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第二章
Echo 2
しおりを挟む「ただいま」
「お帰りなさい、おかーさん」
「いい子にしてた?ミツくんを困らせてなかったかな?」
「うん、大丈夫!いい子にしてたよ」
私に抱き着こうとして両手を広げたその瞬間、背後にいる森嶋くんに気付いたのか分かり易く唯が固まった。どうやら子供には不慣れなようで、森嶋くんの方も固まっている。そこに絵本を手にした光正が顔を出す。
「雅、お帰り。…ん?珍しいな、お客様かい?えっと、キミは商品管理室の森嶋くんだよね?ほら、唯。お客様にご挨拶は」
「おかーさんが知らない人とは口を利くなって言った!」
「唯、この人はお母さんのお友達だから口を利いてもいいよ」
「こんにちは!いさき ゆい7さいです」
残念ながらここで電池が切れたらしく、立ったまま眠そうにフラつき出す。
「ああ、そっか10時だもんね。もう唯は寝なさい」
「さっきまで布団に入ってて、『おかーさんが帰るまで起きてる』とか言いながら半分寝てたんだ。雅の顔を見て安心したんだろう。あっちで寝かせてくるよ」
そう言って軽々と唯を抱き上げ、光正は奥の部屋へと消えていく。その後ろ姿を見ながら森嶋くんがボソリと呟いた。
「なかなか雅さんもヤリますね」
「えっ、何のこと?」
話しながらも『中へどうぞ』と手振りで示すと森嶋くんは後ろ向きで靴を脱ぎ、リビングへと入って行く。
「なんだ、言ってくださいよ~。営業部の番匠さんかあ。旦那さんが亡くなって、3年でしたっけ。もう次の男がいてもイイ時期ですよね~」
「うわ、違う違う違う、誤解しないでよ」
慌てて私は弁解する。芳が亡くなり、経済面で不安になった私が引越しを検討していたところ、光正がここを薦めてくれたのだ。会社へ乗継ぎ無しの電車1本で行けて、しかも近所には小学校やスーパー、病院なども揃っている。既に光正が別階に住んでいたので周囲の目など色々と懸念されたが、それ以上に家賃の安さが魅力的だった。
「だから番匠さんとは付き合っていない。単なるご近所さんなだけだから、おかしな噂は流さないで」
「でも俺、知ってますよ。昔、番匠さんと死んだ旦那さんとで雅さんのことを奪い合ってたって。不倫じゃないんだし、付き合っちゃえばいいじゃないですか」
カタンと物音がして光正が戻って来たかと思うとそのままL字型ソファの端に腰を下ろし、柔らかく微笑みながらこう言った。
「森嶋くんはまだ若いなあ。人の感情はね、そんなに上手く割り切れないんだよ」
その言葉は、軽いようで深く深く私の心に沈んでいく。
若さは無敵だ。傷ついてもすぐに回復するから自分以外も同様だと思い込み、平気で他者を傷つけてしまう。年齢を重ねるごとに人は傷つかない方法を身に着け、深く関わり合うことを避けるようになり、どんどん人間関係が希薄になるのだ。
だからこそ、10代や20代で仲良くなった友人は一生モノのような気がする。それは、自分の無様な姿を思いっきり見られているからで、今更隠すことなど何も無いからだろう。なのに森嶋くんは、友人がいないのだと言う。イマドキの若者と言ってしまえばそれでお終いだが、本音を晒して語り合う相手がいないのはあまりにも寂しいではないか。
「余計なお世話ですよ」
「うん、でも感情を吐き出すことは人間にとってとても重要なことだと思う」
明日は土曜で仕事も無いので、唯を寝かしつけた光正が戻ってから3人で酒盛りを始めた。元々お酒に弱い私はすぐ説教臭くなってしまい、ひたすら森嶋くんに向かって語り続け、要所要所で光正が彼を助ける。どうしてこれほどムキになって森嶋くんに関わろうとするのか?自分でもよく分からない事態に戸惑っていると、光正が呆気なく答えをくれた。
「…ああ、そうか。どことなく森嶋くんって井崎君に似ているんだな」
酔って頭の中が程好く麻痺していた私は、その言葉で腑に落ちてしまう。
「顔のパーツとかが似ているのかな?でも性格が全然違うからさ、それでなかなか気付けなかったんだ」
死んだ元夫に似ていると言われても、あまり気分は良くないのだろう。森嶋くんは分かり易く顔を顰めている。
「どんな人だったんですか、雅さんの亡くなったご主人って」
どうせ私に訊いても答えてくれないと思ったのか、その顔は光正の方に向いていて。何故か気まずい思いを抱えながら、私は押し黙っていた。
「うーん、ひと言で表現すると、強かったなあ。10代で死を意識して、それでも人と接することを止めなかった。物凄く社交的でね。彼の周りにはいつも笑顔が溢れていたし、自然と傍に人が集まってしまうようなそんな魅力的な男だったよ」
それを聞き、森嶋くんはボソリと呟く。
「なんか、外見は似てても中身は真逆ですね。俺なんて孤立しまくってるし。むしろ嫌われる天才っつうか…」
『あ、自覚してるんだ』などと冷たいことを思いながら、私はひたすらジッと森嶋くんを見つめた。場を盛り下げたことが気まずかったのか、森嶋くんはいきなり話題を変える。
「そう言えば娘さんって7歳でしょ。その年齢でもまだ絵本とか読むんですね」
これに光正が答える。
「声をね、聞かせると落ち着くみたいで。毎日一緒にいた父親が突然消えただろ?それで幼いながらも不安になるみたいなんだ」
「ふ…うん。そういうモンですか」
「本人に訊いたワケじゃないけど、俺がそうだったから」
「番匠さんが?」
「俺も小さい頃に母親を亡くしてて。暫くの間、不安定だったんだよ」
「あ…えと…なんか、すいません」
…そうか、森嶋くんは相手のことを考え、勝手に自滅してしまうタイプなんだな。傍若無人に見えて、実はとても弱い人なのかもしれない。
「謝ること無いよ。全然、気にしてないから」
ここで何がきっかけになったかはまったくもって不明だが、森嶋くんのメソメソスイッチが突然ONになったようだ。
「俺、なんか人付き合いとか苦手で。その…面白いことも言えないし、気の利いたこととか出来ないし、当たり前のことがハードル高くて…。だったら1人の方が気楽だし、誰とも打ち解けずに生きるのもアリかな…なんてそう思ってたんです」
もともと素直なのか、それとも酔っているせいかは不明だが、私達に自分のことを教えてくれる気になったらしい。一生懸命に語るその姿が、なんだか妙に可愛く見える。思わず口元を綻ばせていると、光正が相槌を打った。
「俺もそうだったんだよ。大学くらいまでは本当に内向的で、いつでも1人で過ごしていた。人と関わり合って神経をすり減らすより1人でいる自由を選んだんだ。もう、死ぬまで1人かもと思ったのに、それをぶち壊した女がいてさ」
「女?」
無言で微笑みながら、光正は私を指さす。
「雅さんですか!」
「うん、そう。あれは衝撃だったなあ。初対面で説教されちゃってさ。なんというか物凄い吸引力だった」
恥ずかしさの余りに両手で耳を塞ぐが、それでも微かに会話は聞こえてくる。
「説教って…。ぷぷっ。そんな昔からこのキャラだったんですか」
「そうだよ、雅は変わらないんだ。いつまで経ってもこの調子。なんかもう、当時はクセになっちゃって。ひょっとしてマゾっ気あったのかも、俺」
「へええ。その頃から既に好きだったんですか?…雅さんのこと」
「うん、好きだったな」
「ですよねえ。死んだ旦那さんと奪い合うほどだし」
「奪い合ってはいないよ」
「へ?そうなんですか??」
