37 / 45
さよならコトリ⑤~富樫side~
しおりを挟む「悪いことをした奴らにはお仕置きしないとな。中林、お前はまだまだ子供なんだよ。だからもっと周囲の大人に相談して頼ればいい。まあ、取り敢えずはこの俺が、闘い方を教えてやる!!」
俺は高らかにそう宣言して勢いよく立ち上がる。
「はいッ!!宜しくお願いします」
この時のコトリの顔を、一生忘れないだろう。
ようやく頼れる人間を見つけた、安堵の表情。それは俺をも安堵させる、最高の笑顔だった。
…………
でも、俺は分かっていなかったのだ。
確かに自分は普通の大学生と比べると活動的で、人脈も多く裏事情にも詳しい特異な存在だった。だが、まだ社会的責任を負えないという事実は変えようが無く。
世の中の仕組みを、そう、“オトナの事情”ってヤツを理解せずに突っ走ってしまったのである。
「…ですから中林コトリはイジメに遭っていて、裏サイトの情報はデタラメなんです。パパ活なんか全くしていませんし、早急に削除依頼をして、それからイジメの首謀者である関口エミリたちに罰則を与えるべきではないでしょうか?!」
トレーナーである浅田先生にそう報告すると、予想外の答えが返って来た。
「うーん…。分かってると思うけどさあイジメが有ったことを認めると教育委員会からお叱りを受けるし、いろいろと大変なんだよねえ…」
「はァ?!」
もちろん、そういう話が有るとは聞いていた。だが、生徒思いの浅田先生に限ってそんなことを言うワケが無いと高を括っていたのである。
笑顔を引き攣らせながら説得を試みる俺に、浅田先生はのらりくらりと話を躱す。
「だって、たかが噂だろう?あのさァ、ウチは私立なんだぞ。パパ活の噂程度じゃ受験者数に影響は無いけど、イジメが起きているとなると、受験者数がグンと減るんだよ。そうなったら富樫、お前は責任取れんのか?」
ああ、そうか。
こんな人を俺は信じていたのか。
大事なのは生徒よりも己の保身だけ。
その醜悪な姿に幻滅した俺は、校内だけで解決することは難しいということを悟り。最後の禁じ手として、中林建設の社長…つまりコトリの父親に直接電話したのである。
『アナタの娘がパパ活をしていると、デマを広めている女生徒がいますよ』と。『これを放置すると、中林建設の企業イメージを著しく損なうことになりますから』と。
世間体を気にする中林社長は、その日のうちに安藤弁護士を手配してくれて。頼れる援軍の登場に喜んだのも束の間、残念ながら俺は、その援軍に背後からバッサリ斬られてしまうのである。
──彼は『承知しました』と答えた。
住所を訊かれてもいないのに、実家近くの喫茶店を待ち合わせ場所として指定されたことで、既に自分の身上調査が実施済みだと気付くべきだったのに。気分が高揚していたせいで気付けなかったのだ。
初めて会った安藤弁護士は、いかにもキレ者という感じの男性で、最初は聞き役に徹しており。俺の話を全部聞き終えてから静かに口を開いた。
「その噂の件はこちらで対応させて頂きます。一点確認なのですが、こうして直接私共に連絡していらっしゃったということは、富樫さんの校内での立場が悪くなっても構わない…という認識で宜しいですか?」
「はい、それはもう覚悟しています」
安藤弁護士はコクンと無言で頷き、そしてもう一度口を開く。
「申し上げ難いのですが、2つ目の件。…妙子様がコトリ様を虐待しているという話に関しては対処致しかねますのでご了承ください」
「えっ?!どうしてですか??あの、そりゃあ暴力を振るわれたとかそういう肉体的なダメージは有りませんが、言葉の暴力で精神面をネチネチ傷つけられているんですよ。俺の目測だとコトリさんはもう限界だ。このままでは確実に心を病んでしまうんです。コトリさんの父親から継母…妙子さんでしたか、その妙子さんに注意することは出来ませんか?」
表情を変えずに安藤弁護士はただ首を横に振る。俺はその顔に自分の顔を近づけて熱弁した。
「何故なんです?!もしかして俺の話を疑っているようでしたら、コトリさんに証拠を集めるよう伝えてあります。ある程度それが溜まれば、信じて貰えますよね?!」
「そういう問題では無いのです。私が言えるのは『出来ない』ということだけだ」
「だったら、虐待で児童相談所に通報しますよ。そうなって困るのはどっちでしょうね?」
「ふふ、これは強気に出たものだな」
勝った、と思ったのに。安藤弁護士は切り札を別に持っていたのだ。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
無表情いとこの隠れた欲望
春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。
小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。
緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。
それから雪哉の態度が変わり――。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる