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<靖子>
その66
しおりを挟む「そ、そんなことを考えて…あの…」
人を何だと思っているのか?!と普通なら怒るところなのだろうが。目の前のこの人は、跡継ぎ問題に関して一番逃れられない運命を背負っているのだ。多分、時代の流れと照らし合わせ、抗ったり逆らったりもしてみたのだろう。それでも『帯刀家』としての呪縛から、解放されることは無かったのだ。
この人は大勢の人生を背負っている。
一蓮托生という言葉が脳裏に浮かび、改めて決心した。勇作の妻になるということは、帯刀家と共に生きていくということでもある。
「私に似てアホな子が生まれたら御免なさい。もう、先に謝っておきますね」
「うん、いいよ。メンタルは最強だろうし。とにかく頑張って励んでね」
ハイと言いたいところだが、内容が内容なだけに半笑いで頷くだけにした。
「…あ、社長!やっぱりココにいましたか」
その声に顔を上げてみれば、無表情な勇作が立っていて。私を見つけた途端、分かり易く破顔する。
「ごめんごめん、ちょっと靖子ちゃんに確認したいことが有ってさ。用事は済んだからもう戻ろうとしてたところ」
「行き先を伝えてくれないと、秘書たちが困るでしょう?同じことを何度言わせるんですか!」
「だから謝ってるだろ?そんなことより、昨日3回もしたんだって?初めてなのに辛かったってさ、靖子ちゃん」
「ち、違いますよ、2回ですッ」
…勇作ゥ。
社長の誘導尋問に見事引っ掛かってるし。そんで思いっきり真っ赤になってるし。
「ごめん靖子。もう来させないから!早く連れて帰るから!!」
「うわ…。本当に恋しちゃったのな、剣持さん。トマトみたいになっちゃって、なんか…わあ…」
「う、うるさいですッ。さあ、戻りますよ!」
「うん、じゃあね、靖子ちゃん」
バイバイと手を振る社長につられて、私も同じようにバイバイと手を振る。すると、社長の背後で勇作もニカッと笑ってバイバイしていた。くるりと社長が振り返り、その姿を見て固まる。
「うわ…。恋する剣持勇作、めっちゃ可愛いな。ちょっとだけ見ないフリしてやるから、チュウして来い。ちょっとだけだぞ」
てっきり仕事中だからと断わると思ったのに、勇作は子供のようにコクンと頷いた。
「え?まさか、会社で、嘘、勇作…」
「さ、さすがにキスはしないよ。でも、これはさせてくれ」
真面目な表情でいきなり頭ナデナデをする。
「ふ、ふあああん、最高…」
「よし、これで充電完了!」
キリッと顔を引き締めたかと思うと、社長の袖を掴んで颯爽と彼は去って行く。
ふふっ、可愛い魔王は私のトリコだ。
そう考えるとある意味、
私は世界最強なのかもしれない。
~~靖子編 END~~
───────
※こんにちは!たびたび顔を出す、ももくりです。
零に続いて靖子の話も無事に完結いたしましたが、なんと!このあと3組目の偽装結婚カップルが登場したりするのです。
うすうす察している方もいらっしゃるでしょうが、政親の兄である榮太郎さんと、その妻・茉莉子さんですよう。とにかくクセの強い2人なので、馴れ初めも強烈だったりします。興味のある方は、是非このままお付き合いくださいませ。
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