朝日家の三姉妹<1>~香奈の場合~

ももくり

文字の大きさ
上 下
5 / 56

焼き肉屋で恋バナを

しおりを挟む
 
 
 えっ?
 その『ホッ』ってのはいったい何の『ホッ』?
 
「朝日ってさ、お、俺のこと好きだよな?」
「……」
 
 気付かれていたのかというのが正直な感想で。そりゃあ気付くよなあというのが次に浮かんだ感想だ。だがしかし、どう答えれば良いのだろうか?悩んでいるうちに勝手に頬が赤らんでくる。
 
「最近、朝日のことが気になるっていうか。もしかしてお前の方から告ってくるのかもと思ってたんだけど、一向にそんな感じにならないし」
「……」
 
 ドキドキと心臓が波打つ。
 
 助けて、内藤さん!
 心の中で叫んでみても彼が現れるはずも無く。
 
「まあ、俺とお前なら互いのことを知り尽くしてるからさ、えっと…試してみないか?」
「な、な、何を?」
 
 待ち焦がれていたはずで、そして一番恐れてもいたその言葉を大介さんはいとも容易く放つ。
 
「俺と、その…付き合ってみませんか?」
 
 
 
 
 
 
 …………
 
 ジュウッとタレが香ばしく焦げる匂いがして、目の前には大量の煙が上がっている。

「あーっと、親父さん!追加で牛トロミノと~、ハラミとハツちょうだい…んで?香奈ちゃんはもちろん『はい』って答えたんだよな?」
「あ、内藤さん、私そろそろライスも欲しいな」
 
「おいこら早く言えよ。親父さん!ごっめ~ん。さっきのにライスも1つ付けて~」
「あのっ、サイズは小でお願いしまーす!」
 
 知る人ぞ知ると評判の、小汚いホルモン店。
 
 前々から内藤さんが『香奈ちゃんは絶対に好きそう』と話してくれていたのだが、こう見えてなかなかの人気店らしく。3週間前に予約してようやく今日、席を確保出来たのだ。
 
 客層はほぼオジさんというかサラリーマンのみで、そこにポツリポツリと女性が座っている。小さな店だから当たり前なのかもしれないが、席と席の間が異常に狭く、隣の人の会話なんて丸聞こえ状態である。
 
 男性という生き物は、こんな食事の場でも仕事のことを話したがるらしく、あちこちで『課長が~』とか『ノルマが~』などの単語が飛び交うなか、甘酸っぱい恋愛話をする肩身の狭さよ。
 
「で?話を元に戻すけど、7年間も片想いしていた相手から付き合おうと言われたんだから、『はい』と即答したんだよな?そりゃあ勿論か。いやあ~、良かった良かった。これで俺もホッとし…」
「『無理です』って断りましたよ」
 
「ホッ?!」
「だ、だって~!付き合うんですよ?!2人だけで食事して、定期的に連絡取り合って、『あはは、うふふ』と語り続けなくちゃいけないんだからッ」
 
 網上で反り返るシロをトングでぐいぐい押しながら、内藤さんはただただ口をポカンと開けていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...