「最初から勝負は見えていたんだ。雅はずっとずっと井崎君のことが好きで、それは死んだ今でも変わらないからさ」
ふと私の中で何かが引っ掛かる。会話を巻き戻すとそれが何気なく呟いた光正の
>うん、好きだったな
という言葉だったことに気づき、なぜ引っ掛かったのかをボンヤリ考えてみる。
…ああ、そうか。
…過去形なんだ。
当たり前と言えば当たり前かもしれない。転職までしてヨリを戻したのに、他の男が好きだと一方的に別れを告げた女。それだけじゃない、職場で相手の男との円満な夫婦生活を見せつけ、その男が死んだら今度は都合よく近寄って来て、何も無かったかのように一緒に食事をし。時には恋敵だった男にソックリなその娘の世話をして欲しいと頼んでくる。
頭の中では自分のしていることがどれほど最低か分かっているのに、どうしても甘える相手が欲しかった。全ての事情を知っていて、ただ傍にいてくれる優しい相手が。
営業部の若い女性社員達の言葉が脳裏を掠める。
>ええっ?じゃあ梨乃は??
>付合うかもとか言ってたじゃん。
ヨリを戻し、そしてまた別れて…あれから10年近く経ってしまった。つかず離れずの関係を続けてきたけれど、もうそろそろ潮時なのかもしれない。光正にも幸せになる権利は有るし、これ以上甘えては私自身がダメになる。きっと本人に直接言っても、優しい光正のことだからそんな急には私達親子を切れないんだろうなあ。若くて美しい石原さんと上手くいきそうなのに、遠慮して言い出せないような人なのだ。だったら、私の方から離れるしか無い。寂しいけれどこれが現実なのだ、笑って見送らなければ。
結局、森嶋くんは光正の部屋に泊まりその翌日、我が家に朝ご飯を食べに来た。光正は顧客からの急な呼び出しを受けて外出したらしい。
「唯?テレビ見てないで早く食べなさい」
「えーっ、だってそのお兄ちゃんもテレビ見てて手がお留守だよ~」
「…え?!あ、俺…ごめん」
せっかく酒盛りで打ち解けたかと思ったのに、朝になった途端ヨソヨソしい森嶋くんに小さめのおにぎりを渡す。
「ねえ、森嶋くん。嫌なら断って欲しいんだけど」
「はい、何ですか?」
緊張しているのを悟られないよう、私は早口で言う。
「えっと、その…。私と付き合ってくれないかな」
「……は?」
きっと森嶋くんからすれば、10も年上なのに付き合いたいだなんて滑稽な女に見えるだろう。そう思われること前提で切り出したのに、それでもやっぱり視線が痛い。
「あのね…、なんていうか、本当に付き合うんじゃなくて、付き合うフリをして欲しいんだけど」
「へ?ああ、そういうこと…。でも、何でですか?」
私は唯が海苔でベタベタにした手をウエットティッシュで拭きながら、光正について語り出す。大学時代に付き合っていたこと。そこから色々あって別れ、再会し、また恋人同士に。その直後に芳の病気が発覚し、呆気なく光正を捨てて芳を選んだ私を恨むどころか後押ししてくれて。芳が亡くなった今はいつも私達親子を見守り、困った時はすぐ駆けつけてくれることを。
「…えっと、それって、雅さんが好きだからこその献身じゃ…」
「え?!違う違う。だって聞いちゃったんだもん。ほら昨日の夕方、営業部の女のコたちがウチの部署の一角で騒いでたでしょ?」
「ああ、確かにいましたね」
「石原さんって知ってる?」
「営業部には珍しい清楚系の女性だ」
「その石原さんが光正といい感じで、『付き合うかもしれない』って言ってたらしいの」
…もしかして私の本当の目的は、ここで森嶋くんに否定して貰うことだったのかもしれない。
>そんなに雅さんのことを想ってる男が、
>他の女に目移りするワケないですよ。
