かりそめマリッジ

ももくり

文字の大きさ
上 下
70 / 111
<茉莉子>

その70

しおりを挟む
 
 
 …………
「あの…本当に榮太郎様なのでしょうか?いえ、直接お会いしたことは無いのですけれど、周囲の方々が仰る人物像と余りにも異なるかと」

 その女性は、とても清楚な感じの美人で。今日という日に命を懸けてやって来たようだが、目の前のブス男を見て明らかに落ち込んでいる。

「はい、本当にボキが帯刀榮太郎でふ。周囲の人の言うことなんてアテになりませんよ。どうせ超イケメンとかそういう感じのでしょ?…きっとそれ、弟のことでふ。政親というんですが、かなりの美形でふよ」

 ボ、ボキって。
 何かもうノリノリだな、この人。

「そう…だったのですか。いえ、あの、実は私、長年お付き合いしている男性がおりまして。父にどうしてもと言われて、泣く泣くこのお見合いの席に参りましたの。ですから、その…今回は…」

 私の隣りで榮太郎がニヤリと笑った。それから『待ってました!』と言わんばかりに前髪を分け、ニキビを拭き取り、出っ歯を外す。すると例のキラキラフェイスが登場した。

「…?!」

 見合い相手の女子が分かり易く表情を変え、そしてひたすらガン見している。

 穴が開くほどに、見る!見る!見る!

 さ~ら~に~、
 首をスイングさせ斜め下の角度からも見る!

 それを満足気に眺めながら榮太郎は言うのだ。

「ちょっと遊び心で変装したのですが…。せっかくこうしてお会い出来たというのに、縁が無かったのですね。本当に残念だなあ」
「う、嘘でーす!!」

 清楚女子、目が血走ってるし。

「は?何がでしょうか」
「付き合ってる男性なんかいません!!いつでも結婚出来る清いカラダですッ!入籍はいつにしますか?私、今でも良いですよ」

 チラチラと見てくる榮太郎の視線を感じたが、気付かないフリで文庫本を読み耽る。『何をしているのか?』ですって??それは私の方が訊きたいわッ。

 ほんとにもう、まったくもう!!

 帯刀家から“結婚を前提に交際したい”との連絡を受け、狂喜する両親から聞かされたのは、本日この時間にホテルのロビーへ行くようにと。仕方なく来てみると、何故か隣りに座らされ、後から清楚女子がやって来て。突然、お見合いが始まってしまったのである。

 私の存在を『混んでいるから相席をお願いした』などと説明し、淡々とソレが始まってしまったのだが、普通はおかしいと感じるよね??

 天然なのか、お嬢様だからかは知らないが、清楚女子は何の疑念も抱かずにそこにいる。いや、もしかして見合い相手の男性が評判と違い過ぎるブス男だったせいで混乱し、他はどうでも良くなっただけかもしれない。

 何となく榮太郎の意図は透けて見えた。他の女性の反応を見せてドヤ顔したいのだろう。…なんかもう、本当に本当に面倒臭い男だ。急に無口になった榮太郎に向かって、清楚女子は怒涛のアピールを開始する。

「こう見えて私、料理は得意なんですの。青山クッキングスクールに通っておりまして、あの青山智久先生から直接教わっていますのよ。ご存知の通りK大を卒業しておりますし、語学も堪能ですから、海外からのお客様にも落ち着いて対応出来ますわ。あーたら、こーたら…(以下延々と続く)」

 テンションの差に吃驚だ。

 ブス男の外見だった時はハイブリッド車よりも静かだったのに、美形だと分かった途端、どこぞの暴走バイクよりも煩くなるだなんて。

 分かり易いなあ、この人。

 そんなことよりも、相手が本気で結婚を考えているのに、私に見せつけるためだけにその気も無い見合いをしているのか、榮太郎は??

 このまま何時間でもアピールを続けそうな女子の話を遮り、彼はワザとらしく腕時計を見つめながら唐突に見合いを終了させた。

「ああ、申し訳ないのですが、時間だな。この後、仕事が押しているので今日はこれで」
「ええっ、でも、あの、あ!お仕事をしている姿も見たいので一緒について行きますよ!」

 チッ。

 明らかにこの男、舌打ちをしたぞ。それが聞こえているはずなのに、清楚女子は爽やかに微笑んで尚も粘るのだ。

「いえ、さすがに職場は…」
「榮太郎さん、どうか遠慮なさらずに」

「遠慮なんかしていませんよ。遠回しに言っても伝わらないようなので、ハッキリ言いますね。ク・ル・ナ!!」
「あはは、ハイハイ、…ではもう出ましょうか。職場への移動手段はタクシーになさいます?ホテルの前から2人一緒に乗れますものね。指定のタクシー会社などございますか?」

 思わず文庫本の捲った頁を元に戻した。えっと、大丈夫なんだろうかこの人??なんだか、清楚女子の目が尋常では無くなっているような…。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...