好きですけど、それが何か?

ももくり

文字の大きさ
上 下
30 / 35

メチャンコ素敵な彼氏

しおりを挟む
 
 
「む…らせさん?」
「そうよ、村瀬です」

 どうして私の電話番号が分かったのか?
 そして何故こんな時間に掛けてきたのか?
 
 そんな疑問を口に出す隙すら与えてくれず、一方的に用件だけ伝えてくる。

「明日午後3時に前田のマンション近くにあるトモミコーヒーという店で待ってるわ。絶対に来てね!」
「えっ?!あのっ、む…」

 切れたし。っていうか、行きたくないけど、もし行かなかったらどうなるんだろう?待ち合わせ場所からしても、絶対に前田関係の話だよね?釘でも刺すつもりなんだろうか?いや、それ以前にバレたのか?それならそれで先に前田から連絡が…って、考えてみたらずっと奴からの電話を無視してたや。

「ねー、千脇ちゃ~ん」
「な、何かな?マリちゃん」

 わらわらと店から出てくる人々の最後尾にいた彼女は、気持ち悪いほどピョンピョンしながら私に向かってくる。

「いまさあ、前田くんから電話有ったよ。なんか世間話だけして切れちゃったけど」
「前田から?」

 もしやソレはマリちゃん経由で私に連絡を取ろうとしたのでは?

「うん。婚約者が誰なのかって訊いたんだけど、どうやら村瀬さんでは無いみたい」
「村瀬さんじゃ…ない??」

 なんだこのミステリー展開。アガサか?アガサさんちのクリスティーさんが舞い降りて来たのか?いや、ごめん、クリスティーさんちのアガサさんだったわ!

「どうした、千脇さん」
「あ、廣瀬さん。あの、いえ、ちょっと…」

 最早、マウンティング合戦に生きがいを見出したこの御方は、マリちゃんが私に接近してきただけで戦闘モードに突入してしまうらしい。先程まで部長と話していたのに、それを吹っ切ってまでココに来るなんて頭おかしいとしか言い様が無い。人格者だと評判の総務部長は、離れた場所から微笑ましそうに私達を眺めている。

「哲くん!待ってたんだよ。さ、もう行きましょ」
「ごめんマリちゃん、仕事の話をしててさ」
「えっ?あの…マリちゃん?」

 職場の人間が大勢いるというのに、マリちゃんは蔦の如く宮丸くんの腕に絡みついたまま去って行った。なんと無責任な!そこまで話したのなら最後まで伝えていってよ!!私は奥歯をギリギリと噛み締めながら廣瀬さんと共に帰路に就いたのである。
 



「へえ、村瀬さんが?何の用件だろうな」
「前田絡みなのは確かなんですけど。…あ、もしかして弟のように大切に想っている前田が婚約して幸せになろうとしているのだから、お邪魔虫の千脇芙美は邪魔すんな!という有り難い忠告を授けてくださるのかもしれません。婚約者が村瀬さんじゃないということは、そういう展開も有り得ますよね」

 顎に指を添えて軽く頭を傾げた廣瀬さんは、とんでもないことを言い出す。

「慰謝料…というセンも考えられるぞ」
「は?慰謝料ですか」

「俺の知人にいたんだよ、結婚前だったけど両家の挨拶まで済ませた婚約者がいるのに、独身最後だからと浮気して破談になった男が。その場合、浮気相手にも慰謝料が請求されてしまうらしい。まあ、少額だがな」
「わっ、私は大丈夫ですよね?!」

「さあ、どうだろうか」
「そこは嘘でも大丈夫だと言い切ってくださいよ」

 口では明るく言ってみたものの、内心では激しく動揺していた。慰謝料はさておき、もしも私のせいで破談なんてことになっていたらどうしよう。前田、意外と粗忽者だからついウッカリばれてしまったのかもしれない。だったら誠心誠意、謝ったら復縁できるのではないか?もう過去のことだと私が相手の女性を安心させれば、きっと…。

「まあ、最悪の事態を想定しておけばイザという時に安心だろ」
「一生のお願いです、廣瀬さんも一緒に来てください」

「あのさあ、もう既に20回くらい“一生のお願い”を使ってるだろ。なんか千脇さんの一生って安くない?」
「安いかもしれませんけど、今度の一生はスッゴイ一生なんですッ」

 言ってる本人も意味分かってないから。

「えっと、じゃあさ、整理すると村瀬さんは保護者的な役割で、前田くんは破談になり掛けていて、婚約者が千脇さんとの浮気を知ってしまったのならばもう復縁は有り得ませんよという意志表示で俺をつれていく…という理解でいいかな?」
「はい!もう前田とはヨリを戻しません、だってこんなにメチャンコ素敵な彼氏が出来たんだから…という分かり易いアピールをするためにも廣瀬さん、是非ご同行を」

 ニマァ…と笑ったかと思うと、目の前のその人は満足気に頷いた。

「メチャンコって、今どき誰も言わないよね」
「そ、そこですか?」

 ふぐっ、と言葉に詰まっていると廣瀬さんは急に真顔になってその先を続けた。

「いいよ、一緒に行ってあげる」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

あなたと友達でいられる最後の日がループする

佐倉響
恋愛
友人の柊がお見合いをする。 相手のためにも女の小春はもう会わないで欲しいと柊の父親に言われ、いつかそういう日が来ると思っていた小春はあっさりと了承する。 だが柊と最後に食事をすると彼はヤケ酒をして酷く弱ってしまい、小春に友達をやめるのなら抱かせて欲しいとお願いしてきた。 恋心を隠して友達としての距離を守り続けてきた小春は誘惑に抗えず、柊の相手をしてしまう。 これでお別れだとその日のうちに泣きながら柊の家を出ると、柊から連絡が届く。 正気に戻った柊から嫌われるとばかり思っていた小春は「ごめんね」とメッセージを送ろうとするも、誰かに背中を押されて死んでしまった。 小春のスマホに残ったのは柊からのメッセージと、送信できないまま残ったごめんねの文字。 そして小春は柊と別れの挨拶をする朝に戻っていた。ただし、死ぬ直前の記憶だけは残らないまま。 ※この作品はムーンライトノベルにも掲載しています。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

夫のつとめ

藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。 29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。 「あなた、私と結婚しなさい!」 しかし彼の返事は…… 口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。 ※エブリスタさまにも投稿

処理中です...