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メチャンコ素敵な彼氏
しおりを挟む「む…らせさん?」
「そうよ、村瀬です」
どうして私の電話番号が分かったのか?
そして何故こんな時間に掛けてきたのか?
そんな疑問を口に出す隙すら与えてくれず、一方的に用件だけ伝えてくる。
「明日午後3時に前田のマンション近くにあるトモミコーヒーという店で待ってるわ。絶対に来てね!」
「えっ?!あのっ、む…」
切れたし。っていうか、行きたくないけど、もし行かなかったらどうなるんだろう?待ち合わせ場所からしても、絶対に前田関係の話だよね?釘でも刺すつもりなんだろうか?いや、それ以前にバレたのか?それならそれで先に前田から連絡が…って、考えてみたらずっと奴からの電話を無視してたや。
「ねー、千脇ちゃ~ん」
「な、何かな?マリちゃん」
わらわらと店から出てくる人々の最後尾にいた彼女は、気持ち悪いほどピョンピョンしながら私に向かってくる。
「いまさあ、前田くんから電話有ったよ。なんか世間話だけして切れちゃったけど」
「前田から?」
もしやソレはマリちゃん経由で私に連絡を取ろうとしたのでは?
「うん。婚約者が誰なのかって訊いたんだけど、どうやら村瀬さんでは無いみたい」
「村瀬さんじゃ…ない??」
なんだこのミステリー展開。アガサか?アガサさんちのクリスティーさんが舞い降りて来たのか?いや、ごめん、クリスティーさんちのアガサさんだったわ!
「どうした、千脇さん」
「あ、廣瀬さん。あの、いえ、ちょっと…」
最早、マウンティング合戦に生きがいを見出したこの御方は、マリちゃんが私に接近してきただけで戦闘モードに突入してしまうらしい。先程まで部長と話していたのに、それを吹っ切ってまでココに来るなんて頭おかしいとしか言い様が無い。人格者だと評判の総務部長は、離れた場所から微笑ましそうに私達を眺めている。
「哲くん!待ってたんだよ。さ、もう行きましょ」
「ごめんマリちゃん、仕事の話をしててさ」
「えっ?あの…マリちゃん?」
職場の人間が大勢いるというのに、マリちゃんは蔦の如く宮丸くんの腕に絡みついたまま去って行った。なんと無責任な!そこまで話したのなら最後まで伝えていってよ!!私は奥歯をギリギリと噛み締めながら廣瀬さんと共に帰路に就いたのである。
「へえ、村瀬さんが?何の用件だろうな」
「前田絡みなのは確かなんですけど。…あ、もしかして弟のように大切に想っている前田が婚約して幸せになろうとしているのだから、お邪魔虫の千脇芙美は邪魔すんな!という有り難い忠告を授けてくださるのかもしれません。婚約者が村瀬さんじゃないということは、そういう展開も有り得ますよね」
顎に指を添えて軽く頭を傾げた廣瀬さんは、とんでもないことを言い出す。
「慰謝料…というセンも考えられるぞ」
「は?慰謝料ですか」
「俺の知人にいたんだよ、結婚前だったけど両家の挨拶まで済ませた婚約者がいるのに、独身最後だからと浮気して破談になった男が。その場合、浮気相手にも慰謝料が請求されてしまうらしい。まあ、少額だがな」
「わっ、私は大丈夫ですよね?!」
「さあ、どうだろうか」
「そこは嘘でも大丈夫だと言い切ってくださいよ」
口では明るく言ってみたものの、内心では激しく動揺していた。慰謝料はさておき、もしも私のせいで破談なんてことになっていたらどうしよう。前田、意外と粗忽者だからついウッカリばれてしまったのかもしれない。だったら誠心誠意、謝ったら復縁できるのではないか?もう過去のことだと私が相手の女性を安心させれば、きっと…。
「まあ、最悪の事態を想定しておけばイザという時に安心だろ」
「一生のお願いです、廣瀬さんも一緒に来てください」
「あのさあ、もう既に20回くらい“一生のお願い”を使ってるだろ。なんか千脇さんの一生って安くない?」
「安いかもしれませんけど、今度の一生はスッゴイ一生なんですッ」
言ってる本人も意味分かってないから。
「えっと、じゃあさ、整理すると村瀬さんは保護者的な役割で、前田くんは破談になり掛けていて、婚約者が千脇さんとの浮気を知ってしまったのならばもう復縁は有り得ませんよという意志表示で俺をつれていく…という理解でいいかな?」
「はい!もう前田とはヨリを戻しません、だってこんなにメチャンコ素敵な彼氏が出来たんだから…という分かり易いアピールをするためにも廣瀬さん、是非ご同行を」
ニマァ…と笑ったかと思うと、目の前のその人は満足気に頷いた。
「メチャンコって、今どき誰も言わないよね」
「そ、そこですか?」
ふぐっ、と言葉に詰まっていると廣瀬さんは急に真顔になってその先を続けた。
「いいよ、一緒に行ってあげる」
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