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<茉莉子>
その109
しおりを挟むチュンチュン。
小鳥の囀りが聞こえてくる。
うふふ、もう朝なのね。
…って、コトリ??
>このブスが!いつまで寝てんのよ!!
>ほら、とっとと起きなッ。
「ひ、ひいい」
額に脂汗を掻きながら慌てて飛び起きた。ホッ、どうやら空耳で、どこにも彼女はいない。胸を撫で下ろしながらふと時計を見ると…。
12:34
イエイ!ワンツースリーフォーッ!
などと陽気に浮かれている場合では無い。もちろん深夜ではなくて真っ昼間である。
「あっ、茉莉子!起きたんだね。良かった、死んだように寝ていたから心配で。その…昨晩は無理をさせてしまって悪かった。体の方は大丈夫かい?」
靄のかかった記憶をどうにか手繰り寄せると、どうやら私は一晩中マーキングされ続け、最後には声も出ないほど衰弱しきったようだ。
榮太郎の手を借りて上半身を起こすと、体中が軋み、悲鳴を上げそうになる。いつの間にか着せられていたガウンがはだけて、胸元に幾つかの赤い跡がチラつく。よくよく見るとそれは全身についており、私はまるで水玉模様みたいになっていた。
「榮太郎??な、何これ」
「あ、やっぱり右胸辺りが少ないかなあ。ちょっと待ってて」
そう言って躊躇なくガウンを脱がされる私。『ぢゅっ』と音を立てて肌に吸い付かれると、真新しい跡がまた1つ加わった。
「キスマーク…?えと、多過ぎない??」
「うん、多過ぎない」
日本語は不思議だ。
私は『多過ぎない?』と質問しているのに、榮太郎は『多過ぎない』と肯定しているのだ。イントネーションが違うだけて意味も変わるね、あは、あはは…って、そうじゃない。
「こ、こんなことされたら外に出れないよ」
「今日は日曜で料理教室にもスポーツジムにも行かないだろう?別に困らないじゃないか」
ご、ごもっとも!
店長にも今日は出勤出来ないと伝えてあるしッ。
「それよりも茉莉子、ここ数日、どこで寝泊まりしていたんだい?実家には帰っていないと寛貴さんに確認済だよ」
い、言えない。離婚準備としてバイトをしていただなんて。
「と、友だちの家だよ…」
「ふうん、へええ、そんな友だちがいたんだ?」
「わ、私にもそんな友だちの1人や2人は」
最後まで言い切らないこのテクニック!『いる』とも『いない』とも言ってませんよ!
あは、あははと心の中で笑っていたら、榮太郎がいつもの天使スマイルで提案して来た。
「今からその友人に御礼に行ってもいいかい?だって1週間以上も妻がお世話になったんだ。夫として挨拶に行くのは当然だろう?」
う、うわお!
そんなワケで友だち0人の私はアヤさんをその女友だちと想定し、バイト先へと向かったのだ。
「こ、こんにちは~」
「あ!茉莉子さん、お疲れ様~。今日は休みじゃなかったっけ??」
一般客としてランチを食べる予定だったのだが、いきなり行っても悪いから事情を説明してくると嘘を吐き。榮太郎を入口前で待たせておいて、私だけ先に店内へと入り、皆んなに状況を説明した。
アヤさんも浦くんも女子大生アルバイト・実夕ちゃんも察しが良く、瞬時に状況を理解してくれたのだが、問題は店長である。
いつもそうなのだが、人の話を聞かない。
いや、実際は聞いているけど、興味の有る部分しか頭に入れないので都合よく話が切り取られ、いつも微妙に食い違ってしまうのである。
「あはは~、うん、分かったよ~。旦那さんの浮気を疑っていたけど誤解と判明し、離婚準備のためにウチでバイトしていたことを内緒にしておきたいんだよね?」
「はいっ、そうなんです!」
店長がこんなスンナリと状況を把握するなんてなんだか最後にどんでん返しが有りそうで怖い。ダメ押しで例のウインクをされると、更に不安になってしまう。
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