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焼き肉屋で恋バナを
しおりを挟むえっ?
その『ホッ』ってのはいったい何の『ホッ』?
「朝日ってさ、お、俺のこと好きだよな?」
「……」
気付かれていたのかというのが正直な感想で。そりゃあ気付くよなあというのが次に浮かんだ感想だ。だがしかし、どう答えれば良いのだろうか?悩んでいるうちに勝手に頬が赤らんでくる。
「最近、朝日のことが気になるっていうか。もしかしてお前の方から告ってくるのかもと思ってたんだけど、一向にそんな感じにならないし」
「……」
ドキドキと心臓が波打つ。
助けて、内藤さん!
心の中で叫んでみても彼が現れるはずも無く。
「まあ、俺とお前なら互いのことを知り尽くしてるからさ、えっと…試してみないか?」
「な、な、何を?」
待ち焦がれていたはずで、そして一番恐れてもいたその言葉を大介さんはいとも容易く放つ。
「俺と、その…付き合ってみませんか?」
…………
ジュウッとタレが香ばしく焦げる匂いがして、目の前には大量の煙が上がっている。
「あーっと、親父さん!追加で牛トロミノと~、ハラミとハツちょうだい…んで?香奈ちゃんはもちろん『はい』って答えたんだよな?」
「あ、内藤さん、私そろそろライスも欲しいな」
「おいこら早く言えよ。親父さん!ごっめ~ん。さっきのにライスも1つ付けて~」
「あのっ、サイズは小でお願いしまーす!」
知る人ぞ知ると評判の、小汚いホルモン店。
前々から内藤さんが『香奈ちゃんは絶対に好きそう』と話してくれていたのだが、こう見えてなかなかの人気店らしく。3週間前に予約してようやく今日、席を確保出来たのだ。
客層はほぼオジさんというかサラリーマンのみで、そこにポツリポツリと女性が座っている。小さな店だから当たり前なのかもしれないが、席と席の間が異常に狭く、隣の人の会話なんて丸聞こえ状態である。
男性という生き物は、こんな食事の場でも仕事のことを話したがるらしく、あちこちで『課長が~』とか『ノルマが~』などの単語が飛び交うなか、甘酸っぱい恋愛話をする肩身の狭さよ。
「で?話を元に戻すけど、7年間も片想いしていた相手から付き合おうと言われたんだから、『はい』と即答したんだよな?そりゃあ勿論か。いやあ~、良かった良かった。これで俺もホッとし…」
「『無理です』って断りましたよ」
「ホッ?!」
「だ、だって~!付き合うんですよ?!2人だけで食事して、定期的に連絡取り合って、『あはは、うふふ』と語り続けなくちゃいけないんだからッ」
網上で反り返るシロをトングでぐいぐい押しながら、内藤さんはただただ口をポカンと開けていた。
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