好きですけど、それが何か?

ももくり

文字の大きさ
上 下
21 / 35

よく出来た彼女

しおりを挟む
 
 
 …………
「ねえ、千脇ちゃん。今度の土曜に宮丸くんとデートするんだけど、オススメのお店って有る?」
「ごめぇん、私ってどちらかと言うとお家でシッポリ派だから、あまり外食はしないんだよね」

「えーっ、でもお、自分が行かなくてもグルメガイドとかよく読んでるじゃない」
「きゃはっ、そんなの流し読みしているだけで店名まで覚えてないよ」

「そっか、興味無いことは覚えないっていうもんね。じゃあさ、いつか千脇ちゃんに彼氏が出来てデートコースで悩んだら私に相談してね。たくさんアドバイス出来ると思うから」
「マジで?!それは有り難い!!」

 おいこらマリちゃん、手が止まってるって!今こうしている間にも残業代は発生しているんだし、雑談しても仕事はキッチリこなそうよ。

「もうすぐ宮丸くんの誕生日なんだよねー。プレゼント、何をあげようかなあ」
「……」

 最早、返事することを放棄した私。

 いやあ、いざとなると切り出せないもんッスね。せっかくミスター完璧が彼氏役をしてやると仰ってくださったのに、実際にその場面になると何も言えないんだな。だって、嘘が苦手なんだもん!前田との関係は『有ったこと』を隠すだけだったから何とかなったけど、廣瀬さんの方は『無いこと』を有るかのようにしてわざわざ公表するという真逆の作業なんだもん。

 腕組しながら自分の顎に人差し指をトントンと置いて、あーでもないこーでもないとマリちゃんは初彼へのプレゼントを悩んでいる。それを視界に入れないようにして、資格リストを作成し続ける私。えっと…、次はシステム管理課の緒方修三さんで…この人に必要なのは…。

「やっぱりネクタイかな!値段も手頃だし」

 そう、ネクタイ…じゃなくてッ!!雑談で私を惑わさないでよ。気を取り直して、次は同じくシステム管理課の阿部光一さんで…この人が既に持っているのは…。

「トランクス!ねえ、トランクスでもいいと思わない?1週間分ということで7枚贈るの」

 私がいま行なっている仕事は、履歴書に書いてある取得済の資格の真偽を調査し、更新が必要な資格だった場合はその手続きが為されているかも確認して、更に我が社在籍中に取得した資格も加えた上で、本人が今後取得するべき資格を検討するというものだ。そしてマリちゃんには我が社在籍中に取得した資格の方を全社員分、リスト化して貰っているのである。

 だからさー、集中力が必要なんだよねー。なのに…ああもう、本当に気が散る!散るったら散りまくる!チルチルミチルの青い鳥かっつうの!!

 かと言って、職場の人間関係を荒んだ雰囲気にしたく無い小心者の私は、絶賛給料泥棒中のマリちゃんに注意することも出来ず、彼女の言葉をシャットアウトしてひたすら仕事に没頭していた。

 その時。

「ただいま戻りました」
「あ、お疲れさまです」

 珍しく早い時間帯に廣瀬さんが帰って来た。雑談モードだったマリちゃんは遅れて『お疲れ様です』と言い、そして急に黙り込む。そんな彼女をチラッと一瞥し、ホワイトボードに書かれている自分の行動予定を消しながら廣瀬さんはその足で私の元へとやって来る。

「千脇さん、まだ残ってくか?もう今日は終わったらどうだ?」
「え?…あ、じゃあ…そうします」

「じゃあ、俺と一緒に帰ろう。今晩はどこかで食べて帰ろうよ」
「あ…え…と、はい」

 てっきりマリちゃんのことも誘うかと思ったのに。本性を知ってしまった今は悪だくみしているようにしか見えない笑顔で廣瀬さんは、マリちゃんに問い掛ける。

「宮丸くんも講師の方との打ち合わせが終わったみたいだし、佐久間さんは彼と帰るんだよね?」
「はい。やだ、もしかしてご存知なんですか?!私たちが付き合ってることを」

「うん、知ってる…というか、悪いけどもうちょっとテンション落としてくれないかな?言いたくないけどココは職場なんだからね。社内恋愛は禁じていないし、むしろ俺はどんどんすればイイと思っている。でも、残念ながら佐久間さんの態度は目に余るんだ。仕事そっちのけで彼氏自慢とか、あれじゃあ、真面目に頑張っている宮丸くんが気の毒すぎる。佐久間さんの行動はね、宮丸くんの足を引っ張っているも同然なんだよ」
「…えっ」

 ニコニコだったマリちゃんの表情が一転、険しくなった。

「こう言っちゃなんだけどね、俺も実は社内恋愛中なんだけど相手の女性はそれを大声で言ったりしないし、普段通りに接してくれるからとても助かっているんだ。本当によく出来た彼女だと感謝しているよ」
「廣瀬さんも…社内恋愛中なのですか…」

 さあ、ここで漸く廣瀬さんのドヤ顔がさく裂だ。

「そう、俺はここにいる千脇さんと付き合っているんだよ」
「ち、ち、千脇ちゃんと?!」

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

あなたと友達でいられる最後の日がループする

佐倉響
恋愛
友人の柊がお見合いをする。 相手のためにも女の小春はもう会わないで欲しいと柊の父親に言われ、いつかそういう日が来ると思っていた小春はあっさりと了承する。 だが柊と最後に食事をすると彼はヤケ酒をして酷く弱ってしまい、小春に友達をやめるのなら抱かせて欲しいとお願いしてきた。 恋心を隠して友達としての距離を守り続けてきた小春は誘惑に抗えず、柊の相手をしてしまう。 これでお別れだとその日のうちに泣きながら柊の家を出ると、柊から連絡が届く。 正気に戻った柊から嫌われるとばかり思っていた小春は「ごめんね」とメッセージを送ろうとするも、誰かに背中を押されて死んでしまった。 小春のスマホに残ったのは柊からのメッセージと、送信できないまま残ったごめんねの文字。 そして小春は柊と別れの挨拶をする朝に戻っていた。ただし、死ぬ直前の記憶だけは残らないまま。 ※この作品はムーンライトノベルにも掲載しています。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

夫のつとめ

藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。 29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。 「あなた、私と結婚しなさい!」 しかし彼の返事は…… 口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。 ※エブリスタさまにも投稿

処理中です...