32 / 45
ええっ?!
しおりを挟むまったく面倒臭い男だな。
素直に思ったことを口に出すということが、どうしてそんなに難しいのか。
「俺はコトリさんが好きなんです。富樫さんからしてみれば、全然敵にならないと思いますけど。でも、本当にこの命を捧げても構わないと思うほど大、大、大好きなんです!」
「ふふっ。たいした稼ぎも無いクセに」
せ、先生ってば、そんなキツイこと…。
「稼ぎは少ないけど、食うには困りません。お金があれば幸せになれるとは限らない。それを証拠に、コトリさんの実家は散々だった。俺は、安月給ですが何が起きてもコトリさんを守り抜く覚悟は出来ていますからっ!!」
ヒートアップする浦くんとは対照的に、先生はあくまで冷静に応戦している。
「キミがそんなにコトリを好きでも、コトリの方は俺が登場しただけで揺らいでいるだろう?相思相愛ではないのに、その一方通行の感情がこの先も長続きすると考えているのかい?」
「大丈夫ですよ、コトリさんは俺のことが好きだから。でも、それを認めるのが怖いだけなんです。幸せを手に入れて、そしてまたソレを手放すことが怖くて怖くて仕方ないだけなんだ。
それが分かっているから、待てるんですよ。
富樫さんには申し訳ないですけどね、俺、コトリさんから愛されてる自信が有りますから。ふとした時に『好き──ッ!!』って表情を見せてくれますからね。
あんな可愛い顔をしてみせておいて、他の男が好きとか絶対に有り得ない」
好きって丸わかりの顔してる??
な、なにソレ??
そんなワケないしッ。
そう抗議しようとしたのに、ゆっくりと私の方を向いた浦くんの表情が…あまりにも優しくて、それは思わず泣きそうになるほどで。
狂おしいほどの何かに胸を締め付けられて、きゅっと眉間にシワを寄せてしまう。
「あは、ほら、富樫さん、見てください。この表情です。俺にしかさせられませんから、よーく堪能しておいてくださいね」
悔しい。私の方が優位に立っていると思っていたのに、実際はこのヘナチョコ男の手の平で転がされていただけだったなんて。
「あは、そんなに頬をプックリさせて。どんな顔をしていても、コトリさんは可愛いな」
「うーっ、浦くんなんか嫌いだよ」
「うん、ごめんなさい。でも俺はコトリさんのことが大好き」
「浦くんなんかに好かれても、迷惑なだけだし」
ああ、もう、何を言っても敵わない気がする。
「そっか、迷惑掛けてごめんね。でも、好き」
「わ、私なんかのどこがいいのよっ」
「全部。ほんと何をしても可愛い。いっそ食べちゃいたい。そんで俺の一部にする」
「うーっ、やだ、バカァ…」
>コホン!!
第三者の咳払いでようやく現実に戻った我らは、羞恥心にまみれながら富樫先生の方を見た。
…ああ、残酷なことをしてしまった。私のことを好きだと言ってくれる先生の前で、何という姿を見せつけてしまったのだろうか。
激しい後悔の念に苛まれていたせいでその顔を直視出来ず、喉元を見つめていたのだが。一瞬だけその視線を上に向けた私は、驚きの余り二度見する。
何故なら、失恋したはずの先生がニタニタと嬉しそうに笑っているではないか。
「…あのう、先生??何が…その、どうして」
「ああ、どうして笑っているのかって??そんなの安心したからに決まってるだろ」
はへ??
頭の中がパニック状態になっている。
…そんな私を軽くスルーして、浦くんに向かって先生はこう言った。
「よし、合格。コトリをお前に任せるよ」
…それからこうも言った。
「いいか?!何が起きてもコトリを守れよ!!もし泣かせたら絶対に許さないからなッ!!!こいつは俺の可愛い可愛い妹なんだ。一生、大事にするんだぞ」
…だから私と浦くんは2人でこう呟いた。
「いも」「うと??」
2
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる