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自分でもビックリだ
しおりを挟むいや、そのっ。私も自分から告白しているが、こちとらオーナーの娘で『転職』の選択肢は無かった。だから、私は例外だ。
そして明らかに実夕ちゃんのもレアケースで。普通の女子ならば、同僚に愛を告白して拒絶された場合は己の身の振り方を考えるはずだ。なので、実夕ちゃんの事例を参考にするのは非常に危険だ…的なことを延々と述べてみた。
「えっと、いや、今はそこじゃなくて…あの…、アヤと付き合ってた頃を後悔しているというか、ほら、色々と嫌な思いをさせてしまっただろ?俺も、今後はハッキリ断ろうと決心したんだ!」
「断る…?でも、今は大丈夫だよね??現メンバーは誰も店長のことを意識して無いし。だって私でしょ、実夕ちゃんに既婚のチカさん。言い難いんだけどね、実夕ちゃんは10歳以上年の離れた店長を恋愛対象とは見てないって」
…なんだその驚きの表情は。
というか、万人に愛されるつもりでいたの?
なんだよ、その自信。
天狗だな。
お前、天狗になってるんだろう。
「もういっそ、結婚して身を固めたらどうなの。そうすれば色々と落ち着くかもしれないし」
「うっ、あ…じゃあアヤ!俺と結婚しないか?ほ、ほら、それが一番シックリくるだろ」
はあん?なんだその投げやりな言い方。
私なら断らないとでも思っているのか?
「慎んでお断りさせて戴きます。だって私、幸せな結婚生活を送りたいんで。店長となんて一緒になったらきっと地獄だもん」
「じ、地獄??」
いつの間に私はこれほど強くなったのだろう。
なんかもう、自分でもビックリだ。
3年前、店長と別れてから何度復縁したいと願ったことか。願っているうちにこの人に新しい彼女が出来て、煉獄で責めを受けているような苦しみを味わい。店長がその彼女とも別れたので、再び葛藤しているとまたすぐ次の彼女が登場。
それを繰り返していくうちに、心が麻痺してしまったのだ。
この男は私の欲しいものを決してくれない。
だから私もこの男を欲しがることを止めたのだ。
話はもう終わったから早く何処かに行ってくれ。…そう念じてみるが、なぜか店長は動かない。
「あ…の、アヤ、俺、ほら、この店を一生守るつもりでいるからさ。アヤとならきっと仲良く頑張れると思ってるんだけど…」
「え?ああ。そうだね、これからも頑張ろッ」
小さくガッツポーズを作ってみる。
…分かったから早く去ってよ。
「そうじゃなくて俺、アヤと付き合ってた時が一番上手くいってたと思うんだよ。だから、結婚するならアヤ一択なんだ。お前だって俺のこと嫌いじゃないだろう?」
プツリと何かが切れる音がした。
浮かべていた笑顔を瞬時に消し、私は淡々と反論する。
「そりゃあ上手くいってたでしょうよ。…ひたすら私が我慢してたからね。
アナタ、定休日だろうと店の雑務で会えないし。だから仕方なく終業後に疲れた体を引き摺って会いに行けば、当の本人は他の女に呼び出されホイホイ出掛けて行くし。いつでもどこでも女から電話が掛かって来て、躊躇無くそれに出てたっけ。
一緒に温泉旅行した時だって、どこかの女から電話が掛かってきて1時間喋り続けたでしょ?しかも、あの日は私の誕生日だったりしてさ…。あんなの、普通だったら絶対にキレるよね?『彼女より他の女を優先するなんて、いったいどういうこと?』って怒るはずだよ。
やっぱ、無いわ~。
なんか色々と思い出したら腹が立ってきた。
私はね、仕事とプライベートをキッチリ分けた思いやりのある人と結婚するつもり。となると、店長なんて真っ先に除外だから」
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