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<茉莉子>
その74
しおりを挟むチャラそうに見えて、実際は。コンビニで会計する際はいつも小銭を募金箱に入れていたり、家庭が複雑でずっと1人暮らしをしていたり、寂しがり屋で仲間との繋がりを大切にする人。
底抜けに明るく、誰とでもすぐに仲良くなって。変わり者の私を普通の女のコのように扱ってくれたのも、この人だけだった。
ああ。いつの間にか、こんなに好きになっていたんだな…。
「茉莉子、どうした?どこか具合でも悪いのか?」
「な、なんでも…無い」
始まりはどうあれ、誕生日には素敵なレストランで祝ってくれたし、クリスマスイブも夢のような一夜を過ごさせてくれたのだ。こんな陰気で誰からも嫌われる女の相手をしてくれただけでも感謝すべきだろう。
このまま何も知らなかったことにして、続けていけば良いではないか。…そう思おうとしたけど、無理だった。私は生まれて初めて私を呪う。
この世界は、なんて美しくて、
そしてなんて醜いのだろうか。
それから、人が怖くて堪らなくなった。あんなに優しい悟ですら、平気で人を騙すのだ。もう誰も信じてはいけない、信じて裏切られるのはもう御免だ。
帰宅してスグに光貴を問い質すと、至極簡単に白状する。
「あー、アレな。須藤って結構モテるからさ、仲間内のカップルのうち2組も壊してるんだよ。女の方が彼氏捨てて須藤に告白するってのがさ、なんと2度も有ったってワケ。
さすがにそうなるとハブるしか無いじゃん?そしたら誰かが、『彼女作らせればイイ』とか言い出してさ。罰ゲームも兼ねて難攻不落の小椋妹を狙わせろって話になったのな。
須藤の奴、ボッチになるのが嫌なもんで必死になって茉莉子に言い寄ったら、予想外に付き合えちゃったみたいでさ。そしたら今度は別れられないって感じ?
仲間と一緒にいるには、お前もセットになってるからさ」
詳細を知った私は、1週間泣き続け。そのあと大学院に進む予定を急遽取り止め、アメリカへと留学。卒業後はフランスに渡って料理を学び、なんだかんだで今日に至る。
騙されたことがどうのと言うよりも、なんだかもう傷つくことが怖くて。これからは誰も信じないと決めたのに、今その悟が、こちらに向かっているのだと。
まるで処刑台に立っているような気分で、私は逃げ道を模索していた。
「あのさ、もしかして俺のこと忘れてない?」
「えっ?!そ、そんなことないですよッ」
だが、榮太郎のことを忘れていたのはバレバレだ。
「ところでこの人、誰?」
「兄の光貴です」
紹介された光貴は『どうも』とだけ挨拶する。
「それで、今から来るその男はどういう関係?縁談を壊す気みたいだから、元カレってとこか」
ここで私は、悟のことを説明することにした。ごく簡潔に『罰ゲームで付き合うことになった、兄の友人』だと。
「そんな男がなぜ茉莉子に会いに来るんだ?」
「さあ?私にもよく分かりません」
「茉莉子からしてみれば、最悪の思い出だろ?茉莉子をバカにされたみたいで俺も不愉快だ。茉莉子が何も言えないなら俺が茉莉子の代わりにガツンと文句を言ってやるよ。なあ、茉莉子」
「う…あ、有難うございます」
不自然に『マリコ』を連発し過ぎ。
しかも、さりげなく目配せしつつ手招きをしているのは、もしや私にもヤレということなのか。
「う…、あ、有難う、榮太郎」
「どういたしまして、茉莉子!」
えっと、親密度をアピールしたかったのかな…。
なんだか物凄く動揺していたのに、榮太郎の意味不明な行動のお陰で落ち着いた。この状況の中、光貴が近江牛のパニーニとやらを注文してガツガツと食べ始め、紙ナプキンで口元を拭きながら言うのだ。
「で、お前ら結婚すんの?」
「はいっ!」
…榮太郎、即答。
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