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ええっ?!

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 まったく面倒臭い男だな。

 素直に思ったことを口に出すということが、どうしてそんなに難しいのか。

「俺はコトリさんが好きなんです。富樫さんからしてみれば、全然敵にならないと思いますけど。でも、本当にこの命を捧げても構わないと思うほど大、大、大好きなんです!」
「ふふっ。たいした稼ぎも無いクセに」

 せ、先生ってば、そんなキツイこと…。

「稼ぎは少ないけど、食うには困りません。お金があれば幸せになれるとは限らない。それを証拠に、コトリさんの実家は散々だった。俺は、安月給ですが何が起きてもコトリさんを守り抜く覚悟は出来ていますからっ!!」

 ヒートアップする浦くんとは対照的に、先生はあくまで冷静に応戦している。

「キミがそんなにコトリを好きでも、コトリの方は俺が登場しただけで揺らいでいるだろう?相思相愛ではないのに、その一方通行の感情がこの先も長続きすると考えているのかい?」

「大丈夫ですよ、コトリさんは俺のことが好きだから。でも、それを認めるのが怖いだけなんです。幸せを手に入れて、そしてまたソレを手放すことが怖くて怖くて仕方ないだけなんだ。

 それが分かっているから、待てるんですよ。

 富樫さんには申し訳ないですけどね、俺、コトリさんから愛されてる自信が有りますから。ふとした時に『好き──ッ!!』って表情を見せてくれますからね。

 あんな可愛い顔をしてみせておいて、他の男が好きとか絶対に有り得ない」

 好きって丸わかりの顔してる??

 な、なにソレ??
 そんなワケないしッ。

 そう抗議しようとしたのに、ゆっくりと私の方を向いた浦くんの表情が…あまりにも優しくて、それは思わず泣きそうになるほどで。

 狂おしいほどの何かに胸を締め付けられて、きゅっと眉間にシワを寄せてしまう。

「あは、ほら、富樫さん、見てください。この表情です。俺にしかさせられませんから、よーく堪能しておいてくださいね」

 悔しい。私の方が優位に立っていると思っていたのに、実際はこのヘナチョコ男の手の平で転がされていただけだったなんて。

「あは、そんなに頬をプックリさせて。どんな顔をしていても、コトリさんは可愛いな」
「うーっ、浦くんなんか嫌いだよ」

「うん、ごめんなさい。でも俺はコトリさんのことが大好き」
「浦くんなんかに好かれても、迷惑なだけだし」

 ああ、もう、何を言っても敵わない気がする。

「そっか、迷惑掛けてごめんね。でも、好き」
「わ、私なんかのどこがいいのよっ」

「全部。ほんと何をしても可愛い。いっそ食べちゃいたい。そんで俺の一部にする」
「うーっ、やだ、バカァ…」

>コホン!!

 第三者の咳払いでようやく現実に戻った我らは、羞恥心にまみれながら富樫先生の方を見た。

 …ああ、残酷なことをしてしまった。私のことを好きだと言ってくれる先生の前で、何という姿を見せつけてしまったのだろうか。

 激しい後悔の念に苛まれていたせいでその顔を直視出来ず、喉元を見つめていたのだが。一瞬だけその視線を上に向けた私は、驚きの余り二度見する。

 何故なら、失恋したはずの先生がニタニタと嬉しそうに笑っているではないか。

「…あのう、先生??何が…その、どうして」
「ああ、どうして笑っているのかって??そんなの安心したからに決まってるだろ」

 はへ??
 頭の中がパニック状態になっている。

 …そんな私を軽くスルーして、浦くんに向かって先生はこう言った。

「よし、合格。コトリをお前に任せるよ」

 …それからこうも言った。

「いいか?!何が起きてもコトリを守れよ!!もし泣かせたら絶対に許さないからなッ!!!こいつは俺の可愛い可愛い妹なんだ。一生、大事にするんだぞ」

 …だから私と浦くんは2人でこう呟いた。

「いも」「うと??」

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