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意外な再会
しおりを挟む「グルメ雑誌のイケメン特集に掲載されまして」
その声に顔を上げると、バイトの女子大生がトレイを抱えて立っていた。
「実夕ちゃん、それってまさか浦くんのこと?」
「そうですよ、茉莉子さん。最初は店長ご指名だったんですが、“独身”の括りが有ったらしくて。もう結婚間近でしょう、ウチの店長。それで浦さんに移ったんです」
「イ、イケメン??いやいや、フツメンでしょう??」
「そりゃあ茉莉子さんのご主人に比べれば普通でしょうけど。浦さん、結構イケメンですよ~」
ここで衝撃の事実判明。この女子大生、過去に浦くんに告白し、振られたことが有るのだと。しかも現在、私と浦くんがイイ仲であることは知らないようだ。
「うーん、浦さんは私が先に見つけたのになあ。他の女性に奪われるのってなんかすごく悔しい。前に告白した時は、アヤさんの方が気になるという理由で断られたけど、そのアヤさんも結婚するワケですし。もう一回、頑張っちゃおかな」
『何を?』などと間抜けな質問をしそうになり、慌てて口元を抑えた。目の前の若くてピチピチのお嬢さんはどうやら彼を狙っているらしい。
女子大生という付加価値。
女子高生とは違い、法律的にも倫理的にも手を出すことを許された存在でありながら、青春に片脚を突っ込んでいるような。そんな甘酸っぱい生き物だと私は思う。
「果物で例えるとイチゴだよねー」
「コトリさんってさ、いちいち考え方が古いと言うか、オッサン寄りじゃない?」
「私たちなんて多分、苦くて酸っぱいグレープフルーツだよねー」
「…そんで全然、人の話を聞かないしッ」
実夕ちゃんという名のイチゴはどうやら本気で浦くんに再アタックする決心を固めたらしく。そのままホールにいた浦くんに話し掛けて、周囲の女子たちからの視線を一身に浴びている。
おかしなもので。今までフツメンだと思っていたその人が、他の誰かに『イケメンです』と言われたことにより、突然そう思えてきたことに驚きを隠せない。
そういや浦くんって最近、妙な色気が出て来たというか。大勢の中に埋もれて立っていても、その姿に惹き付けられてしまうというか。なんだか動作もいちいち堂々としていて、イッパシの頼れる男っぽくなってきたというか。
…その時、彼は何気なく前髪を肘でかき上げ、視線に気づいたのか私の方を見た。それから恐ろしいほどの破壊力で微笑む。
「う、浦くんってあんなだっけ??いやあ、若い男のコって化けるんだねえ。なんだあの色っぽい流し目…からの少年っぽい笑顔。今晩、ウチでも榮太郎にさせてみよう…」
多分、彼を変えたのは私だ。それにより彼の選択肢が増えたことも否めない。
不思議な感情が湧いてくる。モヤモヤとしたドス黒い感情だ。既に私は自分が優位だなんて思っていなくて、それでも同等だくらいには感じていたのだが。
性格も良くて、家事も完璧で、
尽くしてくれるモテモテの彼氏。
対する自分はいったいどうなのかと。
確かに容姿には自信が有ったが、そんな私もあと2年で30歳だ。どんどん魅力的になる彼と、劣化していく私。
“焦り”。
そう、この感情は焦りに違いない。
…数日後、私は意外な人物と再会する。
「あ!中林さん、先日話していたシステム業者さんが今、来てくれたから。俺への事前説明が終わったら各部署のシステム担当者に紹介して回ってくれないかな」
「はい、かしこまりました榮太郎様」
いつも通りに会釈をして、振り返った途端、懐かしいその顔を見て自然と動きが固まる。
「あっ」
「え…」
10余年の長い年月を経ても、その真面目そうな外見は相変わらずで。でも、私は知っているのだ。その中身が如何に破天荒であるかを。
「と、富樫先生ッ?!」
「中林コトリ…か??」
まさか抱き着くワケにもいかず、でも、どうにかその喜びを伝えたくて。私は咄嗟に一歩だけ前へと進み、衝動的に先生の右手をギュウッと握り締めた。
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