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それは私

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「でもね、望月さん。そういう女はどこにでもいるんですよ。美人なんてね、行くところに行けば溢れているんだ。ようやく俺は気づいたんです。食事して、寝るだけの女なんてどれも大差ないなって。名前以外の違いが俺には見つけられなくなってしまっていた」
「う…わあ、それは重症ですね」
 
 また一口、ビールを含んで内藤さんは小さな小さな溜め息を吐く。
 
「それが、ある日、出会っちゃったんですよ。そんなに美人じゃなくて距離感がメチャ近い女。これが本当によく喋る…で、楽しそうなんだな。
 
 何と言うか、俺を見つけると全身で喜びを表現してくるし、電話もガンガン掛けてくる。この電話が曲者で毎回1時間コースな上になかなか切らせて貰えない。切ろうとすると、死ぬほど可愛く『内藤さんの声がもっと聴きたい』とかホザきやがる。またこれがリップサービスじゃなくて本気でそう言ってるからタチが悪いんだ。
 
 一緒に食事すると心底旨そうに食べやがるし、会うと毎回質問攻めで、もしかして俺のことを両親よりもよく知っているかもしれない。あんなに開けっぴろげに自分を晒す女…いや、そうじゃないな。俺が、自分を曝け出せる女に生まれて初めて出会った気がする。
 
 上辺だけじゃなく、中身までしっかり繋がることの素晴らしさを俺は知りました。そして、全面降伏です。彼女に一時期会えなかった時はもう、この世の終わりかと思うほど寂しかった。
 
 もしかして今の自分だから言えることなのかもしれない。それなりに年齢を重ね自信を持てるようになったからこそ、外見で女性を選ばなくなったのかも。…って、あのさ香奈。俺はお前が誰よりも可愛く見えるんだぞ?俺の中では、香奈以外の女は全部同じに見えてしまうから。…そう、俺にとってお前だけが特別なんだ」
 
 
 お、御客様の中に医療関係の方はいらっしゃいませんか──ッ?!

 声に出さず私は叫ぶ。違う、内藤さんの頭がおかしいとかでは無くて、私の心臓が尋常ではない動きをしているのだ。それはまるでフンドシ一丁の内藤さんが、荒波をバックに和太鼓ではなく私の心臓を叩き捲ったような。力の加減など全くして貰えない状態のまま、目一杯ドンドコと乱打されている感じである。
 
「それって俺が自分に自信が無いから、美人と付き合おうとしてるってことになりますかねえ?」
 
 おいこら望月、空気を読め、空気を!!こんなに熱く見つめ合っているカップルを、くだらない質問で現実に引き戻すんじゃないッ。
 
 しかし、心優しい内藤さんは彼の相手をしてあげるようだ。
 
 
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