たぶん愛は世界を救う

ももくり

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さよならコトリ④~富樫side~

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 未熟な中学生たちの考えることなんて、まったくもって単純だ。彼らの生きる世界は物凄く狭くて、そのテリトリー内で限られた人間とだけ話す。渦中にいると気付かないのかもしれないが、離れた場所から眺めていると嫌でも分かるのだ。

 そう、まるで水槽の中を泳ぐ金魚を眺めているかのように、誰が誰を追い回しているかなんて、すぐ見つけられる。

 …どうやらその女生徒の名は、関口エミリというらしい。外見は地味でパッとしないが、かなりの発言力を持っているようで、常に取巻きを連れていた。

 あれは、放課後に校内を巡回していた時のこと。受持ちクラスの前で普段の穏やかな物言いからは想像もつかないような強い口調の女子たちが、輪になって何かを話しており。その脇の階段を下りたフリをして、コッソリと踊り場でその会話を盗み聞きしてみた。

「コトリ、また大村くんに媚びを売ってたよ!」
「え~っ、嘘ォ!だって香奈の彼氏なのに?!」
「だってほら、そういう人のモノを盗るの得意じゃない、あのコってさあ~」

 おおむら??
 ああ、あのニキビ面のボヤッとした男か。

 いやいや、無いだろ~。

 だってコトリだぞ??
 肉親のひいき目かもしれないけど超可愛いし。血が繋がっていなかったら、年齢とか立場とか絶対無視して自分のモノにしてたと断言出来る。

 だって俺、スペシャル面食いだからな!!

 ったく、なんなんだよあのピンク色の頬、あのポワンとした感じが絶妙じゃねえか!唇だって化粧もしていないのにどうしていつもプルンプルンのツヤツヤなんだっつうの!極め付けが目だよ!高級猫みたいな魅力的な目をしやがってさ、あんな目で見られたら背筋ゾクゾクするって!

 ったく何時間眺めていても飽きないんだよなあ。

 そこで唾を飛ばして悪口を言っている地味女子には申し訳ないけどさ、別格過ぎるんだって。その辺の石コロに媚びを売ったり色目使うとか、そんなことしなくても男の方から寄って来るし。そういうバレバレの嘘は止めた方がいいぞ?

 …犯人が分かったものの、どうすればいい?この年頃の子たちは、虐められていることを恥だと思って口を噤むケースが多いと聞く。きっとコトリを問い詰めてもそう簡単には…

「はい!そうなんです。私は関口エミリから嫌がらせを受けています」
「あ?え、と、そ、そうか、やっぱり」

 さすが我が妹だ。兄と同じで規格外なんだな。…そんなおかしなことに感心しながらも俺は、一気に吐き出されるコトリの話に耳を傾けた。

 話を聞きながら、少しだけ安心する。仲間外れにされ謂れのない難癖をつけられても、まだコイツの心は折れていないのだ。甘やかされて育ったワリには、なかなか図太い根性をしているらしい。

「…いくら高木くんが好きだからって、普通そこまでやるかって感じでしょ?引くわ~、ドン引きだわ~。恋愛脳ってマジ怖いわ~」
「お、おう。まったくその通りだな」

 こんなときにも明るい妹が心底誇らしく、そして助けたいと思った。どんなに強がっていてもコトリはまだ15歳で、襲って来る外敵にどう立ち向かえばいいのかを分かっていないのだ。

 巣の中で小さくて頼りない羽根を一生懸命広げ、ピイピイ鳴く可愛い可愛いコトリ。その健気な姿を見ていると無性に泣きたくなり、全力で守りたい衝動に駆られたが、それをもう1人の俺が必死で抑える。

 ダメだ。四六時中一緒にいてコイツを守れればいいが、残念ながら俺はそういう立場にいない。確かに矢面に立って敵を排除することは簡単だ。だけど、それじゃあ次に何か遭った場合、傍に頼れる誰かがいなければ自滅してしまうではないか。

 そうだ、守るのでは無く闘い方を教えなければ。パワハラで死んだ兄の二の舞には絶対させない。

「あの…ですね。実は私、…継母からイジメを受けていて。そっちの方がシンドイから学校でのイジメがあまり苦にならないというか…」
「は?なんだよそれ?!」

 誰よりも幸せなはずの妹は、不幸のどん底にいたらしく。その事実に激しいショックを受けながらも俺は、実母に深く感謝する。

 そうか、きっとこれは仕組まれていたんだな。

 忘れようとしてみたが、兄の死は意外なほど自分自身を苦しめた。それほど仲の良い兄弟では無かったが、いがみ合っていたワケでも無い。

 一人暮らしの兄の元へたまに遊びに行っても良かったはずなのに、俺はそれをしなかった。いや、もしかして数少ない兄の帰省…盆と正月に会った際、異変に気付いていたにも拘わらず、無意識に考えない様にしていたのかもしれない。

 …理由は単に面倒だったから。

 もう立派な大人なんだから、自分のことは自分で解決しろよとどこか突き放していて。その結果、兄は死に、激しい後悔の念だけが残った。それはいつどこにいても、誰と笑っていても、脳裏から消え去ることは無く。このまま一生、自分の足枷となると思ったのに。

 …『だったら妹を助けなさい』と、実母は俺にチャンスをくれたのかもしれない。それで己の愚行が帳消しになるワケでもないが、それでも幾らか寝つきは良くなるような気がした。

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