昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする

ももくり

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ひとり問答

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 しつこく言うが、若いって素晴らしい。

 キッカケとなった実夕ちゃんは予想外のタフさを見せ、バイトも辞めないと。

「やだもうアヤさんてば私に恥をかかせて~。でも、そのお陰で浦さんとくっついたんだから感謝してくださいよ」
「ん、有難う…」

 なんだか複雑だ。すごくすごく複雑だ。

 これでいいのだろうか、私?

 勢いに流されて付き合うとか返事したけど、浦くんとあんなコトやこんなコトを出来るのか。すぐエロの方向に思考を繋げて申し訳無いが、だって28歳と24歳の健全な男女が付き合い、そこに辿り着くまでにそれほど時間は必要ない。

 ショートカット好きの彼は、私を性欲の対象にしているに違いないのだ。

 そんな発想から、野菜を切る彼の手を凝視してしまう。

 男性特有の節がシッカリした長い指。よく見ると喉仏とか太い首とか肩のラインとか。今まで気にしていなかった、『男』を主張する箇所が妙に目につく。出来上がった料理をテーブルに運びながら、ふと店内の男性客を眺めて自分に問うた。

 あの男性客は…イヤ。
 この男性客は…イケル?
 でもやっぱりイヤ。

 もし、いま誰かに思考を読まれたら、きっと恥ずかしくて死んでしまうだろう。しかし、エロモード全開になった私は、『どの男性になら抱かれても良いか?』という脳内でのひとり問答を繰り返す。

 結果、どうやら私は男性に対する評価が厳しく、店内に12人もいたのに誰も合格しなかった。そのまま厨房でランチのコーヒーを用意しつつ、再び浦くんの姿を凝視する。

 うん、いける。
 彼になら抱かれてもいいや。

「…あの、アヤさん」
「な、何かな?浦くん」

 観察対象からいきなり声を掛けられ、戸惑いを隠せない小心者の私。

「さっきから、すごく視線を感じちゃって、その…仕事に集中出来ないって言うか。言いたいことが有るなら言ってくれませんか?」
「んー、仕事中なのにゴメンね。なんか改めて浦くんを男として意識してるんだ。こうして見ると、いいよね、浦くん」

 2人の会話を聞いた実夕ちゃんが、ガンガンとトレイをカウンターにぶつけている。

「実夕ちゃん?!トレイが壊れるから止めて」
「だってっ!!そんな会話、聞きたくないです。職場でイチャつくのは禁止にしましょうよッ!あ、店長からも厳重注意してください!!」

 寸胴鍋に入ったスープを撹拌していた店長は、ふと私の方をジッと見つめ。それから無言のままでその作業に戻ってしまう。

 一瞬だけ思考が麻痺して、ついウッカリ先程のひとり問答を再開する。

 この男は…イケル。

 っていうか、過去に何度もしてるし。
 たぶん相性も良かったよね、私たち。

 おいおい、店長相手に何を考えているんだ、私。せっかく前へ進もうと思ったのに、こんな男のことなんか忘れちまえよ。

 そんな私に更なる嵐が吹いてくるのは、その日の夜の部での出来事である。

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