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変わりゆく大介さん
しおりを挟む好き…なのかな?
いや、師弟関係みたいな好きは分かるよ?だけどそういう好きとは違う気がする。いやいや、恋愛感情なんてあの人に抱いても、相手にして貰えないのは分かってるし。じゃあ、私が遊び慣れた女になればいいのか?そうすれば付き合…ん、もしそうなれたとしても、一晩限りでお終いになるのは目に見えているよなあ。
「朝日?大丈夫か、アイスクリーム溶けてるぞ」
「えっ、あ、はい。だ、大丈夫です」
もしかして私は、ないものねだりのダメ人間で。欲しがっていたものが手に入るとすぐに、別のものが欲しくなってしまうのかもしれない。
鼻から深く息を吸い込み、自分で自分に言い聞かせた。どう考えても手に入らない内藤さんよりも、いま目の前にいる大介さんで満足しなさいと。
この関係を続けていこうと改めて決心し、親指の爪から大介さんの顔へと視線を移す。そして私は気付いてしまうのだ。
ガラス窓に映った、悲しそうな自分の顔に。
「何?どうかしたのか?」
「な、なんでもないです。えへへ」
世の中、どうにも出来ないことも有る。今更私はこの交際を断れないし、もし内藤さんに気持ちを伝えても拒絶されるのは明らかだ。ああ、やるせないなあ。神様はどうしてずっと大介さんを好きでいさせてくれないのだろうか。
──そしてそのまま付き合いは続き、あっという間に3カ月が過ぎた。長く一緒にいればそれなりに情が湧くというか、2人の関係も徐々に変化してくる。男に不慣れでオドオドしている私と、いつでも堂々としている大介さんという立ち位置が少しずつ逆転し始めたのだ。
どうやら大介さんは己のファッションセンスがイマイチだと自覚していたようで、それがコンプレックスと化していたらしい。なので、その方面に強い私が全身コーディネイトを引き受けたところ、大好評だったとかで。ここ最近の彼はもう、私の言いなり状態だ。
というか、これまでが酷すぎたのである。
膝がテカテカになったコーデュロイのパンツや首部分がビロビロに伸びたタートルネックなんて、社会人としてどうかと思うワケで。
「あ、ダメダメ。新品のスニーカーはユーズド感を出した方がお洒落なんですよ」
「え?言ってる意味ワカンナイんだけど…」
「このテのものは真っ白な状態よりも、むしろ履き古した感じにすることでお洒落に見られるんですね。だから皆んなワザと踏みつけたり、タイヤに擦ったりして汚すんですよ」
「うわっ、意味不明~」
「それに真っ白なスニーカーって『汚すと怖い』とか思っちゃうでしょ?ならむしろ、最初から汚れてた方が気楽じゃないですか?」
「うーん、なんとなくソレは分かるかも」
親子三代で通っている床屋から、洒落た美容院へ鞍替えするよう説得したり。マジックテープバリバリの財布から、皮の財布に変えさせたり。まるで『マイ・フェア・レディ』の逆版みたいに私はひたすら大介さんを磨き上げた。
その結果、僅か3カ月で彼はイケてる男へと変貌し、モテモテになってしまったのである。
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