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<茉莉子>
その75
しおりを挟むでもまあ、偽装だけどね。嘘っコだよ嘘っコ。…などと心の中で笑っていると、とうとうその人が目の前に現れたのである。
「茉莉子、逢いたかったよ」
「……」
久しぶりに再会したその人は、チャラさなど微塵も感じさせなくなっていて。
当時は長かった髪も、社会人らしく短く揃えられ。ネイビーのカットソーとアンクルパンツというありふれたカジュアルスタイルにも関わらず、思いっきり好青年に見える。こちらから話すことは何も無いのでひたすら口を噤んでいると、一方的に悟は話し出す。
「えっと、取り敢えず座らせて貰うね。ああ、全然変わってないな。やっぱり茉莉子は茉莉子だ。
その…光貴から聞いたよ、罰ゲームのことを伝えてしまったと。本当は何度も言おうとしたんだ。でも、誤解されるのが怖くて。
始まりは確かにそうだったけど、それからは本気で好きだったんだよ。上辺だけじゃなくてお互いの内面を理解し、真剣に愛し合っていると思ってた。だから茉莉子が突然消えて、心の底から悲しかったんだ。
何年かして茉莉子に似た人と付き合ったけどその違いを見せつけられただけで、誰も茉莉子の代わりにはなれないと痛感したよ。不器用で純粋で嘘が吐けない茉莉子。俺はやっぱり茉莉子じゃなきゃダメだ。
茉莉子、もう一度俺とやり直そう!
お願いだよ、茉莉子!」
感動の場面だというのに、やはり私は普通の人間では無いのかもしれない。
ちっとも心に響かないのだ。
だってもう4年前の出来事で、しかも目の前のこの人は当時の悟とは風貌も異なる。見知らぬ誰かに勝手に謝罪され『やり直そう』と言われても『ハア?』という感じでしか無い。
そんな私とは裏腹に、感極まった様子の悟は満足気でとてもスッキリした表情をしていた。どうやらこれで禊を済ませたつもりなのだろう。
パチパチパチ…。
ここでなぜか光貴が嬉しそうに拍手をし、弾む声でこう言った。
「良かった!これで元通りだな!!須藤、茉莉子、復縁おめでと~!!」
へ??
空気読めよ、光貴。どう見ても私、嬉しそうじゃないだろう??
なんというか根本的に私と光貴は相容れないと言うか逐一、感覚がズレてしまうのだ。この想いをどう伝えれば良いのか悩んでいると、それよりも先に口を開いた人がいる。
…そう、榮太郎だ。
「そこの彼に質問なんだけど。なんで4年間も茉莉子を放置してたワケ?」
「ほ、放置してたんじゃなくて…その、携帯の電話番号を変えられて連絡出来なくて、SNSとかもブロックされちゃったから、その…」
「いやいや~、それ言い訳だろ。お兄さん経由で連絡先くらい訊けたよな?」
「ま、茉莉子の方から去って行ったんだし、暫くそっとしておこうと思っただけだッ」
「ハイまた言い訳~。要は面倒だったんだろ?」
「違う!断じて違う!!本当に俺は茉莉子を傷つけて悪いと思ったか…」
「まだ自分は若いし、もっといい出会いが有る、いろいろとケチのついた面倒臭い女を追うより、もっと簡単な恋愛をしようと考えたんだよな?」
「そ、そうじゃな…」
「だって現に茉莉子に似た女と付き合ったって自分で言ったじゃないか。本当に茉莉子を好きならそんなスグに他の女と付き合わないよなあ。おい茉莉子、キミもそう思うだろ?」
「ちがッ、違うんだよ茉莉子!!お前に似ていたから、だから付き合ったんだッ」
えと…。
なんかもうどうでもイイんだけど。
そんなこと言える雰囲気じゃなさそうだな。
仕方なく真面目な顔をしてみる。
キ、キメッ。
榮太郎はうすら笑いを浮かべながら、更に悟を責め続けた。
「で、どの女と付き合っても長続きしなくて、ふと回顧モードに入ったのかな?『そっか茉莉子がいたっけ!もう、ほとぼりは冷めただろうし、そろそろ行っとこうか!』的な考えで連絡してみたんだろ~。おーヤダヤダ」
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