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<茉莉子>
その81
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そよそよと風が私の前髪を揺らす。
ふふ、くすぐったいな。あれえ?ここはどこ?私、もう起きないとまた光貴に嫌味を言われる。
『これだから無職は気楽でいいよなあ。寝坊し放題じゃん。それに比べて俺は…』
「うるさい!」
こんなこと面と向かって言えるワケない。
なのに口に出したということは多分、夢だろう。日頃からネチネチ嫌味ばかり聞かされ溜まった鬱憤が一気に爆発してしまったのである。それが夢の中だけというのが泣かせる。
ああそうさ、もっと言ってやるからな!
「ほんと、弱い犬ほど良く吠えるわねッ。なんでもかんでも周囲のせいにしてないで、努力してみせろっつうの~ムニャムニャ…」
ちょっ、何なのこの感触。朝っぱらから胸を…それも粒っぽい…ええい、ハッキリ言ってやろう、乳首!乳首を摘まむな。
…ってこれ、前にも心の中で叫んだ気がするぞ。無防備なせいか、妙に感触が生々しい気がして。そおっと瞼を開けると、そこには…。
「ひ、ひいいッ?!」
「おはよう、茉莉子」
朝から麗しい榮太郎がいた。
しかも思いっきりドアップだ。
そよ風の正体はどうやらこの男の鼻息で。
乳首を掴まれた感触が妙に生々しく思えたのは、どうやらブラジャーを着けて眠る習慣の無い私が就寝中にそれを外してしまったらしく、生乳を豪快に晒しており、ダイレクトに摘ままれていたせいでそう感じたことが判明する。
「な、何してんですか?」
「茉莉子の乳首が『触って』と誘ってくるから、お言葉に甘えて触れてみたんだよ」
おいこら。
乳首が喋るワケないだろうが。
言うに事欠いて、明らかな嘘を吐くな!
…憤ってはいるものの、起き抜けのせいかあちこち敏感になっており。ひたすらコネコネ捏ね回されたせいで、ついウッカリ喘ぎ声を漏らしてしまう。
「んっ、ああん」
「…あっ、ごめん」
興味本位で触ってみたものの、私の嬌声に戸惑った榮太郎は頬を染めて気まずそうに手を離す。
「に、人形じゃないんですから、そりゃあ触れば色々と反応しますよ」
「そっか、俺の手で感じちゃったんだ…」
なぜそんなに嬉しそうなのだ、榮太郎よ。
首を傾げながらもやわやわと胸をシーツで隠し、迷子になったブラジャーを探す。
「あ、茉莉子、待って」
「え?なに…」
当たり前のように榮太郎はキスをしてきた。
んー、やっぱり上手いなあ。
何も考えられなくなって頭の中が真っ白になる。微かに震える吐息を細く吐きながら、唇を離されたその瞬間、人の気配が。
「おはようございます。ノックをしたのですが、返事が無かったので勝手に入らせて頂きました。茉莉子様の御召し物をここに置いておきます」
「ああ、有難う。でも高松さん、今後は返事の無い場合は入室を遠慮して欲しいな。…その、取り込み中の場合も有ると思うからね。お互い、恥ずかしいだろ」
サイボーグのような高松さんは『かしこまりました』とだけ言い残して一礼し、足音も立てず静かに去っていく。ドアの閉まる音が聞こえてから榮太郎が言った。
「…きっとウチの母からの命令で確認しに来たんだよ。確実にヤッたかどうかをさ」
「な、なるほど」
だから榮太郎も私にキスしたのか。そりゃそうだよね、そうでなきゃするワケ無い。対・妖魔用のパフォーマンスということか。
…と、思った瞬間、何故かまたキスをされた。
「へへっ、なんかキスしたくなって」
「そ、そうでしたか」
あまりにも愛らしいその微笑みに、思わず私も笑ってしまう。
まあ、別にいっか。
減るもんじゃなし。
というよりも役得だよね。だってなんだかんだ言って榮太郎って美しいし。私が良家のお嬢様で妖魔に気に入られなければ、絶対に接点は無かったと思う。
いいさ、どんどんキスしてくれたまえ。
そう言葉にするのは気恥ずかしかったので、黙ったまま瞼を閉じる…フリで薄目を開けると、その顔が徐々に近づいて来た。こ、これは…。どんな女でも確実に心を奪われるに違いない、破壊力MAXの表情だぞ!!
もともと魅力的なそのキラキラした容姿に、溢れるほどの色気と危険なオスの匂いが加わり。ドウのテイであるという情報を入手したせいで、誰にでもこんなことをするワケじゃないというレア感までプラスされてしまったのだ。
もう、榮太郎ってば最強じゃない?
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