25 / 35
マスターオブラブ千脇
しおりを挟む ぼんやりしながら机に向かい、アシュルから来た何枚もの手紙を眺める。入学してからというもの毎日手紙が送られてくる。健気な弟が可愛い。早く返事を書かなければ、もう何日も返していない。このところ気持ちが落ち着かなくて、ウェルとのことを何度も夢に見た。記憶を辿り、いつウェルに嫌われたのか何故嫌われたのか、ぐるぐると考え込んでは落ち込んで堂々巡り。生徒会はしばらくお休みを貰っているが、この間なんて授業中に注意力散漫だと叱られた。筆を持ち、紙を広げたのは良いが何も書けない。
『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』
書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。
「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」
肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!
「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」
許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
ええい、この際だだから言ってやるっ。
「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」
まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
案外、良い子なのだろうか?
「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」
優しく問いかけられると、解れるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。
「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」
含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。
って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
あ~~~~っ!
くそっ、騙されそうになった!
美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
今、なんか変だった!
コイツは面白がってる。
絶対そう!
でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。
「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」
椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
明らかに狼狽えている。
やはりな、俺の目はごまかせない!
はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。
「えっ、なにっ…。」
突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。
こ、これは、もしかして…。
抱きしめられている、のか?
えっ⁉ なんでぇ⁉
怖いっ!
「うぃ、うぃちるだく~ん?」
離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。
「好きだ、フランドールくん。
ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」
『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』
書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。
「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」
肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!
「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」
許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
ええい、この際だだから言ってやるっ。
「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」
まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
案外、良い子なのだろうか?
「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」
優しく問いかけられると、解れるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。
「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」
含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。
って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
あ~~~~っ!
くそっ、騙されそうになった!
美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
今、なんか変だった!
コイツは面白がってる。
絶対そう!
でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。
「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」
椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
明らかに狼狽えている。
やはりな、俺の目はごまかせない!
はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。
「えっ、なにっ…。」
突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。
こ、これは、もしかして…。
抱きしめられている、のか?
えっ⁉ なんでぇ⁉
怖いっ!
「うぃ、うぃちるだく~ん?」
離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。
「好きだ、フランドールくん。
ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

あなたと友達でいられる最後の日がループする
佐倉響
恋愛
友人の柊がお見合いをする。
相手のためにも女の小春はもう会わないで欲しいと柊の父親に言われ、いつかそういう日が来ると思っていた小春はあっさりと了承する。
だが柊と最後に食事をすると彼はヤケ酒をして酷く弱ってしまい、小春に友達をやめるのなら抱かせて欲しいとお願いしてきた。
恋心を隠して友達としての距離を守り続けてきた小春は誘惑に抗えず、柊の相手をしてしまう。
これでお別れだとその日のうちに泣きながら柊の家を出ると、柊から連絡が届く。
正気に戻った柊から嫌われるとばかり思っていた小春は「ごめんね」とメッセージを送ろうとするも、誰かに背中を押されて死んでしまった。
小春のスマホに残ったのは柊からのメッセージと、送信できないまま残ったごめんねの文字。
そして小春は柊と別れの挨拶をする朝に戻っていた。ただし、死ぬ直前の記憶だけは残らないまま。
※この作品はムーンライトノベルにも掲載しています。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる