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<茉莉子>
その92
しおりを挟む「ねえ、気付いているんでしょう?だって、光貴の妹だもんね~」
「な、なんのことでしょうか」
しらを切る私に、コトリさんは妖精から一転、悪魔へと表情を変えてこう言うのだ。
「別荘でのことを誰かに話したら許さないわよ。でもアンタの言うことなんて誰も信じないか~、ゴメンねえ~、もしかしたらアンタの婚約者を奪っちゃうかもしれな~い。
帯刀グループの跡取りの嫁とか、立場を考えると絶対にクソ面倒臭いじゃん?でもあのお坊ちゃんはちょっと食べてみたいの。だから今まではちょっと躊躇してたけど、結婚するのなら別にいいかなと思ってさ。
面倒なことは嫁に任せて、私は美味しいところだけ摘まませて貰うわ。
あらやだ、そういう顔をしないでよ。ここにいる殆どの社長たちはね、結婚と恋愛を別に考えているの。愛人がいて当然の世界なのよ。そうでなきゃ社長になった意味が無いでしょ?
仕事も一流、遊びも一流でなくちゃ。アンタの旦那は私が教育してあげるから、感謝してちょうだい」
言い終わると弓のように唇を曲げ、コトリさんは妖精みたく無邪気に微笑む。
なんて卑怯な人なのだろう。こんなにゲスい内容を話しているというのに、顔が可愛いだけでちっともそう見えないのだ。まるで『ネコカフェに行きたいわ』とでも言っているかのような表情で、彼女は続ける。
「婚約が決まったと聞いた時点で、私の方からモーション掛けているんだけど、多分、折れるのも時間の問題ね。うふふ可哀想な花嫁さん」
それを聞き、私は思わず拳を強く握りしめた。
…だって私は本当の妻になるワケじゃないから。
「浮気は認めますけどね、そんな大声で宣言するのは止めてください」
「えっ?」
…元々、本命がいるのも知っていたし。
「コトリさんはご存知なのでしょうか?榮太郎はお義母様から認められていない女性とセックスすることを禁じられているのです」
「はあ?!なんで母親がそんなことを?あのお坊ちゃん、それに黙って従ってんの??」
…大丈夫、私が味方になってあげます。
「帯刀グループほどの規模になると、あちこちに跡継ぎが生まれては困るそうです。前に一度、托卵された事件も有ったらしくて、非常に神経質になっていらっしゃるんですよ」
「アホくさ。私、しっかり避妊するわよ」
…ええ、あんなに乱れた性生活をしていても、妊娠しなかったのは避妊のプロなのでしょう。
コクコクと頷く私。
「それにですね、一般的に不倫された妻は、不倫相手に憤って慰謝料を請求するようです。そんな声高に不倫宣言されると、世間の手前、そうせざるを得なくなってしまうでしょう?」
「バッ、バッカじゃない?!そんなの絶対に払わないわよッ」
…こんな浅はかな女性でも、榮太郎の好きな相手なら応援するしか無いのでしょうねえ。
「私は訴えたりなんかしませんから、大丈夫!但し、何も知らなかったという設定にするので、こんな風に接近しないでくださいませんか?」
物凄く奇妙な表情をしてコトリさんは黙り込む。
「ど、どうかなさいました?」
「アンタって変わってる。もしかしてさあ、結婚相手のことが嫌いなの?」
「そんなはず無いでしょう、大好きですよ」
「大好きなのに浮気を許すんだ??」
「だって、世界で一番幸せにしたいんです。彼が私よりもコトリさんの方を好きならば、そちらと居る方が幸せだということでしょう?」
「いやいや、絶対に普通じゃないって。だって、好きなんでしょう?なんで応援しちゃうの??」
何故か急にコトリさんは戦意喪失したようだ。このままではマズイ、榮太郎の意中の人が離れてしまう。焦った私は更に説得を続ける。
「嘘を吐きました!私は榮太郎が好きじゃない。だから遠慮なく彼と付き合ってあげてください」
悪魔が突然、妖精に姿を戻したのは榮太郎本人が帰ってきたからで。私も彼に向けて、ニカッと笑顔を見せる。
てっきりコトリさんとの恋を応援する自分を、褒めてくれると思っていたのに。残念ながら彼の目は悲哀に満ちており、小さな小さな声でこう呟くのだ。
「そっか、そういうこと。よく分かったよ」
その言葉の真意を訊ねようとしたのに。なぜか榮太郎は私に背を向けたまま、黙り込んでしまった。
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