよッ。
 
 だって休日にショッピングしてたらモデル事務所のスカウトから声を掛けられまくって高校の卒業式の時なんて36人から告白されたという逸話の持ち主なんだよッ?!極めて平凡なアナタの彼女を差し置いて、何をそんな上から目線で。天下の美香ネエに謝って
 
 …と思ったけど、無言無言。

「良さそうな男がいたら紹介するからさ」
「紹介は不要です」
 
 む、無言無言。
 
「でも、放っておいたら焦らないだろ」
「焦るから放っておいてください」
 
「それ、日本語としておかしいし」
「全然おかしくないので」
 
「俺の友人じゃダメだってこと?」
「ダメじゃないけど気を遣うので」
 
「それって、断ること前提じゃん」
「だって合わない可能性も有るでしょ?」
 
 む~、無言無言。
 
「合う、合わないは会ってみないと分かんないだろうが」
「ははっ、そっちこそ日本語ヘンですよ」
 
「ちっともし変じゃない!音じゃなく意味を理解しろよッ」
「考えてますって!本当に紹介は不要です」
 
 する、しない。黙れ、黙らない。
 ギャアギャアとまるで水と油な2人。
 
 えと、そっか。内藤さんと美香ネエって今までこんな感じだったんだな。美香ネエが内藤さんに片想いしてるかもとか、妄想もいいところだ。
 
 いつの間にか争点は結婚相手の紹介をするかどうかではなく、どちらがモテるかという話に移っていて。

「ああもう煩い!こう見えてモテるんですね、私!その昔、百戦錬磨のテレビ局のプロデューサーから『このレベルは100人に1人しかいない、キミという女は最高の逸材だ』とまで言わせたほどなんだからッ」
「はあ?俺なんかな、数回通ったそこそこ高級な飲み屋のネエちゃんたちをこの魅力でトリコにしちまって、奪い合いのケンカで店を1軒潰したという過去があるんだぞ!それもこれも俺がセクシー過ぎるから悪いんだけどさッ」
 
「そんなの自慢にならないし~」
「アホか、十分なるっつうのッ」
 
「私なんか1人で飲みに行くと必ず誰かが奢りますって声を掛けてくるんだからッ」
「そりゃあ貧乏そうに見えるだけだろ」
 
 む、無言はもうムリ~~。
 
「はい、もうそこまで!!お願いだから仲良くしてえええッ」

 
 …というワケで、物語は幸せイッパイの私から美香ネエの拗らせ恋愛へと移るのでございます。
 
 
--END----
 
 
 
 ─────
※最後までお付き合いいただき、誠に有難うございました。そんなこんなで『朝日家の三姉妹~美香の場合~』に続きます。別作品として投稿済みですので、宜しければ覗いてみてくださいませませ。
 
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

憧れの童顔巨乳家庭教師といちゃいちゃラブラブにセックスするのは最高に気持ちいい

suna
恋愛
僕の家庭教師は完璧なひとだ。 かわいいと美しいだったらかわいい寄り。 美女か美少女だったら美少女寄り。 明るく元気と知的で真面目だったら後者。 お嬢様という言葉が彼女以上に似合う人間を僕はこれまて見たことがないような女性。 そのうえ、服の上からでもわかる圧倒的な巨乳。 そんな憧れの家庭教師・・・遠野栞といちゃいちゃラブラブにセックスをするだけの話。 ヒロインは丁寧語・敬語、年上家庭教師、お嬢様、ドMなどの属性・要素があります。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...