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トントン拍子で怖い
しおりを挟む季節が夏から秋に変わり、肌寒さが世界を彩った頃。
イスミ・アドレアルは、教室で語られる授業の板書を、目の前のノートに懸命に綴っていた。
イスミは、国立第三高等学校の一年生である。
イスミの平凡な日常は、今日も何も変わらずに平凡に過ぎていく。
イスミは本来であれば高等学校三年に数えられる年齢であったが、諸般の事情により今は一学年の授業を受けている。
それを知るものは、この学校には存在していない。
既知の内容である授業は、イスミにとっては単なる復習に過ぎない。
つい先日行われた定期試験も学年で一位であったし、熱心に授業を受ける必要性もなかった。
しかし、イスミは学生の本分を全力で全うする。
それが、イスミの中の《普通》であったから。
本日の授業の終了が告げられて、イスミは帰宅するべく机の上を片付け始めた。
喧騒が教室を満たす。
イスミはそれを横目に教室を出ようとした。
「イスミごめん! 日直手伝って!」
背後にかかる声に足を止める。
一瞬の思考ののち、イスミは自分の席に戻って鞄を置いた。
「ちょっとだけな」
イスミは板書を消しに教室の前に向かった。
「悪いな、ありがとう」
「用事があるから。これ消したら帰るよ」
イスミがこうして手伝いを頼まれるのは特別なことではない。
イスミは頼まれたら断れない。
それが、このクラスの暗黙の理解でイスミが思うイスミの普通だった。
毎日のようにイスミはクラスの雑用の手伝いを頼まれている。
断ることによる波風をイスミは望んでいなかったからだ。
全てを肩代わりせずとも、協力申し出れば悪い顔はされない。
基本的に人間は安寧に阿るものだ。
普通、そうする。
だからイスミは断らない。
周囲の期待通りに行動する。
イスミはそうして、生きていた。
そうして、この学校という組織の平凡なピースとして生きている。
それが、普通だから。
宣言通りに黒板を綺麗にし終えたイスミは、鞄を持って教室を出た。
自らが所属するもう一つの組織へ向かうためである。
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