44 / 111
<零>
その44
しおりを挟む……………
そんなワケでホームパーティー当日。
何と言うか、独白で語る元気も無いほど私は疲れ果てていた。
「やあ!お招き有難う。これはウチの奥さんと娘たちだよ」
「相良さん…土曜と言えば美容院は稼ぎ時。それなのに休ませてしまい申し訳ございません。大変お美しい奥様と可愛らしいお嬢様ですね!」
うう…。政親さんの友人、多過ぎ。
反対に私の友人、少な過ぎ。
そこそこ広いリビングとそれに隣接したデッキは、人で溢れ返っており。この中に私の友人が片手にも満たないという衝撃の事実。いや、靖子と高久さんに於いては政親さんも知っている人物なので、私だけの友人とすら呼べない気がする。
結局、何を訴えたいのかと言うと、こんな大量の人間を一気に紹介されても、覚えられないよ~ということだ。メガネを掛けているのが小田さんだと認識したその直後に新たなるメガネが登場する虚しさよ。
なんかもう、あちこちに小田さんが8人くらいいるような気がする…って本当はその中の1人だけが小田さんなんだけど。
「よお、政親!!お前、水臭いぞ。こんな可愛い嫁さん、いつの間に見つけたんだ」
「あはは、久しぶりだなあ、与田!」
メガネ男なのに、オダじゃなくてヨダだと。
もしかして私のことを試しているのか?!
まったく、せっかくの休日に何故こんな…。
そう思えば思うほど、公子さんへの怒りが増す。一目睨んでやろうとその姿を探すと、当の本人は剣持さんから少し離れて立っていた。
へ?どうしてそんなに離れているのか?そしてなぜ剣持さんは高久さんと靖子という意外な組み合わせで歓談しているのか?
「…なんとかして」
「えっ?!なッ??」
瞬間移動したのかと錯覚するほどの素早さで公子さんは私の真横に立ち、耳打ちしてきた。
「あの雑魚2人組を剣持さんから切り離して」
「はあっ?!失礼過ぎですよ、あの2人は私の招待客なんですけどッ」
「ふん、やっぱりね」
「やっぱりって、どういう意味ですか?」
「いいから早く!私と剣持さんをくっつけたくないの?」
「……(ゴニョゴニョ)」
ワザと聞こえない声でこう答えたのである。
『もちろん、くっつけたく無いですよッ!』
あたしゃアンタの召使いかっつうの。
剣持さんは女を見る目が有るから、わざわざ地雷案件を選ばないと思うんですけど。
…そうだなあ。そろそろ剣持さんもモデル風の美女に飽き始めた頃だろうから、一緒にいて楽しい…うん、靖子みたいなコが逆に新鮮でいいかも!
ニヤリと私は笑い、剣持さんの元へと向かう。
公子さんは無言でその後をついて来た。
「そうなんですよ~、月イチの試食会とかが、年配社員メインであまり参考にならなくて~。その意見を元に仕入れの合否を確定するので、もっと年齢層をバラバラにして欲しいんです」
「そうか。となれば試食専用の人員を外部から募るのもいいかもしれないね」
高久さんは茉莉子さんと話し込んでいてせっかく剣持さんと靖子が2人きりなのに、その話題は仕事オンリーのようだ。それよりも剣持さんってお酒飲んでもこの調子?どうしたら崩れるんだ、この人??
「零さん、は・や・く」
「はいはい、分かってますよ」
ええい、公子めッ、うるさいわ!!
聞こえないように舌打ちをして私は一歩前に進む。
「こんにちは、剣持さん!」
「こんにちは、零さん」
まるで保育士さんが幼子に挨拶するかのように、それはそれは優しく微笑まれた。
…認められている。
偽装ではなく、本当の夫婦になったくらいのタイミングで剣持さんが突然私に優しくなった。それは多分、自分が仕えている帯刀家の人間に嫁いだ者として認められたからに違いない。
というか、偽装だった頃には塩対応だったのに。まったくこの人は侮れないぞ。
「…さん、零さん?大丈夫ですか?お疲れのご様子に見えますが」
「いえ、全然大丈夫ですよ。少しだけ人あたりしたみたいです」
よくよく考えてみれば、もしかすると私が帯刀家の跡取りを産むかもしれないワケで。その辺の石ッコロ的な存在だった女が、これで一気に特別待遇になるのも頷ける。
しかし、それにしても心配し過ぎではないだろうか。なぜに人前で喉の奥を覗かれ、下瞼を裏返されているのか。
…ううむ。
3
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
転生無双の金属支配者《メタルマスター》
芍薬甘草湯
ファンタジー
異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。
成長したアウルムは冒険の旅へ。
そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。
(ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)
お時間ありましたら読んでやってください。
感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。
同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269
も良かったら読んでみてくださいませ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる