かりそめマリッジ

ももくり

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<茉莉子>

その108

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 そっと引っ張ったのに『痛い』だなんて。まったく、大ゲサなんだよ榮太郎。まるで私が怪力みたいじゃないか。あっ!もしや脇腹の傷に響いてしまったのか?

 それに気付いた私は、慌てて自分の手の位置を変える。上半身はマズそうなので、傷に支障の無い位置。えっと、それってどこなんだ??

「ふうむ」
「えっ、何、どうしたんだよ茉莉子?!」

 階段下で舐めるように榮太郎の全身を眺め、ご自慢の頭脳で瞬時に考えた。

「ここかな」
「は?!なんで??」

 臀部…すなわち尻の真下の太腿の付け根を右腕でガシッと抱え、そのまま歩くように誘導する。最初は戸惑っていた榮太郎も素直に前へと進む。ようやく自分たちの部屋に到着し、向かい合ってから口を開けてみたものの、どう話を切り出せば良いのかで悩み出し。

 ひたすら続く、長い沈黙。

 まず、父の非礼を詫びるべきか?それとも互いの愛情を確認し、この結婚を偽装ではなく本物にすべきか?それよりもまず、座ろうと提案しなくては。

 大忙しで頭の中を整理していると突然、榮太郎が小さな声で訴えてきた。

「茉莉子ォ…、俺を…捨てないで」
「捨てるワケないでしょ!!バカなことを言わないでよッ」

 久々に私の中の男性ホルモンが猛り狂っている。疑念が一蹴されたせいかホッとしたように笑う榮太郎の可愛さときたら、小国を1つ壊滅しそうな勢いだ。

「そっかあ、じゃあ安心だな。本当に俺、それだけが心配で…」

 こ~い~つうううう~。

 外ではキリッとしてエッジを効かせているのに、オンとオフとで豹変し過ぎ!!

 順序立ててとか誤解の無いように分かり易くなどと、いろいろ考えて話す予定だったのに。何もかも理性と一緒に吹っ飛んだ。

「榮太郎、本当にごめん!!ウチのバカ父がとんでもないことをしちゃって。そして私もごめんなさい!!勝手にコトリさんとアナタとの仲を誤解して、自分さえいなくなれば2人が幸せになれる…そう思い込んでしまったのッ」

「えっ?あの、茉莉子?それはいいけど、なんで俺を脱がしてるのかな?は、話をするんじゃなかったっけ?」

 この男は私のもので、絶対に誰にも渡さないという揺るぎない決心が性的衝動を高めているに違いない。

 要するにマーキングしようとしてるのだ。

 無抵抗な榮太郎のシャツを脱がせ、その腹部を剥き出しにする。患部は右脇腹に有り、大きな肌色のテーピングテープが貼られていた。

「ここを切られたのね?可哀想に…」

 私の言葉に、榮太郎はそっと頭を左右に振る。

「もう大丈夫だから、茉莉子は気にするな」
「するよ、一生、気にする!だから…あの、責任を取らせてください!!」

 その場で突っ立っていた榮太郎が、一瞬だけ驚いた表情をする。

「えと、それってどういう意味かな?」
「偽装じゃなくて本物の結婚にしませんか?」

「本物の結婚…に…?」
「だってこのままだと期限が来て終わっちゃう。それじゃ嫌なの!もっともっと榮太郎と一緒にいたい!だから…その、一生傍にいさせてください!!」

 あれ?思ってたのと反応が違う。

 そんな険しい表情、おかしくない??たぶんここは、抱き合ってむせび泣く感動場面のはず。

 軽く首を傾げる私に、榮太郎は言う。

「まさか…これほど鈍いとは…」
「え?」

「俺、茉莉子のこと好きって言ったよね?」
「あ、うん」

「何回も何回も言いまくったよね?」
「そ、そうだね」

 ガシッと手首を掴まれ、そのまま寝室へ向かう。そのままベッドに押し倒され、可愛かったはずの乙女王子が突然野獣に変わる。

「あのさ、避妊もせずにヤリまくってたんだぞ。そんなもん、偽装のワケないだろうがッ!!とっくの昔に本物の結婚へ移行してたっつうの。

 茉莉子は一生、俺の傍で笑ってろ!
 いいな?つまんないことでもう悩むなよ!

 この先、全力でお前を守るから、お前は大人しく守られてろ!!」

 そしてマーキングするつもりが、マーキングされまくる私なのであった…。

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