たぶん愛は世界を救う

ももくり

文字の大きさ
上 下
38 / 45

さよならコトリ⑥~富樫side~

しおりを挟む
 
 
「富樫裕斗さん。これはお願いでは無く警告だ。私の依頼人である中林泰造氏は、貴方の養父母と契約書を交わしており。その第三項に、こう記されているはずだ。『娘・琴梨に許可なく接近することを禁ずる』と」
「…え?契約…書?」

 その存在を知っていたクセに、いかにも初耳だという顔をしてみせる。勿論、態勢を立て直す為の時間稼ぎだったが、あまり効果は無かった。

 …どういうことだ?
 …俺がコトリの兄だとバレているのか?

「ひょっとして、契約書の存在を知らないのか。ああ、知っていたけど内容を知らないだけだな。だが、コトリ様が自分の妹だということは既に知っていたんだろう?いや、嘘を吐いても無駄だぞ。私は容易くソレを見破れる」

 急にタメ口になったことに戸惑い、返事を躊躇っていると安藤弁護士は腕時計で時間を確認し、伝票を持って立ち上がる。

「えっ?あの、もう帰ってしまうんですか?」

「そうだ。こう見えて多忙でね」

「いえ、あの…多忙っぽく見えていますけど…」

 力なく笑う俺に、安藤弁護士は早口で畳み込む。

「だったら分かるだろう?一分一秒が貴重だと。この話はこれで終了するぞ。『噂』の件は今晩また連絡するが、妙子様の件は断る。どうしても理由を知りたければ、私はそれを話せる立場にいない。

 だからキミの養父母に訊いてみるといい」

 ウチの両親に?

 それが出来れば世話が無いって!!と心の中で叫びながら、去り行く安藤弁護士の背を見詰め。帰宅するまでの道中で、腹を括った。我が家の均衡を崩すしか打つ手は無いようだし、どうやらこの辺りが限界だったのかもしれない。…平穏な家族のフリをするのは。

 兄が自殺だったということを両親に隠す俺と、俺が養子だったということを黙っていた両親。はは、どっちもどっちだな。そう簡単に話してくれるとは思わないが、とにかくコトリの為に頑張ってみよう。

 そんなことを思いながら、自分にしては珍しく大声で帰宅したことを告げ、玄関ドアを開ける。

「ただいまーっ!」
「あら、お帰りなさい」

 明らかに驚いた表情で台所から顔を出した母が、不思議そうに少しだけ首を傾げた。

「母さん、ちょっといい?話が有るんだけど」
「え?…ええ。やだ何かしら改まって。ちょっとだけ怖いわあ」

 久々の実家だったが、父は飲み会だとかで、テーブルには俺と母2人分の晩御飯が用意されており、その匂いに思わず腹が鳴る。

 ぐう~。

「あらやだ、お腹すいてるのね。話の前にご飯、食べちゃう?」
「いや…その、大丈夫、我慢出来るから。先に話をさせてくれないかな」

 母はとても勘の良い人だからたぶん察しているのだろう…これから話す内容を。だからワザと話題を逸らそうとしているのだ。それを証拠に、先程から俺の目を見ようとしない。

 …真実へのカウントダウン。
 その時が刻一刻と迫っている気がした。

 ここ数日、教壇に立ち、如何に分かり易く生徒に伝えられるかばかりを考えて過ごしたお陰か自分でも素晴らしい構成で話せたと思う。

 教育実習で偶然妹と会い。彼女をイジメと虐待から救おうとして中林泰造に電話したところ、安藤弁護士から呼び出しを受け。虐待の件だけ対応出来ないと断られた挙句、その理由は富樫の両親に訊けと言われたことまでを感情を織り交ぜずに淡々と説明した。

 母は暫く無言だったが深くて長い溜め息を吐き、それから突然こう言う。

「母さん、お前みたいに上手く話せないけど、今から話す内容は絶対に他言無用だよ。死ぬまで秘密を守ると誓えるかい?」
「ああ、もちろん誓うよ」

 コクンと頷いたかと思うと、母はチラシとペンを持って来て、そこに何やら書き始める。

「泰造さんには、子供が2人いる」
「え?3人だろ。コトリは兄と弟がいるって…」

 ふるりと首を左右に振って母は3人の名を書く。

 その上に泰造・敬子と書き加え、更にその上に清・幸代と。多分これはコトリの祖父と祖母だ。なので、俺は母の言葉を待たずに繰り返す。

「ほらやっぱり。コトリは3人兄弟だろ?」
「違うの。コトリちゃんが兄だと思ってるこの康史くんは泰造さんの子じゃない」

「は?じゃあいったい誰の子だよ」
「泰造さんの父親である、清さんの子供よ」

「えっと、それって…」
「そう、泰造さんの後妻である妙子さんは、清さんの愛人なの…たぶん、今でもね」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

辺境騎士の夫婦の危機

世羅
恋愛
絶倫すぎる夫と愛らしい妻の話。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される

Lynx🐈‍⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。 律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。 ✱♡はHシーンです。 ✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。 ✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。

下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話

神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。 つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。 歪んだ愛と実らぬ恋の衝突 ノクターンノベルズにもある ☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。 一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。 二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。 【共通】 *中世欧州風ファンタジー。 *立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。 *女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。 *一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。 *ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。 ※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

処理中です...