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<零>
その5
しおりを挟む「あの…でも、私…」
チラッ、チラッ、チラリンコ。
「まあまあ、岩佐さん。そんなキツイ言い方しなくてもいいだろう。誰でも若い頃は年上の男性に憧れるものだよ」
「柳沢さんは黙っててくださいッ」
おっと、人数追加。
「そうはいかないよ。俺が口を滑らせたせいで、松村さんが責められているんだからさ」
「まったく、もう!どうせ若くて可愛い女のコにイイカッコしたいだけでしょう?これだから男って嫌なんですよ」
「え?でも、兼友課長も男だけど…」
「兼友課長は別格だから。あの方は決して女性を外見や年齢なんかで判断していません。知性とか品格を重視されているんですッ」
こ、怖っ。
信者か?信者なんだな??
「いや、でも…。俺が見た限りじゃ、すごく楽しそうに2人で食事してたぞ。そうだよね、松村さん?」
「あ…の…、私…」
ようやくここで課長が立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。
「もうそのくらいにしてくれないか?」
「か、課長…」
動揺している岩佐さんに向けて、課長はどこぞの俳優みたくキメ顔を見せつける。
「そんなに噂となってしまったのなら仕方ない。隠す必要は無いだろうから言っておく(キメ)。
俺は、ここにいる松村零さんと付き合っている。結婚も視野に入れ、静かに愛を育んでいるからどうか今は温かく見守っていて欲しい(キメ)。
よろしく頼むよ、岩佐さんと柳沢くん(キメ)」
…どうやら腰が砕けたらしい岩佐さんは、それでも『ハイ!』と勢いよく返事をし。柳沢さんに支えられながら、ヨロヨロと去って行く。
「(コソコソ)一丁あがりですねっ」
「(ヒソヒソ)おいこら、これでお前は俺の彼女だと公表されたんだ。言動には細心の注意を払え」
「(コソコソ)うぃーっす」
「(ヒソヒソ)もっと上品にッ」
小声でそんなやり取りをしていると、いつの間にか背後に人の気配を感じ。振り返るとそこには人だかりが出来ていた。ほぼほぼ女性で構成されているその壁が、徐々に距離を縮めてくる。
「(ヒソヒソ)イッツ・ショータイム!」
「(コソコソ)ひいい…」
アイドルと直接会話しない内気なファンの如く、あちこちで独り言のような質問が飛び交う。
>松村さんと付き合ってるって本当ですかー?
>結婚なんてしませんよねー?
>兼友課長、愛してまーす!
再びキメ顔になった課長は、声を張り上げてこう言った。
「俺は松村零さんと結婚する。これはもう、決定事項だ!!俺の愛する女性に嫌がらせなんかしてみろ、そいつに制裁を加えてやるからな。分かったら、さっさと仕事に戻れ!!」
おうふっ。
男前の男前による男前のための台詞だわ。
さすがの私もキュンとしたり
…しないんだなあ、コレが。
「(コソコソ)もう解散したのでそのキメ顔、元に戻しても大丈夫ですよ」
「(ヒソヒソ)…松村へのサービスのつもりで続けているんだが。なあ、お前って本当に俺を見て何とも思わないのか?」
返事代わりに深々と頷いた。
「(ヒソヒソ)いや~この人選、成功だったわ。俺、本当に何をやらせてもスゴイよなあ。お前を選んだ自分を褒めてやりたいよ」
「(コソコソ)ったく、何しても結局は全部、自分の手柄にしちゃうんですよね。おー、やだやだ」
「(ヒソヒソ)さっきの状態を見ただろ?俺を嫌だなんて言う女は、お前くらいだぞ。いったいどんな男なら好きになるんだよ?」
「……」
言葉に詰まったのは、過去の苦い恋愛を思い出したからだ。
『零、俺はお前がいれば他に何もいらない』
…私を思いっきりその気にさせておいて、
『俺があんな女、好きになるワケないだろ』
…そのまま地獄へと突き落としたあの彼を。
今でも忘れられないのは、好きだからとかじゃなくて。たぶん、心の傷が深過ぎるからだと思う。
「おい、大丈夫か?じゃあ、そういうことで日曜の朝9時にな」
「えっ、何がですか?」
「おいおい、きちんと聞いておけよ。ウチの両親に紹介するから、迎えに行くって話」
「わ、わあお」
「いや、その前にウチの母が気に入るように完全装備するから、土曜の予定も空けておけ」
「完全装備…ですか?」
「美容院行って、服も買ってやるから」
「おお、それはそれは…」
そして、ここからは怒涛の日々を送ることとなる。
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