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<茉莉子>
その67
しおりを挟む人生に、絶望したことが有る。
それは死すらも決意させたほどだったが、どの方法で実行するかで悩み。あれこれ調べていくうちに、段々怖くなって諦めたのだ。
どうせ遅かれ早かれ、人は死ぬ。その日を待てばいいのだと、自分で自分に言い聞かせて。
…なぜ私たちは死を恐れるのか?
一度も経験したことの無いソレに怯えるのは、多分、死後の世界が幸せでは無いからだろう。天国に行けるなんて甘いことを言われても、そんなものは無いと薄々分かっている。だからこんなに辛い現実にも、なんとか根性で耐えて生き抜こうと思うのかもしれない。
死ぬ気になれば何でも出来る。
そんな開き直りも、時には必要だ。
大丈夫、私はこれからも生きていく。
…………
「初めまして、帯刀榮太郎です」
「こちらこそ初めまして、小椋茉莉子です」
軽くハンドシェイクしながら、相手の顔を失礼では無い程度にマジマジと見つめる。
帯刀グループの御曹司で超美形と聞いていたが、目の前にいる男性は噂とは程遠く。べらぼうに長い前髪とニキビだらけで荒れた肌、ネズミなんて可愛く思えるほどの激しい出っ歯。
服装もかなり適当で、まるでフリル状になって伸びきっている襟のポロシャツにジーンズ。いや、ジーンズ模様のレギンスを穿いていた。
こちとら張り切って振袖なんぞ着せられたのに、その格好はあまりにもあまりではないか。いや、でも私に選択の余地は無いのだった。帯刀家の当主となるべく男の嫁にと請われれば、幾ら名家の小椋家でも断れるはずもなく。
大人しくそれに従うのみで有る。
うん、別にいいや、コレで。不細工な男の方が浮気の心配しなくていいし。どうせ仮面夫婦になって、一緒に暮らすフリをすればいいんでしょ?
「あの、こんな男でガッカリですよね?もう全然、断ってくれて構いませんから。俺なんかより、もっと貴女にお似合いの男性がこの世の中には大勢いるはずだ。だから遠慮なく俺を切ってくれて構いませんよ」
…おお、何という謙虚なお方だ。
ウチのバカ兄貴に爪の垢を煎じて飲ませたいと思いながら無言で頷く。でも、残念ながら私から断ることは出来ないのだ。そんなことをしようものなら、首を刎ねられる。取り敢えず対面は終わったことだし、帰りたい。
榮太郎さんは多忙らしく、仲人無しで簡略的な見合いをと希望したのも榮太郎さんの方だ。『簡略的』と言っておいたのに、何トチ狂って着物なんかで登場して来るんだよ…と思ってるに違いないが、それもこれも全部ウチの両親が舞い上がってしまった結果である。
私はもっとフランスで料理を学んでいたかったが、急遽呼び戻されたのはこの見合いのせいだ。母曰く、榮太郎さんの母親が、帯刀家の跡取りを産むべき女性を165人の候補者から厳選し、選ばれたのがこの私とかで。
それはとても光栄なことなのだと言う。
光栄とか名誉とか、そんな目に見えないモノを有難がるなんて本当にバカバカしいが、それを言ったら最後、私は座敷牢に入れられてしまう。
…冗談では無いのだ。
本当に小椋家には、由緒正しい蔵の地下に小ぶりな座敷牢が温存されており。幼い頃から私は、そこの常連だった。いま思えば虐待行為だが、そんな常識は小椋家では全く通じないのである。
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