86 / 111
<茉莉子>
その86
しおりを挟むシーツの上にハンカチを置いたらその合図。
>今晩、しようよ。
というサインだと2人で決めたのだが、今日も朝から置いてある。それを見て、思わず立ち尽くす私。
「どうしたんだい茉莉子。何か悩み事が有るなら遠慮なく言ってくれ」
「いえ、このハンカチは…」
「うん、そう!今晩もイチャイチャしようね」
「えっ、ああ、はい…」
朝から張り切ってますね。でも、もう1週間連続なんですけど。
榮太郎は頑張らないけど、
茉莉子は頑張りますのでね。
いくら無職で日中は休める身とは言え、こう毎日だと疲労困憊してしまいます。そろそろ休息日を設けてくださいませんか?昨日なんて家政婦のサイボーグ高松さんから、『目の下のクマが濃くなりましたね』と指摘を受けてしまい非常に恥ずかしい思いをしたのに。
うん、今なら吉原で一番の売れっ子になれそう。
28歳でようやく女の味を知った榮太郎は、最早それに溺れまくっており。私を見る目が最早、尋常では無い。
「えっと、な、何してます??」
「う~ん、茉莉子が可愛いのが悪い」
おいこら、スカートを捲るなッ。
朝っぱらから発情するんじゃないッ。
「もう支度しないと、仕事に遅れますよ」
「今日は得意先に直行するから、30分ほど時間に余裕があるんだ」
必死で抵抗するのに、どんなに見た目は天使でも中身は男。アッという間にベッドの上へ押し倒される。
「ほら、茉莉子の大好きな俺だよ~」
言っておくが下ネタである。自分のナニを持って『俺』だと称しているのだ。スウエットパンツと下着を膝まで下ろして、ニコニコと微笑むその姿はちょっとした変態だ。…変態なのに麗しいなんて、なんたる悲哀。
「はあ、もう、ほんと茉莉子、大好き」
「それって、私じゃなくて私の体が…でしょ」
いつもは心の中でだけ思っているソレを、何故か今日は口にしてしまった。一瞬だけ気まずい空気が流れたかと思うと、『俺』を出したままで榮太郎は正座する。
「違うよ!そ、そりゃあ体も好きだけど、きちんと中身だって大好きだ。
俺、どんな女と付き合っても長続きしなくて。最初は皆んな、見た目とか家柄とかそういうモノに惹かれて近づいて来るんだ。そして、俺と付き合った途端、まるで勝者みたいな笑みを浮かべてキラッキラの顔をしてんのな。
…なのに。付き合っていくうちにその顔が曇り始めて、最後には能面みたいになってしまう。
中身カラッポでつまんない男なんだとさ。面白いことも言わないし、気の利いたことも出来ないダメ男らしい。
『しかも、母親からセックス禁じられてるとか、どんだけマザコンなのよ』って。なんかそれ言われることも勿論そうなんだけど、徐々にトーンダウンしていく反応が凄く怖くて。
でも茉莉子は違った。初対面の時から仏頂面で、媚びることとかしなくて。むしろ今の方が俺に笑ってくれてる。だから茉莉子は怖く無い。傍にいても全然平気だ。
茉莉子が笑うと俺も嬉しい。
茉莉子は…メチャクチャ可愛い」
ま、まんまと私に陥落しやがってッ。予想外に安い男だったんだなッ。…などと心の中で毒づきながらも、軽い衝撃を受けていた。
だってカラダ目当てじゃなくて、中身も見てくれていただなんて。あの横暴な父や光貴に慣れている私にとって、これほど素直な男が世の中に存在していること。…それが、ちょっとした感動だったのである。
そしてもっと好かれたいと思った。
この優しい人に、もっともっと好かれたいと。
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる