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<靖子>
その49
しおりを挟む 敗北を味わったときは、なじみの店で慰めてもらうに限ります。
いつものチャーハン屋さんに向かいました。
「ああ、いらっしゃい。シスター・クリス。ウル王女」
「またお邪魔します。ジターニャさん」
おなじみのお店では、ジターニャ・ヤムキンさんが接客をしています。彼女はネクロマンサーの家系なのですが、実家が取り壊されてしまいました。同じように、スポンサーがいなくて困っていたこのお店に、住んでもらうことになったのです。
アンデッドの執事ライスガスキーさんは、アンデッドの大将とともに鍋を振るっていました。チャーハンを高く打ち上げるパフォーマンスが、人気だそうで。
生者が管理人になったことで、アンデッドでもちゃんと商売ができるようになりました。ウル王女や国王に感謝ですね。
「シスター。今日は、新メニューがあるのよ。食べてみて」
そういって、ジターニャさんがラーメンを作り始めます。
「さあどうぞ」
出てきたのは、もやしがどかっと乗ったラーメンでした。
「ありがとうございます。いただきます」
お箸で、麺を持ち上げてみます。おお、太麺ですね。これは、食べごたえが……。
「うん、罪深い!」
なんて、背徳的な味なのでしょう。
見た目からしてタンメンの印象を受けましたが、これは
ラーメンと言えば、元貴族令嬢のステフさんが経営する「しょうゆとんこつ」の店が至高だと思っていました。こちらはこちらで、不思議な味ですね。
それにしても、なんの因果関係でしょうか? ステフさんもジターニャサンも、貴族令嬢ですよねえ。
「ジターニャさん。貴族様って、ラーメンがお好きなんでしょうか?」
「知らないけど、庶民の味に憧れはあるんじゃないかしら?」
「かもしれませんね」
ステフさんのお店はトンコツの風味が強いです。こちらは、おしょうゆが濃い気がしました。アブラっぽさがなんとも罪をそそります。下手をするとクドいのに、もっと食べたくなるような。
「背脂と醤油ダレ、もやしの『マシマシ』ってできるから、欲しかったら言ってみてね」
マシマシ……また珍妙な呪文が。
「なんと。マシマシなるものがありますのね?」
「ただ、ノーマルを先に召し上がってくださいな。王女様。いきなりマシマシにト
ライするより、ノーマルから自分でアレンジする方が楽しいの」
「では、そうさせていただきますわ」
わたしたちは、マシマシを追加します。
「本来なら、注文の際にオーダーするのよ。今は空いているから、特別に途中から味変の形で追加してあげるわ。味見もしてほしいし」
「ご厚意に感謝します」
では、マシマシとやらを。
「うーん! さらに罪深い!」
これは、罪悪感がマシマシです。
なんでしょう? ただでさえ強かった背脂感がさらにマシ、濃厚なしょうゆ味がさらに強くマシ、もやしのボリュームがマシたことで、食べごたえがシャレになりません。
実に、形容しがたい味わいになりました。これが、アレンジというものですね。
追加でチャーハンを、と思っていたのですが、このラーメンだけでも満足です。
「もやしばかり食べていたら、麺がのびてしまいましたわ」
「王女、のびたラーメンはそれはそれで味変になりますよ」
わたしは、のびきった麺をモリモリといただきました。スープを大量に吸った麺は、たしかに柔らかすぎるでしょう。しかし、だからこそ、シャキシャキもやしと合うんです。
「クリスさんの言うとおりですわ。これは麗しい」
また、新しい発見に出会って、わたしたちは満足してお店を後にしたのでした。
いつものチャーハン屋さんに向かいました。
「ああ、いらっしゃい。シスター・クリス。ウル王女」
「またお邪魔します。ジターニャさん」
おなじみのお店では、ジターニャ・ヤムキンさんが接客をしています。彼女はネクロマンサーの家系なのですが、実家が取り壊されてしまいました。同じように、スポンサーがいなくて困っていたこのお店に、住んでもらうことになったのです。
アンデッドの執事ライスガスキーさんは、アンデッドの大将とともに鍋を振るっていました。チャーハンを高く打ち上げるパフォーマンスが、人気だそうで。
生者が管理人になったことで、アンデッドでもちゃんと商売ができるようになりました。ウル王女や国王に感謝ですね。
「シスター。今日は、新メニューがあるのよ。食べてみて」
そういって、ジターニャさんがラーメンを作り始めます。
「さあどうぞ」
出てきたのは、もやしがどかっと乗ったラーメンでした。
「ありがとうございます。いただきます」
お箸で、麺を持ち上げてみます。おお、太麺ですね。これは、食べごたえが……。
「うん、罪深い!」
なんて、背徳的な味なのでしょう。
見た目からしてタンメンの印象を受けましたが、これは
ラーメンと言えば、元貴族令嬢のステフさんが経営する「しょうゆとんこつ」の店が至高だと思っていました。こちらはこちらで、不思議な味ですね。
それにしても、なんの因果関係でしょうか? ステフさんもジターニャサンも、貴族令嬢ですよねえ。
「ジターニャさん。貴族様って、ラーメンがお好きなんでしょうか?」
「知らないけど、庶民の味に憧れはあるんじゃないかしら?」
「かもしれませんね」
ステフさんのお店はトンコツの風味が強いです。こちらは、おしょうゆが濃い気がしました。アブラっぽさがなんとも罪をそそります。下手をするとクドいのに、もっと食べたくなるような。
「背脂と醤油ダレ、もやしの『マシマシ』ってできるから、欲しかったら言ってみてね」
マシマシ……また珍妙な呪文が。
「なんと。マシマシなるものがありますのね?」
「ただ、ノーマルを先に召し上がってくださいな。王女様。いきなりマシマシにト
ライするより、ノーマルから自分でアレンジする方が楽しいの」
「では、そうさせていただきますわ」
わたしたちは、マシマシを追加します。
「本来なら、注文の際にオーダーするのよ。今は空いているから、特別に途中から味変の形で追加してあげるわ。味見もしてほしいし」
「ご厚意に感謝します」
では、マシマシとやらを。
「うーん! さらに罪深い!」
これは、罪悪感がマシマシです。
なんでしょう? ただでさえ強かった背脂感がさらにマシ、濃厚なしょうゆ味がさらに強くマシ、もやしのボリュームがマシたことで、食べごたえがシャレになりません。
実に、形容しがたい味わいになりました。これが、アレンジというものですね。
追加でチャーハンを、と思っていたのですが、このラーメンだけでも満足です。
「もやしばかり食べていたら、麺がのびてしまいましたわ」
「王女、のびたラーメンはそれはそれで味変になりますよ」
わたしは、のびきった麺をモリモリといただきました。スープを大量に吸った麺は、たしかに柔らかすぎるでしょう。しかし、だからこそ、シャキシャキもやしと合うんです。
「クリスさんの言うとおりですわ。これは麗しい」
また、新しい発見に出会って、わたしたちは満足してお店を後にしたのでした。
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