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さよならコトリ①~富樫side~
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20歳になって、怒涛のように事件が起きた。
まず、4つ上の兄が突然事故で亡くなり。
その葬式に大勢の親戚連中が集まったのだが、遠方に住んでいるとかで滅多に顔を見せない、ウチとの関係すらもよく分からないバアさんが母に向かってこう言ったのだ。
「いま思えば養子を貰っておいて良かったわね」
養子?
ウチは兄と俺の2人だけで。この話の流れから考えると、どうやらソレは俺ということになる。
マジか?!
いや、そんな、だって。
俺、母さんとそこそこ顔は似てるぞ??
…確かに父さんとは似てないけど。
ん?ん…んんん??
葬式後のザワザワしていた食事会の席が、バアさんのひと言で恐ろしいほど静かになった。それからお酌をして回っていた母が、ビール瓶をギュッと握り締めたまま、気まずそうに俯く。
どこにでも空気の読めない人間というのは存在するようで、この状況になってもまだバアさんはマシンガンのように喋り続けるのだ。
「アンタも偉いわよねえ。いくら実の妹さんの頼みだからって、子供を引き取るとか私だったら絶対に無理だわ。
でもまあ、実の子が死んで妹さんの子が残り。その妹さんも既に鬼籍に入っているとなると、もしかして神様がそう仕向けたのかもねえ…。そう言えば妹さんとは絶縁状態だったって?」
俺に聞かせたくなかったのだろう、母はボソボソと小声で何やら返事をした。バアさんは周囲に聞かせようと思っているのか、それを大声で復唱する。
「はァ?再婚相手の義両親が契約書を作ってそれにハンコを押させたのかい?!ひゃあ~、それは何とも禍々しいことで。さすがは天下の中林建設様だよ」
再婚?中林建設??
何から何まで初耳で、頭が追い付いて来ない。
確か母には兄が2人、妹が1人いたはずで。伯父さんたちとは頻繁に顔を合わせていたが、叔母さんとは一度もない。親戚間でもその話題は禁忌になっているらしく。誰もその名前を出そうとはしなかったし、俺も訊こうとはしなかった。
どうやら俺の実母はその叔母さんで、既に亡くなっているようだ。
すぐにでも母と父を問い詰めたかったが、兄を失って哀しみに暮れていることを考慮し、ひたすら我慢した。それに訊かなくても向こうから話してくれるはずと淡い期待も抱いていたのだ。
ところが両親は、いつまで経っても説明しようとしない。それどころかあの一件は無かったことにされて、気付けば既に1カ月が経過していた。
…現状維持。
それが両親の選択だったのだろう。もしかして契約書とやらのせいかもしれない。その中身は皆目見当もつかないが、どうやらこれは自力で調べるしか無いらしい。
「そんなのズバリ訊いた方が早いじゃん。だってお前には訊く権利が有るだろうよ」
大学近くのバーガーショップ。
スナック菓子を食べるみたいにチキンナゲットをポイッと口に放り込みながら羽柴は言った。
相談相手に遊び仲間の羽柴を選んだのは、この男が大手電器メーカーの会長の息子で。しかも、末っ子の愛されキャラという立場を利用して、その父親経由であちこちに融通が利くからだ。
>中林建設
>契約書
このキーワードからだと、俺1人で探るには限界が有った。だからそちら方面に強い人間を引き入れようと考えたのである。
兄ほどでは無いが、俺自身、そこそこ頭は良く。どんなことにも上手く立ち回っており。その昔、羽柴がタチの悪い先輩から金を脅し取られそうになっていた際にもその能力を発揮し、人脈を総動員して助けたという件から、それに恩義を感じている彼は喜んで協力してくれた。
「でもなあ、20歳になるまで養子ということを一切気づかせなかった両親だぞ?そんな簡単に話してくれるとは思えないんだよなあ。それに、実の母親が死んだことすら教えて貰えないって、余程の事情があるんだろうよ」
どうにか羽柴を説得して、俺は行動を開始する。
羽柴は予想外に有能で、
数日後にはアッサリと情報を得てくるのだ。
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