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我が家の内藤さん評
しおりを挟むリビングに戻ってすぐに母を睨んでみたものの、見事な女狐っぷりを披露されてお終いだ。
「あら、お義父様、どうされたんですか~?」
「いやあ、香奈の選んだ男を見定めに来たぞ!あ、これは土産だ」
大きめの封筒に入った『土産』は人数分有り、祖父は嬉しそうにソレを配布する。その中身は内藤さんの会社や彼自身に関する調査報告書で、私はそのまま書類を封筒に戻した。どうしてかと言うと、本人の同意も得ず勝手に身辺調査をするのはとても失礼な行為だと思ったからだ。
しかし祖父はそんな私を見て笑い出す。
「銀行家は信用調査なんかお手の物だからな。でもまあ内藤工務店の息子なら及第点をやろう。問題は女関係がかなり派手でなあ、それをどうにか整理させんといかん」
そ、そんな情報をナゼいま話すのか?!
自他共に認めるクソ真面目な父の表情がより一層険しくなり、ほんわか笑顔をデューク東郷に変えた母が私をギンッと睨む。美香ネエと奈月も苦々しい表情を浮かべ、食い入るように内藤さんの調査報告書を読み耽っている。
あのね、公開番組とかで観覧客の反応を温める前説ってあるでしょ?私ね、今日はその役割をするつもりでいたワケよ。内藤さんが来るまでに彼のことをさり気なく盛り立てておいて、ほんわかムードになった状態で『さあどうぞ!』と登場させてあげたかったのに、
お祖父ちゃんが冷え冷えにしちゃったよ…。
中学で母に初恋を捧げ、そのまま交際・結婚。一度も浮気をしたことが無いという、巷では幻の生き物とまで呼ばれている父。そんなマジメ男が、娘の交際相手の華麗なる女性遍歴を知ったらいったいどうなると思っているのか。
「…香奈の彼氏が…女たらしって本当か?」
ああっ、ほらっ!!
お父さんってばメチャクチャ切ない顔してるッ。
「う…あ…その、い、今まではね。でももう違うんだ。私と真剣に付き合ってくれて、他の女性とはスッキリキッパリ切ったらしいし」
「『らしい』じゃ困るぞ、『らしい』じゃ!」
おいこら、お祖父ちゃんッ。
まだ追い込むつもりなの?!
「えっと、じゃあ訂正。『らしい』を削除して」
「今はいいけど、そういう悪癖は治らないわよ」
そう母が言うと、美香ネエも加勢してくる。
「お祖父様、実は私その彼氏と偶然会ったの。とってもニヤけた感じで、品性の欠片も無さそうな男だったわ!」
「本当に?!ダメじゃん、香奈ネエ。私、そんな男をお義兄さんと呼ぶの嫌だなあ」
…Oh、なんだかとっても最悪な雰囲気。
寒冷地並の空気になったこのタイミングで、軽やかにチャイムが鳴り。ズルズルと重い足取りで私は内藤さんを迎えに行くのであった。
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