20 / 26
私は私
しおりを挟むなぜかココで茉莉子さんが、気の抜けるような相槌を打つ。
「分かる~、分かり過ぎる~」
「さすがブス!どうやらこっぴどく振られた過去有りねッ?!」
よ、容赦無いなコトリさん。仮にも雇い主の奥様のことを『ブス』って…。
「あたぼうよッ。ほら、コトリさんも知ってるでしょ?悟と付き合ってたんだよ、私。でもそれが罰ゲームだったと判明してさあ」
「あはは、アレ~。あんたの兄貴、鬼よね~」
『あはは~』って、笑ってるしッ。思わず突っ込みを入れてしまう私。
「でも、だって茉莉子さんの方は罰ゲームと知らなくて付き合ってたんでしょ?うわあ、そんな酷い目に遭ったら私だったら人間不信になっちゃうかも…」
しかし茉莉子さんは無表情なままで、淡々とこう答えるのだ。
「なったわよお、人間不信。でも、アメリカに留学して、そこで知り合ったインド人の女のコが私に説教してくれたの。『マリコ!人間は強者に惹かれるのよ』って。
『陰気臭い顔して、世の中の全ての人を憎んでるようなオーラを出してたら誰も近寄らない。そういう人は自分が不幸なのは他人のせいだと思ってて、自分はこれっぽっちも悪く無いと思い込もうとしている弱者なんだから』って。
それもそうかと思ってね、見せかけだけでも強いフリをしてみたの。無理して笑うことはしなかったけど、なるべく人と接するようにして。面白いことは言わなかったけど誠実に対応した。
そしたらね、自然と同類が寄って来たのよ。なりたい自分になったら仲間が集まって来たの。
誰だって変わることは怖いわ。でもそれを乗り越えてしまうと案外ラクよ。だって、どんな状況だろうと、どこへ行こうと、私は私なんだもの。
例え弱者から強者に変わっても、独身から既婚に変わっても、大きなカテゴリーで纏めると私は私なの。これだけは揺らがないし変えようが無いんだな。
ねえ、アヤさん。このまま現状維持する?
それとも変化を恐れず幸せになっちゃう?
さあ、ここで決めて頂戴!!」
………………
「アヤさん、お待たせしてすみません」
「うっ、いえ、あの、こっちこそ呼び出して、急なことだったにも関わらず、その、ごめん」
そんなワケで場所はそのままに、浦くんを呼び出したのである。
もちろん例の女子たちには帰って頂いたので、私と浦くんの2人きりだ。ちなみに茉莉子ちゃんはウチの店の近所に住み、私の自宅もウチの店から徒歩20分で、浦くんはその裏のアパートに住んでいるのだが、いまいる喫茶店はその中継地点に有ると言えよう。
つまりメチャ早くやって来たんだな、この人。
全然待ってないよッと突っ込みたい所だったが、今から話す内容の深刻さを考え、我慢する。平日の午後4時という時間帯もあって、さほど混んでいないせいか驚きの速さで浦くんの注文したコーヒーが運ばれてきて。それが半分ほど無くなった頃に、ようやく話を切り出す。
「返事が遅れて大変申し訳無かったんだけど、やっぱり私は店長を選ぼうと思っています。自分でもバカだって分かってるんだよ?浦くんを選んだ方が傷つかないって。でも…」
「はい」
あまりにも短い返事だったので、思わずこちらから訊き返してしまう。
「えっ?あの、それはどういう…」
「前々から決めていたんです。アヤさんが店長とヨリを戻す決心をしたら、その時は2つ返事で諦めようって」
「う…」
「だから『はい』、もう分かりましたので。これ以上なにも言わないでください」
3
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。



甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる