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59.たったひとりの家族
しおりを挟む会議では、第三王子からの要望を断る方向で話を進めることに決定した。理由としては、過去に高位貴族が師匠に対して同様の相談をしてきたことがあり、調査したところそちらは元から魔力が無かったそうで。それを『本当は有ったのに消えてしまった』と嘘を吐き、魔力を与えて貰おうとしたのだと。
もちろん、師匠ほどの御方でも他者に魔力を付与することは出来ない。なので、すぐに断ったらしいが、今度はそれを逆恨みされて命が狙われてしまう始末。その話を例に出し、なんとか話を終わらせてしまえという師匠からの命を受け、ノノくんが説得するはずだったのだが。
そりゃあ、納得しないよね。
だって、第三王子の場合は本当に魔力が有ったんだもん。それを返してくれというのはごく真っ当な要望で、彼等の目にノノくんの姿がどう映っているかも、推して知るべし。烈火の如く怒り狂った第三王子とその側近は、一旦身を引いたものの、その数日後にノノくんを攫った。
それが、諦め切れず再び説得を試みようとしているだけなのか、…それとも、報復が狙いなのか。前者であることを願っているが、もし後者ならば今頃ノノくんは手酷い拷問に遭っているかもしれない。
「モモ、大丈夫だよ。きっとノウゼンノットハルト殿は無事だ」
「そ、そうさ。賢者とまで謳われたあの方が、魔力無しに害されるはずが無い」
「とにかく、一刻でも早く行方を探そう!」
アーサーもニーニもクロさんも。必死で私を励ましてくれるけど…そもそも原因は私なのだ。責められるべき人間がここでぬくぬくと守られているというのに、どうして何もしてないノノくんがと思うと、涙が止まらない。
「モ、モモ。泣くなよ」
「そんなに泣いたら目が溶けるぞ」
「うわああ、俺、こういう涙に弱いんだけどッ」
「う、うう、だって、たったひとりの家族なのに。やっと、出会えた大事なノノくんがいなくなるなんて、私どうしたら…ッ」
最早、泣くだけで使い物にならない私は放置され、師匠がありとあらゆる手段で索敵を行ない。その結果、わずか半日で敵のアジトが判明。どうやら国境を越えてすぐの場所にある寂れた村の廃屋にノノくんは囚われているようで、こちらから突入すれば他国への侵入とみなされる為、出来るだけ慎重にことを運ばねばならないと。辛そうな表情で師匠がポツリポツリと問題点を挙げていく。
「ノノは確かに魔術の天才だが、魔力はさほど多くないんじゃよ…。つまり、魔法陣を使っての攻撃は得意じゃが、捕縛などされてそれが描けないとなると無力。そもそも頭脳派の男だからのう、貴族として剣術は嗜んでおるものの、あまり実践的では無い。もし、拷問にでも遭っておったら…きっと長くは保たぬだろうな」
う、わあああああっ。
一気に負の感情が膨らみ、脳内で熱い何かが暴発したような感覚に陥る。そしていつの間にか私は、ノノくんが捕らえられている廃屋へと転移していた。
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