そう言われて、安心したかったのかもしれない。光正からの好意を感じていながらそれを受け入れるでもなく、かと言って突き放すこともせずに生殺し状態で傍に置いた挙句、この状況がずっと続けばいいと内心では願っていただなんて。私という女は自分で思っているよりもずっとずっと強欲なようだ。
しかし森嶋くんはキッパリとこう答えた。
「もう待ちくたびれたんでしょうねえ。なんだかんだ言って人間は見返りを求める生き物だから。報われない片想いなんて、せいぜい数年続ければ気が済むでしょ?それが10年…って。そろそろ気持ちに整理をつけようと思ったそのタイミングで若くて綺麗な石原さんが現れたら、それも正面から『好き』だと言われたら、誰だって落ちますよ。でも、情のせいで雅さん親子とも切れず、板挟みになってるのかもしれませんね。うーん、そっかあ…。そういう理由なら、分かりました。彼氏役を引き受けましょう。あー、でも、どうだろう?番匠さんって鋭い感じがするし、綿密に打ち合わせしておかないとすぐバレそうな気がする…」
「うん、じゃあ頑張って光正を2人で騙しちゃおっか!それで石原さんと幸せになって貰おう!」
悲しいことに、私はとても動揺していて。それを見破られないようにと必死で喋り続けていた。
それからの数日間は、光正が私に石原さんとのことを言い出せなかったように私も森嶋くんとのことを言い出せず。こうなればもう仕方ないので、徐々に森嶋くんと親密になっていく姿を見せつけようということになり。…いつの間にか本当に仲良くなってしまった。森嶋くんの変貌ぶりは凄まじく、まるで初めて出来た友達かのようにその打ち解け方は半端なく。特に我が家への通いっぷりは、皆勤賞と言わざるを得ないだろう。
「ただいま~!唯、ケーキを買って来たぞ」
「わーい!啓太、大好きっ」
…えっと、どちらかと言うと私より唯と打ち解けていたりして。相変わらず光正も顔を出してはいるが、毎日は無理なのでどうしても差が出てくる。子供というのは良くも悪くも残酷なもので、常に新しいモノに興味を示すらしく。それは人間に対しても同様で、森嶋くんとい未知の大人を知ることが楽しくて堪らないようだ。
「森嶋くん、もう手土産は要らないよ。毎日買ってたら破産しちゃうじゃない」
「えーっ、でも食事代だと思えば全然。いい加減、少しは払わせてくださいよ」
「本当に要らないんだってば。唯の遊び相手もして貰ってるし、こっちも色々と助かってるから」
「いやあ、別に唯ちゃんの相手は好きでやってることなんで…」
もちろん私も同じ部署なので、共通の話題で盛り上がってしまい。元々、口数が少なかった光正は更に言葉を発しなくなった。きっと居心地の悪い思いをさせてしまっているだろう。申し訳ないという気持ちと共に、早く察してという気持ちも湧いてくる。これで彼の方から距離を置いてくれれば無事に作戦成功なのだが、残念ながらその思惑は毎回外れてしまい。いつでも気づくとそこには光正が優しく微笑みながら私を見詰めていて。なんだかもう、その表情で何もかもがどうでも良くなってしまうのだ。
…一生このままでいられないだろうか?私と唯と光正の3人で、ただ静かに暮らしていられればそれ以上のことは何も望まないのに。光正を解放してあげようと決心しておきながら、容易く揺れる自分が怖い。こんな風に森嶋くんを巻き込んでおきながら、平気で現状維持を願ってしまう自分が。
そんな狡い人間を神様は放っておかない。
ある晩、光正が電話してきて。『突然で悪いんだけど…』などと注釈をつけながら、私のところに石原さんを泊めて欲しいと言ってきたのである。
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