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さよならコトリ③~富樫side~
しおりを挟むウチの大学の教育実習は基本、出身校で行なうことになっており。俺のトレーナーは中学時代の恩師だったから、かなり砕けた感じで接された。
>昔と違って今は何でもネットだからさ、
>生徒のことも裏サイトとかで分かるんだよ。
まだ受持ちクラスの生徒と顔合わせもしてない段階で、恩師である浅田先生がその裏サイトとやらのURLを教えてくれて。そこで入手したという情報を、ヒソヒソ声で教えてくれたのだ。
「一番の要注意人物はこの中林コトリかなあ。
虫も殺さないような顔をして、異性関係が凄いらしい。援交までしてるって話。現場を見たワケじゃないから注意なんて出来ないし、しかもこの中林の父親が有力者でな。我が校への寄付金がダントツ1番に多いから、ヘタなことをすればクビになっちまうんだよ。
いいか?富樫。
お前もあまりコイツには関わるな」
その場を収める為に『はい』と即答したが、内心は心臓バクバクで。
だって周囲から愛されまくって、幸せイッパイのはずじゃなかったのか?幸せだと思ったから、関わるまいと思ったのに。そんな荒んだ生活をしているのなら、放っておけない。…とにかく会わなければ。
しかし、こんな偶然が有るのだろうか?
こう言っちゃ何だが、中林建設のお嬢様がなぜ私立のエスカレーター式の金持ち校では無く、こんな庶民が通うような学校にいるんだよ?
「皆さん、初めまして。K大学教育学部の富樫裕斗と申します。本日より教育実習で主に英語を担当させて頂きます。先生方の御指導の…」
…教壇に立ち、テンプレ通りの挨拶をしながらぐるりと教室内を見回した俺はスグに気づく。
大半の生徒が好奇心を剥き出しにしてジロジロとこちらを見つめている中で彼女だけは違った。まるでその周辺が異空間であるかのように輝いていて、何人にも侵されない清廉潔白とした美しさがそこには有った。
一瞬だけ、座席表に目を落とし。その生徒が中林コトリ本人であることを確認した俺は、確信するのだ。あんなに澄んだ目をした人間が裏サイトに書かれていたようなことをするはずが無いと。
トラブルに巻き込まれているのだろうと直感し、迷わず行動を起こすことにした。
…………
「え…と、あの、私…」
「まあ気にすんな!ココしか煙草が吸える場所が無いもんでさ。どうせ教育実習が終わるまでの短い期間だから我慢しろよ」
昼休みに捜しまくってようやく見つけたのが、旧校舎の非常階段。そこで身を隠すかのように中林コトリはモソモソとパンを食っていた。その隣に腰を下ろし、どうにか打ち解けようと奮闘する。
最初は警戒心全開だったが、ずっと1人で寂しかったのだろう。5分もすれば自然と笑顔を見せるようになり、俺に心を開き始めたのだ。
それから毎日そこへ通った。俺を見ると明るく笑うようになったから、たぶん中林も嫌では無かったのだろう。そして、なぜお嬢様なのにこの庶民向けの学校に入ったのかもすぐ判明した。
「亡くなった母が、この学校の出身なんです。人生の中で一番楽しかった時期が中学だったとかで、思い入れが深いらしくて。兄もこの学校にムリヤリ入れられたんですって」
…“兄”も。
その言葉が、愛人の生んだ長男のことでは無く、自分のことのような気がして。
そう言えば俺は別の中学を希望したのに、母にどうしてもと懇願されてココを選んだのだが。もしかして実母とその姉であるウチの母は頻繁に連絡を取り合っていて、実母が俺をこの学校に入れるよう頼んだのかもしれない。
縁を切られてしまった自分だが、それでも少しは愛されていたのかなと思い、ふと心がポウッと温かくなった。
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