16 / 35
廣瀬魔人、正体を現す
しおりを挟む廣瀬さんの貴重な睡眠時間を削っているという自覚が有ったので、ごく手短に。
2年前に酔った勢いで前田と一夜を過ごし、それから互いの部屋に泊まり合う仲になったが、このたび目出度く彼が別の女性と婚約したので解消しました…と。
私のプライベートになんて興味が無いだろうと思ったのに、予想外に廣瀬さんは質問を投げてくる。
「えっ?一夜を過ごすって、俺の時みたいなトークオンリー?」
「いえ、ガッツリ性交しましたよ」
「…俺の時も酔ってたのに、そうはならなかったよね?」
「あ…あ、そう、そうですね…」
「んー、ということは、そっか、千脇さんは前田くんのことが好きだったのか」
「……」
なかなかこの人、鋭いかもしれない。
「ね、好きだったんだろう?」
「さあ、どうでしょう」
「いや、好きだって言ってよ。そうでなきゃ、何で俺とはしなかったのかってことになるからさ」
「は?」
なんだかおかしなことを言い出したぞ。
「だって、俺、そこそこモテてるって自信あったんだけど。その俺と2人きりだったのに、朝まで何もせずに過ごすとか、そんで、他の男だと一線超えちゃうとか、…まるで俺に魅力が無いみたいじゃないか!」
「あー、そうですね」
「ええっ?!認めちゃう?俺に魅力が無いって肯定しちゃうワケ?!」
「いやー、そうは言って無いじゃないですか」
段々、面倒臭くなってきたぞ。
「それが『前田くんのことが好きだったから、してしまいました』だと納得なんだ。ねえ、早く認めなよ」
「うっ、なんで廣瀬さんにそんなことを告白しなきゃいけないんですか」
「あはっ、やっぱり好きだったんだ?なのに彼は他の女を選んだんだね?」
「ううっ、そうです、その通りですッ!!」
素直にそのことを認めると、何故かポロリと涙が零れた。
どうして泣いたのか自分でも分からない。それほど悲しいとは思っていないはずだし、もしかしてドライアイかなんかで感情に関係無く流れたものかもしれない。だけど廣瀬さんはアタフタと慌て出し、まるでドラマのヒーローみたく自分の胸に私の顔を押し付けるようにして抱き締めた。
「ご、ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだ。分かる、分かるよ。千脇さんは感情を表に出すのが苦手なだけで、本当は愛情に溢れた女性だからね」
「愛情に溢れている…?」
なんだその想像上の千脇さんは。
本当の私はそんなハートフルな生き物じゃないぞ!と心の中で反論していると、廣瀬さんは私の髪を撫でながら静かに語り出すのだ。
「自分でも分かってないんだろうけど、キミはとても優しい人だ。だってそうだろ?千脇さんだって忙しくて疲れているはずなのに、俺の体調を気にしてこうして手料理を食べさせてくれた。そして、睡眠時間を考えて泊まってくださいとも言ってくれた。ちょっとぶっきらぼうに見えるけど、毎日一緒に働いて実感したよ。気配りってさ、一歩間違えるとあざといんだけど、キミの場合は本当に相手を思いやってしているから、されてる方も気持ちいい。多分、千脇さんの心が綺麗だからだろうな」
うッ、褒め殺し?お願いだ、私を殺せ、殺してくれえええ。
「恥ずかしくて死にそうなので、もう止めてください」
「止めないよ、だって俺、本当にそう思ってるし。まったく前田くんは未熟だよね、こんなに素敵な女性を選ばないなんてさ。俺だったら絶対に千脇さん一択だよ!」
「ほんともう、その口を縫い付けますよ!」
「ふふ、『廣瀬さんだけが私を理解してくれてるッ』って少しグラッとしただろう?」
ニヤ~ッと笑うその顔は悪人にしか見えない。
「しませんよ、何度も言ってるでしょう?廣瀬さんは自意識過剰です」
「なっ、どうしてだよ。傷心の時に優しい言葉を掛けるイケメンの俺、最強じゃないか」
ああ、とうとう正体を現したな、廣瀬魔人。
「はいはい、なんかもう面倒臭いなあ。分かりました、廣瀬さんってカッコイイ、素敵だわー(棒)」
「いや、なんで?ほんと傷つくんだけどッ。俺の何がいけないの?」
「いけないとかいけなくないとか以前の問題で、面倒臭い男は嫌いなんですよッ」
「はあ?!面倒じゃねえし」
「面倒じゃないですか!!」
「どこが?!」
いま、この状態が…と答えたかったが、それでは埒が明かないと思い直し、収束の方向へと誘う。
「とにかく先にシャワーを浴びてください、もう寝ましょうよ」
「…分かった」
着替えを手にしてスクッと立ち上がった廣瀬さんは、突然私の耳にその唇を寄せてこう宣言した。
「決めた、絶対に俺を好きにさせてみるから」
1
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

あなたと友達でいられる最後の日がループする
佐倉響
恋愛
友人の柊がお見合いをする。
相手のためにも女の小春はもう会わないで欲しいと柊の父親に言われ、いつかそういう日が来ると思っていた小春はあっさりと了承する。
だが柊と最後に食事をすると彼はヤケ酒をして酷く弱ってしまい、小春に友達をやめるのなら抱かせて欲しいとお願いしてきた。
恋心を隠して友達としての距離を守り続けてきた小春は誘惑に抗えず、柊の相手をしてしまう。
これでお別れだとその日のうちに泣きながら柊の家を出ると、柊から連絡が届く。
正気に戻った柊から嫌われるとばかり思っていた小春は「ごめんね」とメッセージを送ろうとするも、誰かに背中を押されて死んでしまった。
小春のスマホに残ったのは柊からのメッセージと、送信できないまま残ったごめんねの文字。
そして小春は柊と別れの挨拶をする朝に戻っていた。ただし、死ぬ直前の記憶だけは残らないまま。
※この作品はムーンライトノベルにも掲載しています。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
夫のつとめ
藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。
29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。
「あなた、私と結婚しなさい!」
しかし彼の返事は……
口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。
※エブリスタさまにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる