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<靖子>
その48
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話は2カ月前に遡る。
私は、零と社長の新婚お披露目パーティーに招待されウッキウキだった。
貧乏だけど美しい娘と、キラキラ王子との結婚。女子ならば誰でも憧れるシンデレラ物語である。しかも、招待客の殆どが社長側の友人で、もしかしてココで私も見初められるかも…とウッキウキにワックワクも加わり始め。
とにかくテンションMAXで、素敵なお嬢さんを演じていたのである。
「なんか女性がメチャ少ないよなあ~」
「そ、そうだね~」
高久さんのボヤキはごもっともだったが、よくよく考えれば、新婚お披露目パーティーに旦那さんが独身女性を招くはずも無く。
そして零は異常なまでに友人が少ない。
ポツンポツンと点在している女性客はその殆どが男性客の奥様か恋人らしく、どう考えても私の希少価値は上がっていた。
…ハッ。
ここで私は気付くのだ。高久さんとツルんでいてはダメだということに。この男のツレだと思われては、誰も私を見初めてくれないではないか。
零、待ってて。
私ももうすぐそっち側に行くからっ。
「ねえ、茉莉子さん1人で寂しそうじゃない?高久さん、相手してあげなさいよ~」
「ん?ああ、そうだな」
うふふ、うふふ。
ほおら、私はフリーですよお。
妖精をイメージしながら優し気に微笑む私。
「失礼!少し話をさせて貰っても良いかな?」
「はい、喜んで…」
頬を赤らめ、ゆっくり振り返るとそこには剣持さんが存在感たっぷりに立っていた。
うーん、この人は対象外だなあ。だって10歳以上年齢が離れているし、最上級の女性としか付合わないと評判だから。だがしかし、仕事のことで話をしようと言われ、改善点などをひたすら挙げさせられる。
ええっ?これでパーティーが終わっちゃうの?そんなあ、剣持さんのバカァ。だってほら、あっちに私好みのカワユイ男子が。そっちのストイックそうな細マッチョもいいし、その後ろの爽やかそうな彼も素敵。
目移りしちゃう~とか思っていたら、
強引に視界へと入って来る剣持某。
停滞していた状況がようやく動き出したのは、パーティー開始1時間後のことだった。何故か零が剣持さんを連れ去ったのである。なんとなく2人の後ろ姿を目で追っていると、どこからかやって来た社長が階段にへばりつき、どうやら会話を盗み聴きしているようだ。
…あ、愛されてるねえ、零。
軽い感動を覚えながら事の成り行きを見守っていると、暫くして零が私を呼びに来た。
「ごめん、靖子。なんか剣持さんが倒れてしまって。今、ゲストルームで寝ているんだけど、ちょっとだけ様子を見てあげてくれないかな?」
「うん、いいわよお。高校時代にお祖父ちゃんの介護をしてたから、そういうことには慣れてるんだあ」
「靖子、剣持さんと爺様を一括りにするのはやめなさい。あれでも天下の剣持さんなのよ」
ここで『イヤ』と言うほど私は鬼では無い。むしろ剣持さんに恩を売れるなんて大歓迎だ。勢いよく階段を駆け上がり、忍び足でゲストルームへと入った。ネクタイを外しシャツのボタンを豪快に開けたその人は、ベッドから私を手招きする。
「だ、大丈夫ですか、剣持さん。何か欲しいものがあれば持って来ましょうか?」
本気で心配する私に彼は言ったのだ。
「…平気だよ、だってこれ仮病だから」と。
ここで私という人間について少し語っておこう。
浦沢靖子の人格形成に最も影響を与えたのは、
ジジババである。
幼い頃から同居していた曾祖母と祖父、祖母の3人が当時共働きだった両親の代わりに兄と私の面倒を見てくれて。それが中学生の頃には高齢となった曾祖母の、そして高校生になった頃には病に罹った祖父の介護を手伝うこととなる。
1人で介護をしていた祖母の負担を減らそうと、帰宅してからの数時間だけ面倒を見ていたのだ。食事の補助やシモの世話、入浴を手伝ったり、話し相手になったり…。
私の話し方が遅いのは、多分そのせいで。曾祖母の耳がよく聞こえなかった為、口の動きで通じるようにと丁寧に話していたら、こんなトロイ喋り方になってしまったのだ。
また、病が進行していた祖父には言語障害の症状が出ていて。その意思を素早く汲み取ろうとした結果、かなり聡くなったと思う。そんな私は剣持さんの言葉をこう解釈したのだ。
…そっか~、分かる分かる。
年下の後輩に先を越されるのって辛いよねえ。
私も大学時代にずっと彼氏がいなくて。一緒にボヤいていた1つ年下の後輩から、『靖子さん!とうとう彼氏が出来ました!』と報告を受けた時のあの衝撃は今でも忘れないし。
うふっ、うふふふ。
意図的に慈愛に満ちた笑顔を浮かべながら、私は優しくこう言った。
「確か剣持さんって34歳でしたっけ?」
「えっ?ああ、よく知ってるな」
さあ、核心に迫りますよ。
「そりゃそうですよね…。同類だと思っていた社長に先を越されちゃって。しかも向こうは7つも年下なんですもん、剣持さんの立場が無くなっちゃいますよねえ?」
「…は?いったい何を言ってるんだ?」
人間という生き物は、真実を突かれるとあからさまに動揺するものだ。私の気のせいかもしれないが、剣持さんの頭はグラングラン揺れていた。
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