昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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予想外の展開

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 とろんとしたその目を見ている私の目も、きっととろんとしているのだろう。予告通り、じっくりと私たちは繋がって。ゆるゆると律動を繰り返すと思ったのに、どこかで大雅のスイッチが入ったらしく。

「あー、ヤバイ、もう無理っ、ごめんアヤ!」
「え?!えええっ」

 舌を噛みそうなほどの激しい振動を受け、何度もその衝動任せの動きを謝られながらも、時間を忘れて狂ったようにその宴は続き。

 …気付くと夜になっていた。






 ………………
「何時だ?」
「えっと…う、えええっ?!じゅ、10時ッ」

 帰宅したのが確か3時頃だったから、もしかして7時間も我らはこんなことを??最後の方はもう、記憶が飛んでしまっているが、夢では無かったとこの掠れた声が物語っている。

「オー…じゃなくてお義父さん、きっと戻ってるよな…」
「う、うん。多分ね」

 普段は『オーナー』と呼ぶクセに。そんな分かり易く急に『お義父さん』とかさ、ほんともう、何なのこのキュートボーイ!!って、いちいちキュンとしている場合じゃない、とにかく服を着なければ。

 ベッドから離れようとした私は思わずよろける。生まれて初めての経験だが、腰を酷使したことにより立ち上がれないらしい。

「大丈夫か?アヤ」
「うん、そっちは大丈夫?」

 すると大雅は真顔でこう答える。

「んー、ちょっとだけヒリヒリする」
「ど…」

 どこが?と訊こうとして、慌てて口を噤む。そんなの訊かなくても分かるからだ。接触した部分が摩擦により痛むワケで。どこが接触したのかを考えれば答えは簡単!

 …って、しっかりしろ私ッ。

 両手を軽くパンパンと叩いて、気合いでどうにか立ち上がる。大雅も同様に身支度を整え、2人揃って居間へと向かった。すると案の定、父はそこで新聞なんぞ読んでおり。朝食前に読み終えるはずのソレを、なぜ今日に限って夜に読んでいるかは訊かないことにした。

「おっ、お父さん。晩御飯はもう食べたの?」
「ああ、適当に摘まんだよ」

 卓袱台までの距離が妙に遠く感じる。入口に立ったままで私たちは尚も続けた。

「オ、オーナー、お邪魔してます」
「ああ、昼も会っただろ?」

 3人が一斉にゴクリと喉を鳴らし、そして全員同時に口を開いた。

「まあ、とにかく2人とも座ったらどうだ?」
「さ、佐々木さんは元気だった?」
「アヤさんと結婚させてくださいッ」

 同時なのでもうシッチャカメッチャカ。しかも各々、特定の相手にだけ返事をしている。

「元気だったぞ。とても70代とは思えないよ」
「大雅、それってどういう…」
「あ、はい!じゃあ遠慮なく座らせて頂きます」

 たぶん父にも『結婚』の言葉は聞こえたはずだ。なのに、聞かなかったフリをしているのは何故か。なんとなく嫌な予感がしたが、取り敢えず2人揃って父の前で正座した。

 海外修業が長かった父は、そこで日本の魅力を再確認したとかで我が家は思いっきり和風だ。この居間も、畳に卓袱台それに座布団という、昭和の臭いが漂う空間になっており。本人は職業病と言い張っているが、少々メタボな父にとって寛ぎの場となっている。

 しばらく何も言うまいと決心した私とは逆に、大雅はどうしてもそれを伝えたかったのだろう。再度その言葉を口にした。

「あの…、オーナー、いえ、お義父さん。アヤさんと結婚させてくださいッ」
「んー、どうしよっかなあ…」

 テディベアみたいなその風体を揺らしながら、思わせぶりに父は言う。

「仕事は認めてるよ、でもねえ、女癖悪いもん。…あ、ところでさ、浦くんはどうしたんだい?」

 返事に困っていると、父は尚も問い詰めてくる。

「だってアヤは浦くんと付き合ってたんだろ?それもつい最近まで。どうして急に相手が新見くんになったのかな?しかも父親のいない間に自室に連れ込むとかさ、お、おと、お父さんはね、驚いたよッ。
 
 帰宅したら居間から新見くんが消えてて、2階から明らかにソレっぽい嬌声が響いてた。

 大事に育てたつもりだったけど、やはり男1人じゃ無理があったのかな?

 こんなはずじゃ無かったんだ…。

 なあ、新見くん、俺の清純で可愛いかったアヤを返してくれ。近所の野良猫が交尾している姿を見て、ショックで1日部屋に籠っていたあの頃の娘を。

 うあああっ、もう、どうすればいいんだあッ」

 …父が、泣いている。

 母と離婚しても、病気のせいで仕事を諦めることになっても、決して涙を見せなかった父が…。

 予想外の展開に戸惑っていると、更に戸惑う事態となる。

「…なーんてな!」

 突然、顔を覆っていた手を外し、ふてぶてしく笑いながら父は言うのだ。

「あはは!驚いたか?いいよ、結婚を許そう」

 
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