16 / 26
そっか、そうだよ。
しおりを挟む「私ね、思うんですよ。付き合う相手には誤解を与えたくないし、不安にさせたくないって。
だって好きなんだから、誰よりも幸せにしたい。
いつでも笑っていて欲しいし、哀しみの原因が自分に有るのなら、必死に努力してそれを排除する。以前、店長と付き合っていた時は、『いつか変わってくれるはず』と期待しました。
…でも、いつまで経っても変わらなかった。
アナタは私の前でも平気で他の女性と食事に行く約束をしたし、私の前だというのに平気で他の女性とじゃれ合ったんです。『イヤだったのなら、その時に言え』と思っているかもしれませんね。
でも、そこじゃない。
いちいち申告されて直すのでは無く、アナタが心の底から『アヤを幸せにしたい』と思っていたとすれば、そんな行動はしないはず。
ね?アナタの『好き』はその程度なんです。
私はアナタと一緒にいても幸せになれない。だけど、この広い世の中にはアナタの行動に耐えられる女性がいるのかもしれない。このまま問題を解決せずにヨリを戻しても、また同じことの繰り返しだと思うんです。
…浦くん、色々と黙っていてゴメンね。でも、真面目なアナタのことだから、店長との関係がギクシャクするかなと思って。それから正直に言うね。
私は浦くんのことを、
世界一好きというワケじゃない。
でも、世界一信じられると思っているの。
アナタとなら上手くやっていけるって、そう思ったから付き合ったんです。今ここにいるのも、店長にキッパリと断るため。だからお願い、私を嫌いにならないで。
こんな状況を見てしまって、私を信じられないと思っても仕方ないけど。だけど、やましいことは何も無いから」
…これが私なりに悩んで出した答えだ。
真っ直ぐに浦くんを見ると、見詰め返され。そして彼はフッと頬を緩めて私の手を握った。
「平気」
「えっ?」
よくよく考えると…いや、よく考えなくても凄く失礼なことを言ったと思うのに。
だって一番好きな男では無いと断言したんだよ。なのにさすが浦くん。前から薄々感じていたのだけれども、この人って本当に器が大きい。
そういや中学高校と空手部に所属していたって。きっとそこで心身共に鍛えられ、どんな局面に立っても焦らずじっくりと対応出来るのだろう。
「だから『平気』だと言ったんです。だって結局は俺を選んでくれたのでしょう?こうして内緒で店長に会っていたのも、しつこく言い寄られたのを断るためだろうし。…いいんです、俺はアヤさんが誠実でとても真面目な女性だと分かっている。
でも、これだけは言っておこうかな。
俺は世界一信じられる女性がアヤさんで、
そして、世界一好きな女性もアヤさんですから。
これから俺を世界一好きになってくださいよ」
な、なんなのこのドッシリ感??
安定し過ぎて怖いくらいだわッ。
浦くんは本当に私にベタ惚れで、私がどんな粗相をしても決してその気持ちは揺らがないのだろう。
『平穏無事な恋愛ってツマンナイ』とか言って、誠に申し訳ございませんでした。いやあ。自分の彼女が他の男と抱き合っているところを見てしまったのに、それでも私を信じるとかさ、なんかもう…ん??
誰かと似ているような…。
はて??誰…。
って、私かーい?!
そっか浦くんは、店長と付き合っていた頃の私に似ているんだ。どんなに怪しい行動をされても、ひたすら私は店長を信じた。
いや、信じているフリをした。
怒ったり拗ねたりするような、重い女だと思われたくなくて。ただひたすら理解の有る女を演じ続け、『どうってことないよ!』と笑っていたっけ。
そっか、そうだよ。
「ごめんね、浦くん」
「えっ?何で謝るんですか」
この人が傷ついていないワケが無い。
「だって世界一好きな男ではないとか言って。でも、ちゃんと好きだよ。すごく好きだから。じゃなきゃ付き合ったりしないし」
「はは…。いいんですよ、気にしないで」
これからはこの人にきちんと向き合って、もう過去のことなんて忘れよう。
…そう決心したその時、店長が口を開いた。
5
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

なし崩しの夜
春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。
さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。
彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。
信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。
つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。



甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる