好きですけど、それが何か?

ももくり

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廣瀬魔人、正体を現す

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 廣瀬さんの貴重な睡眠時間を削っているという自覚が有ったので、ごく手短に。

 2年前に酔った勢いで前田と一夜を過ごし、それから互いの部屋に泊まり合う仲になったが、このたび目出度く彼が別の女性と婚約したので解消しました…と。

 私のプライベートになんて興味が無いだろうと思ったのに、予想外に廣瀬さんは質問を投げてくる。

「えっ?一夜を過ごすって、俺の時みたいなトークオンリー?」
「いえ、ガッツリ性交しましたよ」

「…俺の時も酔ってたのに、そうはならなかったよね?」
「あ…あ、そう、そうですね…」

「んー、ということは、そっか、千脇さんは前田くんのことが好きだったのか」
「……」

 なかなかこの人、鋭いかもしれない。

「ね、好きだったんだろう?」
「さあ、どうでしょう」

「いや、好きだって言ってよ。そうでなきゃ、何で俺とはしなかったのかってことになるからさ」
「は?」

 なんだかおかしなことを言い出したぞ。

「だって、俺、そこそこモテてるって自信あったんだけど。その俺と2人きりだったのに、朝まで何もせずに過ごすとか、そんで、他の男だと一線超えちゃうとか、…まるで俺に魅力が無いみたいじゃないか!」
「あー、そうですね」

「ええっ?!認めちゃう?俺に魅力が無いって肯定しちゃうワケ?!」
「いやー、そうは言って無いじゃないですか」

 段々、面倒臭くなってきたぞ。

「それが『前田くんのことが好きだったから、してしまいました』だと納得なんだ。ねえ、早く認めなよ」
「うっ、なんで廣瀬さんにそんなことを告白しなきゃいけないんですか」

「あはっ、やっぱり好きだったんだ?なのに彼は他の女を選んだんだね?」
「ううっ、そうです、その通りですッ!!」

 素直にそのことを認めると、何故かポロリと涙が零れた。

 どうして泣いたのか自分でも分からない。それほど悲しいとは思っていないはずだし、もしかしてドライアイかなんかで感情に関係無く流れたものかもしれない。だけど廣瀬さんはアタフタと慌て出し、まるでドラマのヒーローみたく自分の胸に私の顔を押し付けるようにして抱き締めた。

「ご、ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだ。分かる、分かるよ。千脇さんは感情を表に出すのが苦手なだけで、本当は愛情に溢れた女性だからね」
「愛情に溢れている…?」

 なんだその想像上の千脇さんは。

 本当の私はそんなハートフルな生き物じゃないぞ!と心の中で反論していると、廣瀬さんは私の髪を撫でながら静かに語り出すのだ。

「自分でも分かってないんだろうけど、キミはとても優しい人だ。だってそうだろ?千脇さんだって忙しくて疲れているはずなのに、俺の体調を気にしてこうして手料理を食べさせてくれた。そして、睡眠時間を考えて泊まってくださいとも言ってくれた。ちょっとぶっきらぼうに見えるけど、毎日一緒に働いて実感したよ。気配りってさ、一歩間違えるとあざといんだけど、キミの場合は本当に相手を思いやってしているから、されてる方も気持ちいい。多分、千脇さんの心が綺麗だからだろうな」

 うッ、褒め殺し?お願いだ、私を殺せ、殺してくれえええ。

「恥ずかしくて死にそうなので、もう止めてください」
「止めないよ、だって俺、本当にそう思ってるし。まったく前田くんは未熟だよね、こんなに素敵な女性を選ばないなんてさ。俺だったら絶対に千脇さん一択だよ!」

「ほんともう、その口を縫い付けますよ!」
「ふふ、『廣瀬さんだけが私を理解してくれてるッ』って少しグラッとしただろう?」

 ニヤ~ッと笑うその顔は悪人にしか見えない。

「しませんよ、何度も言ってるでしょう?廣瀬さんは自意識過剰です」
「なっ、どうしてだよ。傷心の時に優しい言葉を掛けるイケメンの俺、最強じゃないか」

 ああ、とうとう正体を現したな、廣瀬魔人。

「はいはい、なんかもう面倒臭いなあ。分かりました、廣瀬さんってカッコイイ、素敵だわー(棒)」
「いや、なんで?ほんと傷つくんだけどッ。俺の何がいけないの?」

「いけないとかいけなくないとか以前の問題で、面倒臭い男は嫌いなんですよッ」
「はあ?!面倒じゃねえし」

「面倒じゃないですか!!」
「どこが?!」

 いま、この状態が…と答えたかったが、それでは埒が明かないと思い直し、収束の方向へと誘う。

「とにかく先にシャワーを浴びてください、もう寝ましょうよ」
「…分かった」

 着替えを手にしてスクッと立ち上がった廣瀬さんは、突然私の耳にその唇を寄せてこう宣言した。


「決めた、絶対に俺を好きにさせてみるから」
 
 
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