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<零>
その12
しおりを挟む「うう、ああ、もういい加減にッ…はむっ」
甘々地獄。
とろとろ攻撃。
焦らされまくりボンバー。
この一連の行為を、他に何と名付ければ良いのだろうか。
ふふっ、私って奴ぁネーミングの天才だな…って、ええい!まだキスする気?!そんでそんな優しく触れられるとなんかもう、『イーッ!』ってなるッ。
恐ろしいほど丁寧な前戯に、私はもう辛抱たまらん状態で。未だに続いているキスのせいで、何も要望を伝えられないのが現状だ。
暫くしてようやく唇が離れたので、神経を逆撫でしないよう細心の注意を払いながら私は課長に懇願する。
「あのう、そろそろ次の段階へ…」
「はあ?!ムードの無い女だなあ」
はてさてムードとは、何ぞや。
それはバーで女性批判をした時点で脆くも崩れ去ったのではあるまいか。とまあ、そんなことを言えば火に油を注ぐようなものだ。素晴らしい指技を駆使しつつも、課長は私の胸を自らの舌で刺激しまくる。
「お前、意外と胸が大きいんだな。これはかなりのボーナスポイントだ」
「は、はァ…」
気の無い返事をしたせいで胸に顔を埋めた課長からキッと睨まれたが、そんなことよりもとにかくこの状況を早く終わらせたかった。なぜなら恐ろしいほどの快感が押し寄せ、爆発寸前だったからである。そんな私の気持ちも知らずに、課長は言う。
「俺はとにかく気持ち良くなりたいんだよ。それには相手も同じように感じてくれないと心底、楽しめないだろう?とにかくたっぷり解してやるよ。ほらもう指がこんなに入ってる…」
は、鼻血ブーッ!!
やだもうこの人、何者なのッ?!
殺して、いっそ私の息の根を止めてーッ!
…という表情で課長を見つめたのに、やはり彼には真意が伝わらなかったようだ。
「何?そっか、まだまだ生ぬるいと?さすが松村零だなッ。よし、もっと頑張るぞ」
う、ええええーっ?!
が、頑張らなくていいんですけどッ。
涙目でふるふると頭を左右に振ったところ、これまた課長は別の意味だと捉えたらしい。
「ったく、畜生!どうすれば満足するんだよ?分かったよ、こうなればもう最終手段だ。これでお前をヒイヒイ言わせてやるッ」
「え、ああ、んっ」
待ちかねたソレが入ってきて、それだけで意識を失いそうだ。
「ヤバイヤバイヤバイ、めちゃくちゃ気持ちいい…」
私もと答えたかったが緩やかに課長が動き出し、小刻みに発生する快感に耐えるだけで精一杯だ。
「どうなってんだよ、お前、名器かよッ。俺の腰が止まらねえだろ?!」
「あの…かちょ…」
ようやく言葉を発することが出来たので、息も絶え絶えに私は思いを告げる。
「なんだよッ?」
「その、隣室に聞こえると恥ずかし…ので、エロイ言葉は禁止…しま…す」
これでどうやら逆鱗に触れてしまった私は、この後、執拗なまでに攻め続けられたのだ。
…………
そんなワケで、その翌朝。
取り敢えず私は走っていた。
課長に体力の無さを指摘されて、日課であるジョギングに同行しろと上から目線で命令されたからだ。
そこそこ昨晩もハードだったというのに、こんな限界まで肉体を酷使させられるとはいったいどんな苦行なのか。しかも『ウェアやシューズは用意済みだから』と言われ、立ち寄った課長ハウスの豪華っぷりにも驚きを隠せなかった。
意味なく一軒家に一人暮らしなんですけど。
部屋数も多そうだし、どこもかしこも広いので手入れが大変そうだ。現在、掃除はハウスキーパーに依頼しているそうだが、結婚後は全て私が行なうことになるらしい。何故なら、偽装結婚がバレないようにとの理由で。
夜は性欲モンスターである課長の相手をし、朝は走らされまくり、家事も絶対手を抜くなと。婚約期間中に料理教室へ通わされる予定だが、そこも勝手に課長が決めて来たところで。セレブ奥様御用達の、超人気教室らしい。
「そんなところに通う奥様達と、仲良くなれる気がしないなあ…」
「おいこら零!!もっと気合いを入れて走れッ。もう残り3周で終わりにしてやるから!!」
ええ、ええ。なんとなく分かってきましたよ。この男のペースに合わせられるのは、私みたいな雑草女じゃなければ無理なのだと。温室育ちのお嬢様では、きっと死ぬ。だってこの私ですら、倒れそうなんだものッ。
「お前、なんだかんだ言ってスゲエな」
「…何がですか?」
「俺にペースを合わせて走れる女は初めてだ」
「学生時代は、新聞配達をしてましたからね。他の人の2倍速で配り終えると評判でした」
そう、自慢では無いが足腰の強さには定評が有るのだ。
「って、おいこら、俺を追い越して行くなッ!」
「いえいえ、だって私、まだまだ走れるんでッ」
課長は自分のことを『負けず嫌い』だと言っていたが、私もかなりのド根性娘なのである。
「あははは、俺も実は余力を残していたんだぞ」
「残念でしたッ、私もまだまだ頑張れまーす!」
…う、嘘でーす。なんかもうフラフラで倒れそう。だって朝食もまだなんだよ??すきっ腹で睡眠2時間の女を並走させるって、やっぱこの男、鬼だわッ。
ようやくノルマを達成し、崩れ落ちるように課長ハウスの玄関で座り込む。広くて長い廊下を這いずりながら進んでいくとその先では課長が笑顔で朝食の準備をしていた。そして、立ち上がることすら困難になった私を、まるで赤子を横抱きするかのようにして課長はダイニングへと運んで行く。
「ぷっ、くくっ。やっぱもう限界だったんだろ?お前はほんと素直じゃないよなあ。ウチの両親との面会は午後からだから、それまでゆっくり休んでおけ」
そう言いながら、その顔面を近づけて来て私の頬に軽くキスをした。
うっ、死ぬ。
美しい皿に盛りつけられた料理がそれだけで美味しそうに見えるように、キスをしてくれる相手もイケメンというだけで加点されてしまうようだ。
「俺が簡単な朝食を作るから、そこに座って待っていろ」
「ふぁああい」
待ちに待った朝食には例の高級ソーセージがボイルされて登場したが、課長のせいで私は、もうこの感触がキスだとは思えないようになっていた。
…恐るべし、課長ッ。
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