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予想外な提案
しおりを挟む余裕を持ったオトナの男。
…を気取っているクセにビックリするくらい、その目線はキョドキョドしている。
昔は上手く騙されていた私だったが、さすがにもう今年で28歳。世間の荒波に揉まれ、人の表情を読むこともそれなりに上手くなってしまったのである。
ああ、そうか。
幼い私が神様だと崇めていた人は、一皮剥けばなんてことは無い、普通の男だったのか。きっと、先生も必死で私の思い描く理想像に寄せ。期待を裏切るまいと、頑張っていたのだろう。
たかだか21歳の社会経験も無い若造が、15歳の少女のために“強い男”を演じただけ。…そのことに気付いた私は、なぜだか妙に泣きたくなった。
あの頃の先生と自分が愛おしくて。
苦しくて哀しくて、記憶から消し去りたいほどのあの時期を。最高の思い出に変えてくれたのは、間違い無く富樫先生だ。…では私はどうやってその恩を返していけば良いのだろうか?
考えるまでも無く、答えは出ていた。
先生が私を望むのなら、それを与えれば良いだけである。先生が望むのならば、この私を。
「…あの、じゃあ、いいですよ。つ、付き合っても…その、先生と…」
何故だろう、どうしてそんなに驚くのか。先生は眉間にシワを寄せまくって私に言う。
「だっ、お前、さっきまで年下男との恋愛相談をこの俺にしていたところだぞ??その舌の根の乾かないうちに、俺と付き合うとか…。大丈夫か?もしかしてメンタルやられたか?」
こんな時にポーカーフェイスだなんて。なんだか無性に本心を暴きたくて堪らなくなり、私は正直な気持ちをぶつけてしまう。
浦くんのことは好きだけど、長く続けられる気がしないと。
この不安定な気持ちが今後も続いた挙句に破局するのであれば、今この段階で別れた方が賢いのではないかと思うと。だから先生を選びますと説明したところ、その目は大きく見開かれる。
「あ…のな、中林…。お前、自分で自分の言ってること、分かって…。いや、もういい、これは言っても分かんないな。よし、じゃあ、早く年下男と別れて来い。俺と付き合うのはそれからだ!」
「りょ、了解ですっ」
ビシッと敬礼し、早速その晩、私は浦くんに別れを告げた。
「あの先生と、付き合う?もう、仕方ないなあ。コトリさんのことだからそういうことを言い出すんじゃないかと予想はしてましたよ。…でもね、ダメです」
「えっ、なんで?!」
恋愛って、許可制だったっけ??
もしそうだったとしても、どうしてお試し交際しかしていなかった浦くんに許しを乞う必要が有ると言うのか。
「だって俺の方がコトリさんを愛しているし、絶対に幸せに出来るから。あの先生と付き合うなんてきっと時間の無駄ですよ」
「そんなの付き合ってみないと分からないしッ」
「分かりますよ、そのくらい」
「はあん?!何なのよその自信ッ。とにかく私は富樫先生と付き合うことにしたの。誰にも文句は言わせないわよ」
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だからお願い、ここで私を解放して?
…心の中でそう叫んだのに、彼にはそれが届かなかったようだ。
「仕方ないなあ。じゃあ、こうしましょう。俺と先生とで二股を掛けてください」
「は?!」
「気が済むまでどうぞジックリと二股を掛けまくってイイと言っているんですッ」
「ええっ?!」
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