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<茉莉子>
その107
しおりを挟むぜ、絶対にコトリじゃないよね??
だって小鳥って、チュンチュン可愛く囀るし。目の前にいるこの人はダチョウとか、ヒクイドリと呼ぶのが妥当ではなかろうか。…そんなことを考えながら呆然としていると、相変わらず無表情なまま剣持さんが口を開く。
「さて、本題に入りますが」
「え?本題、ですか?」
「はい。清隆氏への対処を決めてから榮太郎さんに連絡しようと思いますので、一点だけ確認させてください」
「はい、どうぞ」
剣持さんの喉が微かに動き、珍しく緊張していることが見て取れた。
「率直にお訊きします。茉莉子さんはお父様と絶縁、もしくはそれに近い状態になる覚悟はお有りですか?
実は清隆氏があまり反省していないもので。
人を刺しておきながら、…そう、刑法上は罰せられるところを庇われておきながら、懲りずにまだ権利を主張して来たのですよ。
余程、榮太郎さんを甘く見ているようで。
オンナ子供と弱者に対してだけ強いという、典型的な卑怯者…あ、実のお父様なのに失礼。ふふっ、まあ、とにかくソレですよね。
榮太郎さんは確かにお優しい。だからこそバックには私共がついているのです。清隆氏が過去にしてきた悪事の数々について、こちらは既に調査済でして。大声では言えませんが、私個人として裏社会にもツテはありますからそちら経由で脅そうかと。
清隆氏のようなタイプは、強い者にスグ屈しますからね。ですが、ここで問題となるのが茉莉子さんです。きっと脅した後、お父様は娘である貴女を責めてくるでしょう。恩情をかけるようであれば、残念ながら貴女は帯刀家のネックとなる。
絶縁すると約束していただけるのであれば、榮太郎さんと婚姻関係を続けて貰いますし、それが出来ないのであれば仕方ありません。また別の手を模索します」
「えっ、絶縁?!喜んで!!」
悲しい…いや、ムカムカする思い出が走馬灯のように蘇り、段々と興奮して来た。
真冬に暖房の無い座敷牢に閉じ込められ、『寒い』と言ったら毛布を放り入れられたり。一家揃って外食するという時にも、なぜか私だけ留守番をさせられたり。生まれてから一度も愛情を感じたことは無く、むしろ縁を切らせて貰えるなんて本当に有り難い。
「あの、もう遠慮なくガンガン脅してください」
満面の笑みの私に、剣持さんは若干引いていた。
…………
「た…ただいま戻りました」
「あらァ、お帰りなさい!実家でリフレッシュ出来たのかしら?」
「じっか…?え、あ、はい、とっても!」
「うふふ、じゃあ頑張って今晩からまた子作りに励むのよ~」
久々に見た妖魔は、油壺から出て来たかの如くぬらぬらと脂ギッシュな顔をしていた。えっと、そっか。里帰りしてたという設定になっているんだな。
そんな気が利く嘘を吐いたのは、もちろん…
「ごめん、茉莉子。母さんに本当のことは言い難かったから、暫くの間だけ里帰りをしていると伝えたんだ」
「もん」
自分で言っておきながら、『もん』って何だ?
だって、いつも夜は2階の自室に籠るはずの男が、リビングにいるとは思わなかったんだもん!
…はッ、もしかして『思わなかったんだ“もん”』の『もん』か?
ああ、動揺し過ぎて思考が飛ぶ!だって目の前に榮太郎がちんまり座ってるしッ。
そんな内面の大騒ぎをひたすら隠し、見た目は平然としているはずの私。とにかく訊きたいことが沢山あったので、私は榮太郎の手を握ってそっと引っ張る。
「い、いでででっ、あの、茉莉子?!」
「お話があるので2階へ行きましょう」
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