107 / 111
<茉莉子>
その107
しおりを挟むぜ、絶対にコトリじゃないよね??
だって小鳥って、チュンチュン可愛く囀るし。目の前にいるこの人はダチョウとか、ヒクイドリと呼ぶのが妥当ではなかろうか。…そんなことを考えながら呆然としていると、相変わらず無表情なまま剣持さんが口を開く。
「さて、本題に入りますが」
「え?本題、ですか?」
「はい。清隆氏への対処を決めてから榮太郎さんに連絡しようと思いますので、一点だけ確認させてください」
「はい、どうぞ」
剣持さんの喉が微かに動き、珍しく緊張していることが見て取れた。
「率直にお訊きします。茉莉子さんはお父様と絶縁、もしくはそれに近い状態になる覚悟はお有りですか?
実は清隆氏があまり反省していないもので。
人を刺しておきながら、…そう、刑法上は罰せられるところを庇われておきながら、懲りずにまだ権利を主張して来たのですよ。
余程、榮太郎さんを甘く見ているようで。
オンナ子供と弱者に対してだけ強いという、典型的な卑怯者…あ、実のお父様なのに失礼。ふふっ、まあ、とにかくソレですよね。
榮太郎さんは確かにお優しい。だからこそバックには私共がついているのです。清隆氏が過去にしてきた悪事の数々について、こちらは既に調査済でして。大声では言えませんが、私個人として裏社会にもツテはありますからそちら経由で脅そうかと。
清隆氏のようなタイプは、強い者にスグ屈しますからね。ですが、ここで問題となるのが茉莉子さんです。きっと脅した後、お父様は娘である貴女を責めてくるでしょう。恩情をかけるようであれば、残念ながら貴女は帯刀家のネックとなる。
絶縁すると約束していただけるのであれば、榮太郎さんと婚姻関係を続けて貰いますし、それが出来ないのであれば仕方ありません。また別の手を模索します」
「えっ、絶縁?!喜んで!!」
悲しい…いや、ムカムカする思い出が走馬灯のように蘇り、段々と興奮して来た。
真冬に暖房の無い座敷牢に閉じ込められ、『寒い』と言ったら毛布を放り入れられたり。一家揃って外食するという時にも、なぜか私だけ留守番をさせられたり。生まれてから一度も愛情を感じたことは無く、むしろ縁を切らせて貰えるなんて本当に有り難い。
「あの、もう遠慮なくガンガン脅してください」
満面の笑みの私に、剣持さんは若干引いていた。
…………
「た…ただいま戻りました」
「あらァ、お帰りなさい!実家でリフレッシュ出来たのかしら?」
「じっか…?え、あ、はい、とっても!」
「うふふ、じゃあ頑張って今晩からまた子作りに励むのよ~」
久々に見た妖魔は、油壺から出て来たかの如くぬらぬらと脂ギッシュな顔をしていた。えっと、そっか。里帰りしてたという設定になっているんだな。
そんな気が利く嘘を吐いたのは、もちろん…
「ごめん、茉莉子。母さんに本当のことは言い難かったから、暫くの間だけ里帰りをしていると伝えたんだ」
「もん」
自分で言っておきながら、『もん』って何だ?
だって、いつも夜は2階の自室に籠るはずの男が、リビングにいるとは思わなかったんだもん!
…はッ、もしかして『思わなかったんだ“もん”』の『もん』か?
ああ、動揺し過ぎて思考が飛ぶ!だって目の前に榮太郎がちんまり座ってるしッ。
そんな内面の大騒ぎをひたすら隠し、見た目は平然としているはずの私。とにかく訊きたいことが沢山あったので、私は榮太郎の手を握ってそっと引っ張る。
「い、いでででっ、あの、茉莉子?!」
「お話があるので2階へ行きましょう」
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる