たぶん愛は世界を救う

ももくり

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さよならコトリ⑤~富樫side~

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「悪いことをした奴らにはお仕置きしないとな。中林、お前はまだまだ子供なんだよ。だからもっと周囲の大人に相談して頼ればいい。まあ、取り敢えずはこの俺が、闘い方を教えてやる!!」

 俺は高らかにそう宣言して勢いよく立ち上がる。

「はいッ!!宜しくお願いします」

 この時のコトリの顔を、一生忘れないだろう。

 ようやく頼れる人間を見つけた、安堵の表情。それは俺をも安堵させる、最高の笑顔だった。




 …………
 でも、俺は分かっていなかったのだ。

 確かに自分は普通の大学生と比べると活動的で、人脈も多く裏事情にも詳しい特異な存在だった。だが、まだ社会的責任を負えないという事実は変えようが無く。

 世の中の仕組みを、そう、“オトナの事情”ってヤツを理解せずに突っ走ってしまったのである。

「…ですから中林コトリはイジメに遭っていて、裏サイトの情報はデタラメなんです。パパ活なんか全くしていませんし、早急に削除依頼をして、それからイジメの首謀者である関口エミリたちに罰則を与えるべきではないでしょうか?!」

 トレーナーである浅田先生にそう報告すると、予想外の答えが返って来た。

「うーん…。分かってると思うけどさあイジメが有ったことを認めると教育委員会からお叱りを受けるし、いろいろと大変なんだよねえ…」
「はァ?!」

 もちろん、そういう話が有るとは聞いていた。だが、生徒思いの浅田先生に限ってそんなことを言うワケが無いと高を括っていたのである。

 笑顔を引き攣らせながら説得を試みる俺に、浅田先生はのらりくらりと話を躱す。

「だって、たかが噂だろう?あのさァ、ウチは私立なんだぞ。パパ活の噂程度じゃ受験者数に影響は無いけど、イジメが起きているとなると、受験者数がグンと減るんだよ。そうなったら富樫、お前は責任取れんのか?」

 ああ、そうか。
 こんな人を俺は信じていたのか。

 大事なのは生徒よりも己の保身だけ。

 その醜悪な姿に幻滅した俺は、校内だけで解決することは難しいということを悟り。最後の禁じ手として、中林建設の社長…つまりコトリの父親に直接電話したのである。

『アナタの娘がパパ活をしていると、デマを広めている女生徒がいますよ』と。『これを放置すると、中林建設の企業イメージを著しく損なうことになりますから』と。

 世間体を気にする中林社長は、その日のうちに安藤弁護士を手配してくれて。頼れる援軍の登場に喜んだのも束の間、残念ながら俺は、その援軍に背後からバッサリ斬られてしまうのである。





 ──彼は『承知しました』と答えた。

 住所を訊かれてもいないのに、実家近くの喫茶店を待ち合わせ場所として指定されたことで、既に自分の身上調査が実施済みだと気付くべきだったのに。気分が高揚していたせいで気付けなかったのだ。

 初めて会った安藤弁護士は、いかにもキレ者という感じの男性で、最初は聞き役に徹しており。俺の話を全部聞き終えてから静かに口を開いた。

「その噂の件はこちらで対応させて頂きます。一点確認なのですが、こうして直接私共に連絡していらっしゃったということは、富樫さんの校内での立場が悪くなっても構わない…という認識で宜しいですか?」
「はい、それはもう覚悟しています」

 安藤弁護士はコクンと無言で頷き、そしてもう一度口を開く。

「申し上げ難いのですが、2つ目の件。…妙子様がコトリ様を虐待しているという話に関しては対処致しかねますのでご了承ください」

「えっ?!どうしてですか??あの、そりゃあ暴力を振るわれたとかそういう肉体的なダメージは有りませんが、言葉の暴力で精神面をネチネチ傷つけられているんですよ。俺の目測だとコトリさんはもう限界だ。このままでは確実に心を病んでしまうんです。コトリさんの父親から継母…妙子さんでしたか、その妙子さんに注意することは出来ませんか?」

 表情を変えずに安藤弁護士はただ首を横に振る。俺はその顔に自分の顔を近づけて熱弁した。

「何故なんです?!もしかして俺の話を疑っているようでしたら、コトリさんに証拠を集めるよう伝えてあります。ある程度それが溜まれば、信じて貰えますよね?!」
「そういう問題では無いのです。私が言えるのは『出来ない』ということだけだ」

「だったら、虐待で児童相談所に通報しますよ。そうなって困るのはどっちでしょうね?」
「ふふ、これは強気に出たものだな」

 勝った、と思ったのに。安藤弁護士は切り札を別に持っていたのだ。

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